希望・絶望・哲学
一条は部屋の中央で、両手を高く掲げた。
裸の体が、まるで新しい啓示を受けた聖者のように輝いているように見えた。
「おい、俺、閃いたぞ!」
片岡は壁に寄りかかったまま、静かに目を細めた。
「……何、閃いたんですか? 聞かせてください」
一条は深く息を吸い込み、声を張り上げた。
目は異様なまでに澄み、言葉の一つ一つに確信が宿っていた。
「俺、今の小説やめて、ポコチン純文学書くわ!」
片岡は一瞬、言葉を失った。
ゆっくりと首を振る。
「貴方は何を言ってるんですか?ポコチンと純文学は繋がりません」
一条はにやりと笑い、股間を指差した。
その仕草は、まるで宇宙の中心を示すかのようだった。
「ポコチンを人生の象徴に例えるんだよ!?」
片岡は無言で一条を見つめた。
わずかに眉を寄せる。
「……ほう」
一条は勢いよく言葉を続けた。
声は高揚し、部屋の空気を震わせる。
「立ってる時は希望!萎えてる時は絶望!そして射精はカタルシス!」
片岡は小さく息を吐き、視線を天井に移した。
「……あ〜あ、哲学出来ちゃったよ」
一条はさらに声を上げ、拳を握りしめた。
「そして射精後の虚無は……読後感だ! よし、これ書こう。今書いてるのやめて、このポコチン哲学書こう。タイトルは『人生の希望と絶望』とかにするか?」
片岡は壁から体を離し、一歩踏み出した。
声は静かだが、どこか諦めきった響きを帯びていた。
「ポコチンから人生は始まりますけど……一条さん……! ダ〜メ! 一条さん!」
一条は笑い声を上げ、部屋の中をゆっくりと回り始めた。
その姿は、解放された男のものだった。
片岡の脳裏に、一瞬だけ過ぎる。
このポコチン哲学は、ありかもしれない。
一条の暴走は、純文学の殻を破るための、究極の逆説なのかもしれない。
裸の真理を、こんな形で突きつけてくることこそが、本当の「深み」なのかもしれない。
だが、それはもっと大きな思いに掻き消される。
ーー確実に編集長に怒られる。
片岡は小さく首を振り、ため息を一つ落とした。
純文学ーーポコチン哲学の沼に溺れてしまった一条を救うために、今日も彼は働く。
ドアの向こうに広がる日常が、静かに待っている。
読んで頂き、ありがとうございました。
この作者病気シリーズは結構書いているので、よろしければ、そちらも読んで下さい。




