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第4話 真ん中の景色

横浜エンゼルのグラウンド。


土の匂いと、朝の冷たい空気。


Bチームの練習が始まろうとしていた。


コーチが選手たちを集める。


「今日は練習試合の続きだ」


昨日の試合。


Bチームは勝った。


しかも、内容も良かった。


その理由は――


一人の少年。


東雲海。


コーチは腕を組みながら海を見る。


「海」


名前を呼ばれる。


「はい」


「今日はポジション変えるぞ」


周りの子どもたちがざわつく。


「え?」


「どこやるの?」


コーチが言った。


「真ん中だ」


一瞬、空気が止まる。


つまり――


MF。


小学生のサッカーで一番ボールが集まる場所。


チームの中心。


俺は一瞬だけ驚いた。


でもすぐにうなずく。


「わかりました」


コーチが少し笑う。


「昨日のプレー見てたらな」


「サイドで使うのもったいない」


周りの子どもたちがざわざわする。


「海が真ん中?」


「いきなり?」


でもコーチは真剣だった。


「試してみる」


それだけ言った。


試合が始まる。


相手は昨日と同じチーム。


笛が鳴る。


キックオフ。


俺はセンターサークルの近くに立つ。


そして――


顔を上げる。


その瞬間。


ピッチが広がった。


選手の位置。


スペース。


ボールの動き。


全部が見える。


(やっぱりここだな)


中盤。


ここが一番、試合が見える。


ボールが転がってくる。


トラップ。


トン。


相手が寄ってくる。


でも焦らない。


横へパス。


味方が受ける。


すぐにリターン。


ワンツー。


相手が一人外れる。


(ここ)


前を見る。


右サイドが空いている。


ロングパス。


ボールがきれいに通る。


味方が受ける。


クロス。


シュート。


――外れた。


「おしい!」


でも流れは完全にこっちだ。


俺はまたボールを受ける。


今度は相手が二人来る。


でも怖くない。


ボールを小さく触る。


トン。


相手が足を出す。


その瞬間。


ボールを引く。


二人の間を抜ける。


「うわ!」


観客の親が声を上げる。


俺はそのままドリブル。


中央へ。


ゴール前。


DFが寄る。


でもその背後。


スペース。


スルーパス。


FWが飛び出す。


シュート。


ゴール。


「よっしゃあ!」


Bチームが盛り上がる。


1-0。


チームメイトが俺のところに来る。


「海すげー!」


「今の見えてたの?」


俺は軽く笑う。


「なんとなく」


でも本当は違う。


全部見えている。


試合の流れ。


相手のミス。


未来の動き。


まるで――


上からピッチを見ているみたいに。


ベンチを見る。


コーチが腕を組んでいた。


そして小さくつぶやく。


「なんだこいつ…」


小学生とは思えない。


そんな顔だった。


試合は続く。


でも、もう勝負は決まっていた。


ボールが回る。


俺を中心に。


パス。


ドリブル。


スルーパス。


気づけば――


3-0。


試合終了の笛が鳴る。


Bチームの勝利。


チームメイトたちは喜んでいる。


でもコーチは静かだった。


俺を見ながら言う。


「海」


「はい」


少し間を置いてから言った。


「お前……」


「なんでそんなに見えてるんだ?」


俺は少し考える。


そして答えた。


「さあ」


「たぶん」


ボールを見る。


転がるボール。


その動きが、未来につながる。


俺は小さく言った。


「サッカーが好きだからです」


コーチは何も言わなかった。


ただ一つだけ思っていた。


この少年は――


Bチームにいるレベルじゃない。


そしてもう一つ。


もしこのまま成長したら。


この子は――


とんでもない選手になる。

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