全裸の真理宣言
ドアを開いてみる。
「うおおおおおぉぉぉ!」
全裸の一条零士が、両手を広げて走ってきた。
だが何故か目は澄んでいる。まるで今しがた、宇宙の真理を覗き見てきたような顔だ。
片岡忍は一瞬、息を呑んだ。すぐに視線を逸らす。
「ちょっと、先生、どうしました!?」
「うるせぇ!もう小説なんて書きたくねぇ!このままじゃ俺の頭は純文学の霧に飲み込まれて、溶けて死んでしまう!」
一条は立ったまま、拳を握りしめて天井を睨んだ。声は大きく、しかしどこか凛としている。
片岡は静かにドアを閉め、壁に背を預けた。
「先生、ストレス溜まってるんですね……? でも、少し落ち着いてください……」
「な〜にが純文学だ!意味がわからん!フワフワフワフワした言葉ばっかりで!本当にこれ、読者に届くのか!? 俺はもう、こんな無限の空白に飲み込まれるのは嫌だ!」
一条は一歩踏み出し、片岡に向かって指を突きつけた。股間は隠さず、むしろ堂々と。
片岡は目を細め、淡々と返す。
「いや、届きますよ……先生の今までの作品、純文学としても評価高いんですよ……?読者はちゃんと、先生の言葉で考えてるんですよ……」
「書いてる最中はわからんから、頭が抽象の深淵に落ち込んでるんだよ!もうこんな缶詰生活は終わりだ!俺は言葉のナゾナゾマシーンなんかじゃない!根っからのエンターテイメント作家だ!」
一条は両手を組み、部屋の真ん中で仁王立ちになった。
その姿は、まるで宣言を下す預言者のようだった。
片岡は小さく息を吐き、視線を天井に移した。
「まぁまぁ、純文学を求めたのはこちらですが……と、とりあえず、服を着てくださいよ……」
一条は一瞬、動きを止めた。
そして、ゆっくりと自分の下半身を見下ろし、宣言した。
「今、俺は裸の真理に立ってる」
片岡は深いため息をつき、額を押さえた。
「……先生。せめて、タオルだけでも巻いてください。
真理に立つ男は、裸にはなりません」




