表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋を知らない私への処方箋――エリート上司と癒やし系同僚がくれる、ほんものの愛  作者: 桜 こころ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/7

第4話 助けられた

 正直、びっくりした。


 私は目をまん丸にしたままじっと見つめ返す。

 桐生さんの表情も視線も、いたって真面目だ。嘘を言っているようには見えない。


 彼みたいなイケメンで仕事もできるエリートが彼女いないなんて。

 ……まあ今は“たまたま”って可能性もあるよね。別れたばかりとか。


「望月さんは、彼氏いるの?」


 私はあっけにとられた。


 なんでそんなことを聞くの? 聞いてどうするっていうのよ。

 ただの興味か。それとも気になっただけ?


 でも、彼も自分の状況を答えてくれたのだから、私も答えるのが礼儀だよね。


「私も、いませんけど」


「……そっか」


 桐生さんは少し笑って、ほっとしたように微笑んだ。


 ん?

 どういうこと? 今の表情の意味は?


 “私みたいな女に彼氏がいたらおかしい”って、

 “いるはずない”って、思った?


 まあ、いないけどさ。


 勝手に悪い方へ考えてしまい胸の奥がもやっとする。

 視線を落としたまま、グラスの縁を指でなぞる。なんだか、少しだけ腹が立った。


 勝手に決めつける人っているよね。……私がそう受け取ってしまっただけかもしれないけど。


 彼もそうなんだろうか。


 ふと悲しくなって黙り込む。

 空いた間を埋めるように箸を持ち上げた、そのとき。


「あの、俺ずっと――」


「席替えターイム!」


 突然、佐々木さんの声が響いた。

 私をこの合コンに誘った張本人で、さっきから合コンをめいっぱい楽しんでいる。顔も赤くお酒も入っているみたいで、満面の笑みを振りまいていた。


 端の席で桐生さんと話していたから、周りの盛り上がりに気づかなかった。

 私たち以外は妙にテンションが高くて、わいわいがやがやと騒いでいる。


「席替え、席替え〜!」


 皆がいっせいに口ずさむ。

 女性は座ったまま、男性陣が立ち上がって移動を始めた。


 桐生さんは少し眉を寄せたが、ふうっと息を吐いて立ち上がる。そして、私の目の前から離れ――なぜか今度は私の“横”に座った。


 え……なんで?


 瞬きを繰り返しながら彼を見つめてしまう。


 すぐ隣に感じる気配に鼓動がせわしなくなる。さっきまで私の隣にいた男性より、明らかに距離が近かった。


 やっぱり慣れない。男性がこんなに近くにいることも、話すことにも。


 ……あれ?

 でも、さっきまで隣にいた男性は、気にならなかったな。


 いや、存在自体あまり目に入ってなかったかも。


 だってその男性は私の方を気にすることもなくて。ほかの女性に夢中って感じで、私のことなんて。


「あらためて、よろしくね」


 桐生さんが、にこりと爽やかに笑う。


 うっ、やっぱりイケメン。

 顔がじわっと熱くなる。こういうの、慣れてないっての。


 私はぎこちなく笑みを返した。


 すると、正面の席に腰を下ろした男性がこちらに声をかけてくる。


「君、望月さんだっけ。よろしく」


 にこにこと微笑みながら、グラスを差し出してきた。

 どうやら乾杯をしたいらしい。


 たしか、この人は川本さん。桐生さんを誘った張本人で、業務以外では話したことがない。


「よ、よろしくお願いします」


 無視するわけにもいかず、私は自分のグラスをそっと合わせた。



 しばらくは、何気ない会話をしていたんだけど。


「望月さんって、よく見ると可愛いよねえ」


 頬を赤く染めた川本さんが、ぐっと顔を近づけてくる。

 少し酔っているようだった。


 距離が近い。

 はあと息を吐きかけられ、思わず顔を背ける。


 ……お酒臭い!


 まあ今は合コン中だし。仕事終わりの社会人がお酒を飲むのは自由だ。

 それはいいんだけど……酔っ払いは苦手だ。いや、正直(たち)が悪い。


 川本さんがよろっと立ち上がり、ふらふらした足取りでこちらへやって来た。


「よっと」


 そのまま私のすぐ隣に腰を下ろし、肩に腕を回してくる。

 触れられた瞬間、背筋がひやりとした。


「望月さんって大人しいし、優しそうだし。俺、好みなんだよねえ。

 しかも可愛いって、最高じゃん! ね、俺と付き合わない?」


 川本さんの顔がさらに近づく。

 私は必死に体を引いて、少しでも距離を取ろうとした。


 でも、肩に置かれた手に力がこもり、ぐいっと引き寄せられる。左側が密着して、ぞくっと嫌悪感が走った。


 嫌。

 こんなにも、気持ち悪いものなの。

 カップルでいちゃいちゃしている人たちの気持ちがわからない。


 というか……川本さんって、こんな人だったっけ?


「おい、川本ー、あんまり変なことしちゃだめだぞー」

「そうよ、望月さんは純情なんだからあ」


 他のメンバーが、こちらを見ながらけらけらと笑っている。


 だめだ。みんな酔ってる。


 ど、どうしよう。


「ねえ、望月さん」


 川本さんがさらに身を寄せてきた、そのとき。


「おい、そのへんにしておけ」


 低い声とともに、大きな手が川本さんの顔をつかみ、ぐっと私から引き離した。


「ふげっ」


 変な声を上げた川本さんを睨みつけているのは、桐生さんだった。

 相手の顔を軽く押さえたまま、ふっと表情を緩める。


「大丈夫?」


「……は、はい」


 私は呆然としたまま頷いた。


 そのあと、桐生さんにきつく叱られた川本さんは、

 少し酔いが冷めたのか、しょんぼりと謝ってきた。


「ごめんな、望月さん……」


 肩を落とすその姿に、私は首を振る。


「いえ、大丈夫です。こういうことは、よくあることですし」


 うん。

 マンガやドラマでは、よくある展開。現実では見たことなかったけど。


「やっぱり、優しいなあ」


 潤んだ目で見つめられ、嫌な予感がして慌てて口を開く。


「あ、あの」


「なあ、やっぱり俺と――」


「おい」


 その言葉を遮るように、桐生さんが私たちの間に割って入った。

 耳元で何かを低く囁いた瞬間、川本さんの顔色がさっと変わる。


「いや、ほんとごめん。望月さん、ごめんな」


 早口な川本さんはそそくさと席を立ち、いちばん遠い場所へ移った。


 え……なに?

 いったい何があったの?


 首をかしげていると、桐生さんが再び私の隣に腰を落ち着けた。


「さ、飲み直そう。何か食べる?」


 爽やかな笑顔で、まるで何事もなかったかのように言う。

 そのマイペースさに、私はただ頷くしかなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
普段真面目そうな川本さん、お酒が入るとあんなに変わっちゃう人なんですね! でも、いくらお酒が入ってるからってセクハラは絶対駄目でしょ! もうあれは不快を通り越して怖かったでしょうね(´;Д;`) お酒…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