第2話 Bチームの少年
翌朝。
目を覚ました瞬間、天井を見て思う。
「夢じゃないのか……」
昨日の出来事。
小学生に戻ったこと。
全部、本当だった。
俺――東雲海はベッドから起き上がる。
机の上にはランドセル。
カレンダーの日付は、やっぱり変わっていない。
小学生三年生。
もう一度つぶやく。
「マジでやり直しか」
でも、不思議と悪い気分じゃない。
むしろ――
ワクワクしていた。
午後。
俺はボールを持って家を出た。
向かう場所は一つ。
横浜エンゼル。
小学生のころ、俺が所属していたサッカークラブ。
そして、AチームとBチームの差に絶望した場所でもある。
グラウンドに着くと、すでに子どもたちが集まっていた。
コーチの声が響く。
「よーし、集まれー!」
懐かしい声だ。
当時のコーチ。
俺はその姿を見て、少し笑ってしまった。
(若いな……)
中学三年の目線で見ると、コーチまで若く見える。
「今日から新しく入る子がいる!」
コーチが俺を呼ぶ。
「東雲海くん!」
俺は軽く頭を下げた。
「よろしくお願いします」
周りの子どもたちがざわざわする。
「新しい子だ」
「うまいのかな」
俺はみんなを見回す。
そして気づく。
(懐かしいな……)
この顔ぶれ。
未来の記憶があるから分かる。
この中には、後にAチームに上がる選手もいる。
でも今は――
まだ小学生だ。
コーチが言う。
「海はBチームからな」
やっぱりか。
俺は心の中でうなずいた。
横浜エンゼルでは普通だ。
入ったばかりの選手は基本、Bチーム。
Aチームは大会に出る主力だ。
コーチがボールを転がす。
「まずはドリブル見せてみろ」
簡単なテストだ。
俺はボールを足元に置く。
トン。
軽く触る。
その瞬間、頭の中に未来が浮かぶ。
このスペース。
この距離。
このドリブルコース。
全部見える。
(簡単だ)
俺はゆっくりドリブルを始める。
相手は同じ小三の子。
突っ込んでくる。
俺は軽くボールを動かす。
トン。
相手の重心がずれる。
そのまま横へ。
一歩。
二歩。
抜いた。
「おお!」
誰かが声を上げた。
でも、まだ終わりじゃない。
次の相手。
スピードを上げる。
トン、トン。
ボールを小さく触る。
相手が足を出す。
その瞬間。
ボールを外へ。
抜ける。
また一人。
また一人。
気づけば、ゴール前まで来ていた。
シュート。
ネットが揺れる。
シーンとグラウンドが静かになる。
コーチが目を丸くしていた。
「……おい」
俺を見る。
「海」
少し驚いた声で言った。
「お前、前どっかでサッカーやってたか?」
俺は少し考えて答える。
「ちょっとだけ」
本当は“未来で”だけど。
周りの子どもたちもざわつく。
「うまくね?」
「ドリブル速かった」
俺はボールを拾いながら思う。
(まだまだだ)
今は小三。
体も小さい。
でも、頭の中には全部ある。
中学三年までの記憶。
試合。
戦術。
失敗。
全部。
コーチが言う。
「よし」
腕を組む。
「海はしばらくBチームだ」
そして少し笑った。
「でも……」
「面白いな、お前」
俺は軽くうなずく。
Bチーム。
それでいい。
むしろ――
ちょうどいい。
下から全部変えられる。
グラウンドを見る。
Aチームが練習している。
あの場所。
小学生のころ、俺はずっと見ていた。
届かなかった場所。
でも今は違う。
俺は小さくつぶやく。
「すぐ行くよ」
Aチームへ。
そして、その先へ。
俺のサッカーは――
ここから始まる。




