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恋を知らない私への処方箋――エリート上司と癒やし系同僚がくれる、ほんものの愛  作者: 桜 こころ


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第14話 隣にいてくれた

「桐生さん……」


 その姿に目が釘付けになった。

 まさか、こんなところで会うなんて。


 彼も休みで、どこかへ出かけていたのだろうか。

 薄い水色のシャツにジーンズというラフな格好。派手ではないのに立っているだけで目を引く。


 格好良い――


「望月さん?」


 名前を呼ばれて、はっとする。

 振り向くと、土岐くんがこちらを見ていた。


「あ、ええと……」


 どうしよう。二人って知り合いだったりするのかな。

 同じ会社だし、その可能性はあるよね。

 なんで、こんなときに。


 戸惑っている間にも、桐生さんはゆっくりこちらへ近づいてくる。

 胸がきゅっと締めつけられる。


 ずっと避けてきたから、どう向き合えばいいのかわからない。


 目の前に立った彼は、まっすぐ私を見下ろした。


「そういうこと?」


「え?」


 ぽつりと落とされた言葉の意味がわからず、首を傾げる。

 桐生さんはあきれたように小さく笑い、顔をそむけて大きく息を吐いた。


「なるほどね。だから俺に冷たくしてたってわけか。

 付き合ってる奴がいたんだ」


 怒りをにじませた低い声。

 その視線は、私ではなく、まっすぐ土岐くんへ向けられていた。


 そこでようやく気づく。

 ……誤解されてる。


「あ、あの。ちがうの――」


「もういいよ」


 遮るように言い捨てた桐生さんは、眉を寄せ、どこか悲しげな目で私を見た。

 その表情が胸に突き刺さり、じくじくと痛みが広がっていく。


 彼はそのまま踵を返すと、足早に去っていった。


「ま、まって!」


 声を絞り出したけれど、足を止めてくれない。

 その背中が遠ざかっていくのを、ただ見つめることしかできなかった。


「ど、どうしよう……」


 桐生さん、勘違いしてたよね。

 私が土岐くんと付き合ってるって……なにそれ。なんでそうなるの?


 っていうか、どうして勝手に決めつけて、しかも怒ってるのよ。


 最初は驚きすぎて頭が回らなかった。

 でも、少し落ち着いて考えてみると、やっぱり変な話だ。


 別に私、桐生さんと付き合ってるわけじゃない。浮気でもないのに、あんな“裏切られた”みたいな顔をされても。


 な、なによ……そう思うのに。


 胸が、苦しい。


 桐生さんに誤解されたことが、嫌でたまらない。

 彼の傷ついた表情が頭から離れず、何度も浮かんできては、胸に残る。

 こんな気持ちになるなんて。


 やだ。いまさら気づくなんて。

 私……彼のこと……?


 頬を熱いものが伝っていく。慌てて指先で拭い取った。


 土岐くんがそっと距離を詰め、寄り添うように顔をのぞきこんでくる。

 涙を見られたくなくて、私は小さく首を振って顔を背けた。


「ご、ごめんなさい。あの人、桐生さんですよね?

 僕のこと、誤解したのかな」


 焦った様子でフォローしてくる。


 もしかして、私の気持ちに気づいてる?

 そんなに態度に出てたのかな……恥ずかしい。


「い、いいの。ちがうの。あれは別に……」


「隠さなくていいですよ。君の気持ちはわかっていますから。

 彼のこと、好きなんでしょう?」


 その言葉に思考が止まり、私は目を見開いた。

 土岐くんは、穏やかに微笑みながらゆっくり頷く。


「大丈夫。僕が誤解を解いてあげます。だから、心配しないで」


 そう言って、彼は遠慮がちに私の肩へそっと触れた。

 びくっと体が反応すると、すぐに手を離す。


 ……本当に、優しい人。

 向けられる眼差しはあたたかくて、どこか包み込むようだった。

 不思議とすっと軽くなる。


 気づけば私は自然に微笑んでいた。それを見て、彼も表情を和らげた。


「さ、帰りましょう。送っていきます」


 土岐くんはそっと手を差し出した。


「あ、ごめんなさい……嫌なら、いいんですけど」


 申し訳なさそうに、手を引っ込めようとする。

 その瞬間、私は反射的にその手を握っていた。


「えっ」


 驚いたように目を丸くしたあと、彼は照れたような、少し困った笑顔を浮かべる。

 その表情を見ていると、胸がぽっと温かくなった。


 土岐くんの彼女って、きっと幸せだろうな――

 ……って、なに考えてるの。


 彼といると調子がくるう。


 でも、彼がいてくれてよかった。一人だったら、こんなふうに笑えない。


 ふと顔を上げると視線が合った。

 にこりと微笑まれて、心臓が跳ねる。


 や、やばい。

 私、なにやってんだろう。


 恥ずかしさをごまかすように、前を向いた。


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― 新着の感想 ―
桐生さんに見られた件、本当にタイミングが悪かったですね(´;Д;`) 花音の気持ち、二人のうちどっちに向かうんだろう…。 気になります。
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