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七話

 この物語はフィクションです。

 颯太と狼が去った方を二分程眺めたが、戻って来る様子は無い。

「はぁ〜、疲れたぁ〜」

 そう言って尋は、その場で腰を下ろした。

 左側から草を掻き分ける音がして尋は振り向く。

 そこには少し顔色が悪い美紗が居た。

 その姿を見た尋は真っ先に謝る。

「ごめん、また辛い思いさせて……」

「ううん、大丈夫。

 ちょっと気持ち悪くなっただけだから、少し馴れたみたい」

 強がっている美紗に尋は感謝する。

「そっか、ありがとう」

「それより怪我してない?」

「大丈夫、何ともない」

 身体を動かしながら確認した尋を見て、美紗は胸を撫で下ろす。

「良かった」

「そういえば、美紗は何処に居たの?」

 最初に居た場所からでは的確に支援することが出来ないことに気付き、尋は尋ねた。

「木の上だよ」

「成る程。

 ん? どうやって登ったの?」

「こうやって……」

 そう言った美紗の身体が、ふわりと三十センチ程浮かぶ。

「本当に便利な能力だね」

「まだ、ゆっくりでしか動けないけどね」

 その言葉通りに、美紗の身体がゆっくりと地面に着いた。

「さてと、そろそろ移動しようか」

「そうだね」

 立ち上がる尋の背後で草が揺れる音がし、二人はそちらに目を向ける。

 そこには、全高1メートル、全長3メートル、幅70センチは有りそうなサラマンダーが居た。

「うわっ、赤いトカゲ!!

