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四話

 この物語はフィクションです。

「星奈が二人居るのは何か変な感じがする」

「変というか違和感みたいなのがあるよね」

 元から居たのは二人の目の前に浮かび、次に現れたのは美紗の肩の上に腰掛けている。

『では、一人になりましょうか?』

 二人の星奈が同時に喋る。

「あ〜、お願い」

「なら、私からも」

 二人の答えを聞くと、肩の上に腰掛けている方が次第に薄くなり消えた。

「さてと、今後の方針を決めようか」

「その前にお互いの能力とか把握しとこうよ」

「そっちからやった方が決めやすいか」

 二人は腕輪を触って起動させ、お互いのアビリティを確認する。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 風

 風を操ることが出来る。

 無風状態では使えない。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「美紗の能力は使い易そうだね」

「そうかな、無風だと使えないよ?」

 その言葉に美紗は首をちょこっと傾けながら答えた。

「わざわざ無風って書いてあるから、手や足を動かしただけの微風でも使えると思うけど?」

「どうして分かったの?

 私は無風の時に手を動かして、偶然気付いただけだよ」

 驚いた表情をしつつ、美紗は感心していた。

「ん〜、ルール説明とかが不親切なのは、自分で考えろってことなんだと思う。

 だから、無風っていうのはヒントだったんじゃないか、って思ったんだ」

 その言葉を聞いて、美紗は思い出すような仕草をする。

「そういえば最初に、力と知恵を振り絞り、って言ってたね」

「だから、ルールには抜け道や落とし穴があると思う」

「そうだね、気を付けないと。

 それで、尋君の能力は二つも有るけど、何かしたの?」

 早速疑って来たことに、尋は笑いながら否定する。

「違うよ、これは元から二つ持ってたんだ。

 でも、さっきアイテムを手に入れて使ったよ」

「そっかぁ〜。

 それで、何が手に入ったの?」

 興味津々といった感じで美紗は聞いた。

「触らずに腕輪を音声で起動出来る機能、サーチで方角が分かる機能」

「便利そう。

 そういえば、戦闘禁止なのに、エネミー倒したの?」

「倒したというか、能力で壁を作って、そこに猪が突進して自滅した。

 って感じかな」

「正当防衛ってこと?」

 首を傾げつつ聞いた美紗に、考えながら尋は答える。

「どうだろう、能力が防御だったから攻撃と判断されなかったのかもね」

「ところで、エネミーって動物なの?」

「俺が遭遇したのは動物だったけど、詳しくは分からない」

 その質問に尋は首を振った。

「モンスターみたいなの想像してた。

 どうしよう、犬や猫だったら攻撃出来ないかも……」

 その言葉を聞いた尋は、不安に思い、少し尖った口調で尋ねる。

「あのさ、攻撃系の能力じゃない俺が言うのは間違ってるかも知れないけど、それで人に攻撃出来るの?」

 その質問に美紗は震えた声で話し出す。

「そんなこと、分からないよ。

 一人のままじゃ無理かも、って感じたから共闘しようと思ったの。

 尋君から、エネミーの話を聞いた時、少しずつ慣れていこう、って考えを変えることにした。

 けど、モンスターじゃなくて、動物だったら人と変わらないよぉ……」

 そう言って美紗は泣き出し、座り込んでしまった。

 その様子を見た尋は、自分を呪いたくなった。

 そのまま美紗の泣いている姿を見ているのが辛くなり、尋はそっと抱きしめ、優しく頭を撫でる。

「ごめん、美紗の気持ちを少しも考えて無かった。

 俺の能力はあれだからさ、攻撃出来る能力の美紗と共闘出来て良かったと思ったんだ。

 その気持ちの中にはきっと、自分で人を傷つけないで済む、って身勝手な思いが少なからずあった。

 だから、美紗が戦えないみたいなことを言ったから、不安になって責めるようなことを言ってしまったんだ。

 美紗の心を傷つけて、ただ謝っただけで赦されるとは思えないけど、ごめんなさい」

 そう締めくくり、美紗からゆっくりと離れ、尋は土下座をした。


 そのまま少し経ち、何処からか低い唸り声が聞こえてきた。

「くそっ、なんでこんな時に」

 そう良いながら、尋は立ち上がり五感を強化する。

 強化された聴力と視力のお陰で、それに気付くことが出来た。

 大きさは二メートル四方、強度は何よりも硬く。

「美紗っ!!」

 それは美紗の背後に素早い動きで迫って来る。

 能力が間に合い、鋭い爪による攻撃は美紗には届かなかった。

 見えない壁に阻まれ、強襲に失敗したそれ――狼は距離を取る。

