二話
この物語はフィクションです。
目を覚ますと辺り一面に木が生えていた。
きっと此処は森か林の中なのだろう。
自分の姿を見ると、木に背中を預けた姿勢で座っていた。
服装は白い無地の長袖Tシャツ、青いジーンズ、白を基調としたスニーカー、自分の普段着だった。
ただ一つ、左手首の銀色に輝く腕輪だけは知らなかった。
立ち上り、空を見上げると太陽が覗いているので、今は朝か昼だと判断する。
まさか、何の説明も無しに森林の中に置き去りされるとは。
(待つべきか、動いてみるべきか。
どうしよう?)
そんなことを考え始めた途端、腕輪が青色に光った。
深く考えずに腕輪に触ってみると、目の前に手の平サイズの妖精か何かが、いきなり現れた。
その妖精(?)は黒髪のツインテールで、レースをあしらった白いワンピースを着ている。
そして、薄緑色の燐光を放っていた。
『初めまして、ナビゲーターの星奈です。
これから、宜しくお願いします』
「よ、宜しくお願いします」
思わず、咄嗟に答えてしまった。
こっちから質問しようとする前に、勝手に話し始めた。
『ルールの説明がありますので、腕輪に触れて下さい。
あっ、時間が無いので、質問は後から纏めてお願いします』
色々と聞きたいことがあったが、後から答えてくれるみたいだし、無視してルールを聞き逃すのが嫌だったので腕輪に触れる。
すると、音も無く目の前にウインドウが開き、機械音声が聞こえてきた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ルール
共通
最後の一人となった者は、願いを一つだけ叶えられることが出来ます。
プレイヤーには特別な力と便利な機能を備えている腕輪型の装置が与えられます。
共闘、闇討ち、何でも自由です。
失格の条件は、本人によるリタイア宣言、戦闘不能になる、ルール違反となっています。
今回は参加者が多く、予選、本選と分かれています。
予選の内容は、バッチ集めです。
バッチは、プレイヤーを倒すことでのみ入手出来ます。
期間は十日で、一人五個以上集めて下さい。
期間以内に本選への出場者枠が全て決まった場合、期間以内にバッチを集められなかった場合は失格となります。
本選の内容は、最後の一人が決まるまでのバトルロイヤルです。
個別
『一』サーチ機能について
半径一キロメートル以内に戦闘中のプレイヤーが居れば、腕輪から自動的に連絡が有ります。
『二』共闘について
まずは、共闘したい相手の名前と顔を認識して下さい。
そして、お互いが望めば、何時でも何処でも共闘することが出来ます。
共闘状態を解除する場合は、お互いが望めば、直ぐに解除することが出来ます。
ただし、片一方だけが望んでいる場合は二時間経つまでは共闘状態を解除することが出来ません。
『三』不明
『四』不明
『五』不明
『六』不明
『七』不明
『八』エネミーについて
フィールド内をエネミーがうろついて居ます。
基本的にはプレイヤーから仕掛けない限りは、襲って来ることは有りません。
倒すと役に立つ何かが貰えるかも知れません。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『なお、分からないことがあれば、ナビゲーターに聞いて下さい。
それでは、力と知恵を振り絞り、願いを叶えて下さい』
その言葉とともにウインドウは閉じた。
『質問は有りますか?』
不親切過ぎるルールの所為で何から質問したら良いか分からない。
早速、知恵を振り絞ることになりそうだった。
「他のプレイヤーについて知りたい」
『他のプレイヤーは貴方と同じで、試練を受けた人のことです』
自分一人だけの試練だと思っていたが、どうやら違うみたいだ。
「俺と似たような境遇の奴が一杯居るのか?」
『基本的にはランダムで選ばれます。
ただ、貴方は不幸な身の上だったので、優先的に選ばれました。
しかし、他の方の境遇や願いは教えられません』
もしかしたら、似たような境遇の人も居るかも知れない、と。
(後悔するって、こういうことか……。
だけど、折角のチャンスを諦める訳にはいかない)
気持ちを改めて、他のことを聞いた。
「先程のルールは、また見れるのか?」
『はい。腕輪の機能で見れます』
あの短時間でルールを覚えるのは不可能だった。
もし、無理と言われていたら、諦めていたかも知れない。
『では、腕輪の機能を説明します。
システムとしての連絡は青色の光、サーチ機能としての連絡は赤色の光を放ちます。
基本は、持ち主が腕輪を手で触れてからでないと機能しません。
操作方法は、手を使ったタッチパネル式の仮想デスクトップと、思考を使う脳内映像の好きな方を選べますのです。
初期設定は仮想デスクトップです。
基本機能はステータス、アビリティ、アイテム、ルールです。
腕輪の説明は以上ですので、希望の操作方法を教えて下さい』
一気に説明された腕輪の機能を何とか、理解する。
「操作方法は仮想デスクトップでお願い。
操作に慣れたいから、質問は後でしたい」
脳内映像だと、動きながらの操作が難しいと思い、仮想デスクトップにした。
『分かりました。
このまま待機してますので、質問があれば声を掛けて下さい』
その言葉に頷きながら、腕輪に触れる。
先程と同じで、音も無くウインドウが開いた。
そして、ステータスから順番に触れていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ステータス
日付 1日目
時刻 10:15:05
人数 337人
バッチ 1個
アビリティ
シールド
他人の目には見えないシールドを作り出せる。
強度や規模は使用者に左右される。
強化
自分や他人の力を強化する。
身体能力、自然治癒力も高めることが出来る。
汎用性は高いが、複数に使用出来ない。
アイテム
応急セット(絆創膏、包帯、ガーゼ、消毒液)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ルールは先程と変わらかった。
「星奈、個別ルールについて聞きたい」
『書かれている以上のことは知りません。
他のプレイヤーと情報交換すれば判明します』
「難しそうだけど、情報交換は、お互いにメリットが有るし大丈夫かな」
そういえば、個別ルールに気になる情報があった。
「エネミーって?」
『エネミーはプレイヤー以外の生物全てです』
「生物全てか。
となると、ナビゲーターも?」
『ナビゲーターはシステムの一部で、他のグループプレイヤーからは見えません』
「他のグループ?」
また、説明されてないことが出て来た。
『ナビゲーターは何人もプレイヤーを担当しています。
私は今回が初仕事なので、十人程しか任されてません。
そして、基本的な情報しか知りません』
「もしかして、ナビゲーターに優劣があるのか?」
『いいえ、貴方が新しい情報や物を手に入れれば、私も学習します。
それに、情報面で不利な代わりに有利なアビリティが与えられています』
一応は平等になっているのか。
(残るは一番大事な力のことを聞かないとな)
「力はどうやったら使える?」
『イメージして下さい』
少し待っても、それ以上の説明はされない。
(イメージね。
簡単なようで難しそうだ)
「エネミーも居るし、ファンタジーだな」
『えぇ、願いを叶える試練の為にある非現実世界ですから。
夢かゲームの中に居るとでも思って下さると分かり易いです。
疲労は感じますが、空腹になったり、排泄は必要ありません』
食事のことは、考えつかなかった。
まぁ、いきなりサバイバルしろ、なんて言われても無理だったので、非常に助かったが。
気になったことを一通り聞いたら、この時を待っていたかのように腕輪が赤色に光った。