第3話 ただの合コン
玄関で偶然鉢合わせた私と桐生さんは軽く挨拶を交わしたあと、予約されていた個室へ向かった。
和風のお店で床も壁も木で統一されていて、ほっとするような温かみがある。
部屋へ向かうあいだ彼は無口で、特に何も話さなかった。
個室に入ると、すでにメンバーは揃っていた。
男性四人に女性四人。私たちを合わせて十人。なるほど五対五の合コンらしい。
席はすでに埋まっていて、私は必然的に端の席に腰を下ろした。
目の前には桐生さんが座る。
そっと視線を向けると目が合って、ドキッとした。すぐ逸らしてしまう。
……やりにくい。
こういう対面ってどこに視線を置けばいいのかわからなくなる。
席は掘りごたつになっていて、そっと足を伸ばしたとき足先が何かに触れた。
「あ、ごめん」
桐生さんがすぐにそう言った。
どうやら、彼の足に当たってしまったらしい。
「い、いえ……」
気まずくて、思わず下を向く。
桐生颯真。
彼も、この合コンのメンバーだったらしい。玄関で挨拶したときに、初めてその事実を知った。
まあ、そりゃ誘われるよね。彼、すごく人気あるし。
でも、ちょっと意外かも。来るんだ、こういうところ。
彼女いないのかな。すごくモテそうなのに。いや、絶対いるでしょ。
そんなことを考えながら見つめていると、彼の視線がふっとこちらを向いた。
目が合って心臓が跳ねる。また、すぐ逸らしてしまった。
し、しまった。またやった……。さすがに失礼だよね。
恐る恐る視線を戻すと、まだ彼は私を見ていた。今度は視線がしっかり重なる。
逸らしたい気持ちを必死に堪え、ぎこちなく笑った。
「聞いていいかな? 望月さんはなんでここに来たの?」
しれっと聞いてくる。直球だな。
まあ、こういうときにズバッと聞くのは、桐生さんらしい。彼は誰に対しても臆することなく、意見をはっきり言えるから。
私はそうじゃないけど。
でも、ちょっと引っかかるな。どういう意味なんだろう。
合コンに来るのが意外、ってこと? 私には似合わない? ……まあ、自分でもそう思うけど。
人から言われると、あまりいい気分じゃない。
「誘われたんです、同僚に。私が合コンに来ちゃいけませんか?」
少しだけ意地を込めて言った。
「いや、違うんだ。
なんというか……君は、こういうところに来るタイプには見えなかったから」
怒らせたと思ったのか、桐生さんは少し焦ったように視線を泳がせた。
まあ、確かに私はそういうタイプじゃない。
誘われたから来ただけで、普段なら声もかからないし、自分から参加することもない。
やっぱり、他人から見てもそう映るんだ……別にいいけどさ。
「桐生さんはなんで来たんですか? あなたも、こういうところに来るタイプじゃないと思ってました。
彼女はいないんですか?」
少しきつい言い方になってしまった。
私らしくない、なぜだろう。
この人の空気かな。思ったより柔らかくてつい。
桐生さんは苦笑した。
「俺も君と同じだよ。同僚から頼まれた」
そう言うと彼はすっと私のほうへ身を寄せてきた。
急に縮まる距離。端正な顔が近くなり、心臓がばくっと跳ねる。
彼は口元を手で隠し、こそこそと囁いた。
「あいつ……川本」
視線の先を追うと、川本さんがいた。同じ部署の男性社員だ。
なるほど。桐生さんも巻き込まれた側らしい。
「そうだったんですね」
小さくつぶやいて、私は急いで距離を取った。
近すぎて緊張する。
桐生さんも姿勢を戻すと、今度は正面からまっすぐに私を見てきた。
「それに、彼女はいないよ」
その声音はなぜか少し強かった。揺れる瞳が、じっと私をとらえる。
な、なに? なんでそんな目で。
ていうか。
彼女、いないって――マジで?