 突然の状況変化に付いて行けず、困惑している美紗を庇う為、尋は前に出た。

 その行為に対するかの様に、先程の狼の後ろから四匹の狼が姿を現した。

 そのまま狼達は半円を描くように二人を包囲する。

 尋は何時でも能力で壁を作れるように、集中し始めた。

 最初は目の前の狼が攻めて来る。

 それを尋は素早く作った壁でその行動を阻む、その視界の右端に別の狼が動いたのが見えた。

 同じように壁を作り、行動を阻む。

 そうして視界に映った狼達の行動を次々に阻んでいった。

 このままでは無理だと思ったが、立ち上がることが出来ない美紗は、静かに尋の邪魔にならないように声を掛ける。

「尋君、このままだと……」

「大丈夫、攻撃が無意味だと分かれば、狼達も居なくなるさ」

 それはただの願望だったが、美紗に攻撃させる訳にはいかなかった。

 しかし、尋にもこのままではじり貧だということは、分かっていた。

(作っているのが壁だから、いちいち相手を見て作らないといけない。

 なら、ドーム状のバリアをイメージすれば……?)

 そう考え、狼達の攻撃に隙が出来るを待つ。

 程なくして、狼達の攻撃が止まり、半円の包囲に戻った。

 それを確認し、新たなシールドをイメージする。

 大きさじゃなく、半径は俺を中心とした三メートルでドーム状、強度は何よりも硬く。

 そうイメージした瞬間、今まで味わったことが無い頭痛がして、倒れそうになった。

 何とか踏ん張って耐え、深呼吸する。

 明らかな隙に何もして来ない狼達を不思議に思い、尋は前を見た。

 その瞬間、狼達は一斉に上を向き吠える。

 慌ててもう一度イメージするが先程と同じ頭痛がして、あと少しのところで、上手くいかなく失敗した。

 そうしている内に、さっきの声に呼び寄せられ、新たに狼が五匹現れる。

 そのまま包囲の輪に加わっていき、さっきの半円と違い、今度は完全に包囲された。

 その様子を見て、諦めずに三度、イメージする。

 半径は俺を中心とした三メートルでドーム状、強度は何よりも硬く。

 相変わらず、頭痛はしていたが今度は成功した。

 その瞬間、狼達が一斉に襲い掛かって来たが、バリアに阻まれて攻撃は届かない。

 今度は入れ替わり立ち替わり、様々な場所から攻めて来るが、攻撃は全く届かない。

 しかし、バリアを維持している間も頭痛が続いてる尋は、今にも倒れそうだった。

 その様子を見て、美紗は立ち上がった。

 後ろで美紗が立ち上がったのを感じ取った尋は、優しく声を掛ける。

「無理しなくて良いから」

「尋君だけ辛い思いをしているのに、私だけが怯えてられないよ」

 振り向き、美紗の真剣な表情を見た尋は頷く。

「分かった」

「このバリアみたいなのがある所為で、私の能力が狼達が居る外には使えないみたい。

 だから、私が合図すると同時に消して欲しい」

 それは、防御するのを止めて、狼達の攻撃に無防備になるということだった。

 迷っている尋の目を見詰め、美紗はもう一度お願いする。

「お願い、私を信じてバリアを消して欲しい」

「ごめん。

 さっき、分かったって言ったばかりなのに」

 その言葉を聞いた美紗は、悲しそうに顔を伏せた。

「だから、美紗を信じる」

 その言葉を聞いた美紗は、お礼を言う。

「ありがとう。

 三カウントで良い?」

「全て任せる」

「分かった。

 三、二、一、今!!」

 タイミングを合わせ、バリアを解く。

 すると、美紗を中心に風が集まっていく。

「行っけぇ〜!!」

 その言葉とともに集まっていた風が狼達に向かっていった。

 風に触れた狼達はカマイタチの様な傷が次々と刻まれていき、体中から血を噴き出し、苦痛そうな声を出しながら倒れていく。

 倒れていった狼達は、跡形も無く消えた。

「うっ……」

 狼達を見ていた尋は、その声を聞き、口を押さえてうずくまる美紗を見た。

「起動、アイテム、ガーゼ。

 本当はハンカチがあれば良かったんだけど……」

 そう言ってガーゼを美紗に渡しながら、尋は背中を摩る。

 そのまま短くない時間が流れ、美紗が口を開く。

「ありがとう。

 ごめんね」

「こっちこそ、ありがとう。

 そして、無理させてごめん」

 二人してお礼と謝罪をしつつ、初めての戦闘を終えた。


 その様子を遠くから双眼鏡で眺めている男が居た。

「ふむ、こんな短時間で自力で能力を進化させたのか。

 厄介な相手になるかも知れないな、今の内に始末するべきか……。

 いや、上手く誘導してあの化け物の相手をさせた方が良いか。

 あの化け物を作り出した責任の一端は彼にあるのだから……」

 その男の不穏な言葉は、誰の耳にも届くことは無かった。

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