男性器・ペニス・ポコチン
一条は部屋の中央で両手を広げ、胸を張った。
裸のまま、まるで舞台のスポットライトを浴びた役者のように。
「ルックミー!俺を見ろ!」
片岡は視線を床に落としたまま、静かに首を振った。
「……服を着てください」
一条は一歩近づき、股間を指差して声を張り上げた。
目は輝き、言葉には迷いがなかった。
「俺の股についてある物はなんだ!?お前、言葉にして言ってみろ!?」
片岡はため息を一つ落とし、ゆっくりと顔を上げた。
視線は一条の顔に固定し、下半身には触れさせない。
「……おちんちんです」
一条は満足げに頷き、拳を握った。
「そうだ、おちんちんだ!でも、これは本当におちんちんなのか!?別の言葉でも言い表せれるんじゃないか!? お前、編集者なら言えるだろ!?言ってみろ!」
片岡は一瞬目を閉じ、再び開いた。
声は淡々と、しかし諦めを帯びていた。
「……男性器」
一条の顔に、勝ち誇ったような笑みが浮かんだ。
「そうだ!これは男性器だ!他にも何かあるんじゃないか!? 言ってみろ!」
片岡は壁に寄りかかり、視線を天井へ逃がした。
「……ペニス」
一条は大きく息を吸い込み、両手を振り上げた。
声は部屋中に響き渡る。
「ハッキリわかりやすい言葉にしたらいいんじゃないかな!?この俺の股についてる物をどういう面白ワードで表現するのが、エンタメ作家だろうが!なんでわざわざフワフワした表現で書かないかんのじゃ!」
片岡は小さく肩を落とし、静かに言った。
「……あのね、貴方のそういう考え方が哲学的だから、僕は純文学挑戦しませんかって声かけたんですよ」
一条は一瞬動きを止め、目を丸くした。
だが、すぐに大声で叫ぶ。
「ポコチン丸出しで騒いでるヤツが哲学者なわけねぇだろ!」
片岡は額を押さえ、深いため息を吐いた。
「……ポコチンはエンタメ小説でもアウトです。服着てください。これ、僕が女だったら、多分何かしらの犯罪です」
一条は部屋の中をゆっくり回り始めた。
裸の真理を携えた男は、まだ止まる気配がなかった。




