第3話 視えるピッチ
土曜日の朝。
横浜エンゼルのグラウンドには、いつもより多くの人が集まっていた。
今日は練習試合。
しかも――
Bチームの試合だ。
Aチームの試合はよくあるが、Bチームが外のチームと試合することはあまりない。
コーチが選手を集める。
「今日は20分ハーフ!」
子どもたちが「はい!」と返事をする。
俺――東雲海もその中にいた。
まだ入って数日。
だけど、今日の試合には出ることになった。
ポジション表を見る。
FW
MF
DF
俺の名前は――
右サイド。
(まあ、そうだよな)
いきなり真ん中を任されるわけがない。
でも問題ない。
試合に出られるだけで十分だ。
コーチが言う。
「いいか、まずは楽しめ!」
小学生らしい言葉。
でも、俺は少し違うことを考えていた。
(この試合で分かる)
俺の今の力が。
審判が笛を吹く。
試合開始。
相手チームがボールを回す。
Bチームの仲間たちは慌てて追いかける。
「行け行け!」
「取れ!」
小学生のサッカーだ。
みんなボールに集まる。
団子サッカー。
俺は少し離れて立っていた。
その瞬間。
頭の中にピッチが広がる。
選手の位置。
空いているスペース。
パスコース。
全部が見える。
(ここだ)
味方がボールを奪う。
すぐに叫ぶ。
「右!」
ボールが転がってくる。
俺はトラップする。
トン。
ボールが足元で止まる。
その瞬間、相手が突っ込んでくる。
でも――
(遅い)
軽くボールを横へ。
相手が空振りする。
一歩前へ出る。
前を見る。
FWが走っている。
でもまだパスじゃない。
その手前。
空いたスペース。
俺はそこへボールを蹴る。
スルーパス。
FWが追いつく。
そのままシュート。
だが――
キーパーに止められた。
「おしい!」
ベンチから声が飛ぶ。
俺は少し息を吐いた。
(今のは決まると思ったんだけどな)
でも悪くない。
周りを見る。
チームメイトたちは少し驚いた顔をしている。
「今のパスすごくね?」
「見えてたの?」
俺は肩をすくめる。
「たまたま」
でも本当は違う。
全部見えていた。
未来まで。
試合が続く。
またボールが来る。
俺はトラップする。
トン。
次の瞬間、相手が二人来た。
でも焦らない。
軽くボールを引く。
相手が止まる。
その瞬間。
縦へ加速。
一気に抜く。
「おお!」
観客の親が声を上げる。
俺はドリブルで中央へ入る。
ゴール前。
FWが走る。
DFが寄る。
キーパーも出る。
その全部が見える。
(ここだ)
俺はシュートモーションをする。
相手DFが足を出す。
でもそれはフェイント。
ボールを横へ。
FWへパス。
シュート。
ゴール。
「よっしゃー!」
チームメイトが飛び跳ねる。
1-0。
先制点。
FWが俺のところへ走ってくる。
「ナイスパス!」
俺は軽く手を上げる。
そのとき――
視線を感じた。
ベンチ。
コーチが腕を組んでこちらを見ている。
少し真剣な顔だ。
(気づいたかな)
普通じゃないことに。
試合は続く。
でも、もう分かっていた。
このレベルなら――
全部見える。
どこにスペースができるか。
誰がミスするか。
どう動けばゴールになるか。
俺は小さく笑った。
(なるほど)
小学生のサッカー。
でも俺の頭は中学三年。
そして――
もう一度ボールが来る。
トラップ。
顔を上げる。
味方が走る。
スペースが開く。
未来が見える。
俺はボールを蹴った。
そのパスは、ゴールへとつながる道だった。
この瞬間。
横浜エンゼルのコーチは確信する。
この少年は――
ただの小学生じゃない。




