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第5話 ストライカー・悠斗

土曜日の午後。


横浜エンゼルのグラウンドでは、Bチームの練習が始まっていた。


コーチが笛を鳴らす。


「集合!」


Bチームのコーチの名前は――


多田ただ まさる


昔サッカーをやっていたらしいが、今は子どもたちの指導をしている。


少し厳しいが、面倒見はいい。


俺――東雲 海も輪の中に入る。


多田コーチが言う。


「今日は大会のメンバーを決める」


その言葉に、みんなの顔が引き締まる。


横浜エンゼルでは、基本的に大会はAチームが出る。


でも今回は違う。


Bチームにも大会がある。


「まずDF」


コーチが名前を呼ぶ。


「センターバック」


「茂久田 茂!」


「はい!」


前に出てきたのは、体の大きい少年だった。


Bチームの中では一番守備がうまい。


体も強い。


空中戦もそこそこ。


ただ――


足元はあまりうまくない。


でもDFとしては頼れる。


多田コーチが続ける。


「右サイド」


「細田 三知!」


「はい!」


細田は足が速い。


とにかく走る。


技術は普通だが、スタミナがある。


「左サイド」


「北 幸四郎!」


「はい!」


北は落ち着いた選手だ。


パスが丁寧。


周りもよく見ている。


俺は心の中で思う。


(悪くないチームだ)


Bチームとしては、むしろバランスがいい。


多田コーチが最後に言う。


「そして中盤」


一瞬、視線が集まる。


「東雲 海」


「はい」


俺は前に出る。


コーチが少しだけ笑う。


「お前がゲーム作れ」


「できるか?」


俺は迷わず答える。


「できます」


その言葉に、少しだけざわめきが起きた。


小三でそんなこと言うやつは普通いない。


でも俺は本気だった。


試合は――


作れる。


ただ一つ。


問題がある。


多田コーチが最後の名前を呼ぶ。


「FW」


「悠斗!」


その瞬間。


一人の少年が前に出てきた。


「はい」


声は小さい。


体も小さい。


足も速くない。


でも――


俺は知っている。


(こいつか)


悠斗。


未来の記憶。


そこに、この名前がある。


才能があるのに評価されなかった選手。


技術も普通。


身体能力も普通。


でも――


ゴールの嗅覚だけは異常。


多田コーチが言う。


「悠斗、お前は前で点取れ」


「はい」


悠斗はうなずく。


でもチームメイトの反応は微妙だった。


「大丈夫?」


「点取れるの?」


そんな空気。


俺は悠斗を見る。


悠斗はボールを足で軽く転がしていた。


そして――


ほんの一瞬。


ゴールの方向を見た。


その目。


(やっぱりだ)


あの目は――


ストライカーの目だ。


ゴールしか見ていない。


俺は少し笑った。


面白い。


このチーム。


もしかしたら――


思ったより強い。


練習試合が始まる。


ボールが動く。


俺は中盤で受ける。


トラップ。


顔を上げる。


そして――


悠斗を見る。


動きが少ない。


でも、分かる。


どこに走るか。


どこにスペースができるか。


(そこだな)


俺はボールを蹴る。


スルーパス。


DFの間。


悠斗が走る。


ボールが足元に収まる。


キーパーと1対1。


悠斗は一瞬だけ止まった。


DFが追いつく。


普通なら焦る。


でも――


悠斗は冷静だった。


軽くシュートフェイント。


キーパーが動く。


その逆へ。


コロコロと転がるボール。


ゴール。


ネットが揺れる。


「え?」


「今の入った?」


チームメイトが驚く。


俺は静かにうなずいた。


(やっぱりだ)


悠斗は振り返る。


俺を見る。


少し驚いた顔。


「今のパス……」


「なんで分かった?」


俺は笑う。


「なんとなく」


でも本当は違う。


俺には見える。


悠斗のゴールの匂いが。


そしてそのとき。


グラウンドの端。


一人の大人が試合を見ていた。


横浜エンゼルAチームの監督。


西都 栄太。


腕を組んでつぶやく。


「Bチーム……か」


視線は一人の少年に向いていた。


東雲 海。


このとき、まだ誰も知らない。


この二人――


海と悠斗が。


横浜エンゼルの歴史を変えることを。

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