 何だっけ?」

「サラマンダーだよ、尋君」

 サラマンダーが舌を出すと、口の周りから火が零れる。

「いや、待て、待って。

 こんな所で火は駄目だって」

 必死な声を出す尋を無視し、サラマンダーは息を吸い込んだ。

 止まる気配を微塵も感じられず、尋は急いで壁を作る。

 大きさは五メートル四方、強度はとにかく硬く。

 サラマンダーが口から勢い良く火を吐き、壁にぶつかった。

 壁が見事に防いだかと思われたが、次第に溶け出し、さらに周りの草が燃え始める。

 火が燃え広がらない様に、美紗の風が辺り一面の草を刈り取った。

 尋は重なり合う様に同じ壁をもう一枚作る。

 しかし、火の勢いは止まらずに壁を溶かしていく。

 突風が火を消そうと吹き荒れたが、多少揺らしただけで無意味に終わった。

 更に壁を追加した時、漸くサラマンダーが火を吐くのを止める。

 突風でサラマンダー自体を吹き飛ばそうとするが、びくともしなかった。

「どうするの?」

「俺の能力じゃ防げないみたいだし、逃げるか」

「どっちに逃げるの?」

 獣道から此処まで来た方角はサラマンダーの横を通らないと戻れない。

 かといって、先程颯太が逃げた方や、木が密集していて通るのに苦労しそうな方には進めない。

 奥の方へと進む、それしか選択は残っていなかった。

「奴と同じ方へは行けないから、奥に進もう」

「分かった」

 そんな会話をしている間にサラマンダーがもう一度息を吸い込む。

 それを見た尋が慌てて壁を作ると同時に、美紗の風がサラマンダーにぶつかる。

 サラマンダーにぶつかった風は、浅く皮膚を切り裂くだけに終わった。

「行こう」

「うん」

 尋が先頭になって奥の方へと走り出す。

 壁を溶かし終え、火が迫って来たが既に走り出していた二人には届かなかった。

 既に届かないと分かったサラマンダーは、火を吐きながら二人を追いかけて走り出す。

 壁で防いだり刈り取ったりして、火事にならないようしていたのだが、サラマンダーが移動した所為で、ついに草や木に火が移った。

 サラマンダーと共に火が周りの草や木を燃やしながら二人へと迫って来る。

「熱っ、美紗は大丈夫?」

「うん、風で防いでるから平気だよ」

 美紗の服は纏っいる風の所為で不自然に揺らめいていた。

「そっ、熱っ、か。

 やっぱり便利だね」

「ごめんね、自分一人で精一杯」

 二人は後ろを時折振り返り、サラマンダーと周りの火を見ながら走る。

 火を吐きながら走っている所為か、サラマンダー自身は余り速く無く徐々に差が開ていく。

 しかし、火が燃え広がる速度は速く、二人の周りを取り囲み始めていた。

 そこへサラマンダーが火を吐くのを止め、走るのに専念した途端、差がどんどんと縮まる。

 二人は近付いて来る足音と火から逃れる為に、振り返りながら走るのを止めた。

 すると、森の奥へと進んでいる筈だが、何故か二人の先に光が見えた。

 二人は導かれる様に、光へ向かってひたすら全力で走る。

 先に森を抜けた尋は、余りの明るさに目を瞑って立ち止まった。

 そこへ後から走って来た美紗がぶつかり、二人とも転ぶ。

「痛って〜」

「こっちだって痛いよ。

 もう、いきなり止まらないでよね、尋君」

 二人が立ち上がりながら前を向くと、そこには向こう側が見渡せられない程巨大な湖が広がっていた。

 湖の中は青く澄み切っていて、太陽の光を反射し煌めいている。

 二人がその光景に目を奪われていると、星奈から声が掛かる。

『戦闘禁止区域に入りましたので、気をつけて下さい』

 声のした右側を向いた二人は、また目を奪われることになる。

 そこには、こぢんまりとしたログハウスが建っていた。

「危険性は無いよな?」

『大丈夫です』

「なら、中に入って休みながらで良いかな?」

「うん、私も休みたい」

 二人は重い足取りでログハウスの中へと入っていった。


 入って直ぐはダイニングキッチンとなっていて、左側にキッチン、真ん中寄りにテーブル一脚と椅子二脚、奥に扉が二枚。

 左側のドアを開けると三点ユニットバスとなっているが、実際にはバスタブは無くシャワーのみ。

 右側のドアを開けるとベッドルームなっていて、シングルサイズのベットが二台。

 ログハウスの中が安全かどうか一通り確認した二人は、ダイニングキッチンに戻る。

「とりあえず、椅子に座って話そうか」

「うん」

「お疲れ様」

 軽く頭を下げて尋がそう言うと、美紗も同じ仕草で返す。

「お疲れ様」

「先ずは戦闘禁止区域について詳しく聞きたいんだけど、良いかな?」

「良いよ、任せる」

 その言葉に美紗は軽く頷いた。

「入ってから二時間は戦闘禁止、ってことは入って直ぐ出ても続くのか?」

『いいえ、中に居る間でも二時間過ぎれば無効、という意味です』

「じゃあ、エネミーが中に入って来る可能性は?」

『有りません、しかし先程の様に操られている場合は有ります。

 ですが、戦闘禁止は適用されます』

 尋は少しの間黙考し、美紗に話し掛ける。

「中で待ち伏せされる、以外は安全かな?」

「そうだね。相手だけは攻撃出来るかも知れないし」

『言い忘れてましたが、一度入って出ると、二時間以上経たなければ再度入れません』

「それなら居続けた方が安全だな。

 けど、誰にも遭遇しない可能性が高いか」

「休憩、避難の時だけにした方が良いかもね」

 美紗の言葉に尋は軽く頷いた。

「次はフィールドについてだけど……。

 次のフィールドをあらかじめ知ったりすることは出来ないのか?」

 その言葉に少し悩み、星奈は答える。

『分かりません』

「どっちの意味だ?」

『能力やアイテムで知ることが可能かも知れません。

 という意味で分かりません』

「しょうがない、か。

 フィールドについて何か聞きたいこと有る?」

 尋は星奈が詳しくない、という事を思い出して溜息を付き、美紗に尋ねた。

「えっと、ね。

 フィールドが変わる時って、どういう感じなのかな?」

『光に飲み込まれて、光が収まると別のフィールドになっています。

 意識が無くなったりはしません』

「私達に準備とかは要らないみたいだね」

「今の所は何も出来ないか」

 その言葉に美紗は頷いた。

「と、これで話し合いは終わりかな。

 俺は後で大丈夫だから、先に汗とか流して来ると良いよ」

「でも、尋君は汚いよ?」

「汚い……」

「えっ? あっ!?

 そういう意味じゃなくて……」

 自分の失言に気付いて、両手を振って慌てて否定する美紗の様子に、尋は必死に笑いを噛み殺す。

「分かってるよ。

 確かに汚れてるから、俺が先に入ると中も汚くなるしね」

「じゃあ、お言葉に甘えて、先に使うね」

「ごゆっくり」

 美紗は立ち上がって左の扉の中へと入って行く。

 そのまま数分経ち、微かに水の音が聞こえて来る。

 居た堪れなくなった尋はログハウスの中から抜け出した。

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