ドブス女子、ロマンスファンタジーのヒロインになる!
「カク・ユジョン!ご飯よ!」
「うっ、お腹痛いってば!!食べないって言ってるでしょ!!」
ドンッ
「はぁ…死にたい…」
私は髪ゴムをほどき、ブラのホックを外した。
「どうか、憑依させてください……
本当に、誰よりも上手く順応して暮らせますから……
ただ、この現実から抜け出して、夢みたいな“非現実”を体験したいんです……」
私はブラをするっと服から引っ張り出して、床に投げ捨てた。
「はぁ……私だって本当にラブファンタジーに憑依したい…… 貴族の令嬢に生まれて、おしとやかにおすましして……? 余裕っしょ……入試もない世界なら何だっていい……」
私は枕に顔をうずめ、低くつぶやいた。
口に出したら叶うかもしれない、そう思った。
「明日は北部公爵と出会う家の令嬢に生まれますように、優雅な帝国の皇女に生まれますように……」
ううっ……
生理で腹が痛くて、頭がズキズキする。
床には食べかけのポテチ袋とチョコの包み紙が散らばっている。
部屋にはしょっぱくて甘いお菓子の匂いが充満していた。
「ああ……ゴミ片づけなきゃ……」
何もしたくない。
「高校三年の人生捨ててラブファンタジー世界に行きたい……」
……
私はスマホを手に取り、SNSを眺めていたら、アルゴリズムに出てきた『ラブファンタジーのヒロインになれる周波数』という動画をクリックした。
—チィィィィィー—
画面には静かなクラシックがBGMで流れるホワイトノイズ動画だった。
「……ぷっ!」
ばかばかしい。
ちょっとでもこの音を聞けばヒロインになれる気がする、という期待があって、それがあまりに笑えて、バカみたいで、ぶっ飛んでしまった。
「ぷはははははは」
動画のコメント欄を開いた。
【ラブファンタジーのヒロインになるには】
人生がハードコア(記憶力が良くないとダメ)
好きな/読んでるロマンス作品が一つあること
事故に遭うこと(例:トラックに轢かれる)
じゃん♪ ヒロイン誕生!
「マジで、ウケるwww」
私はその“正攻法”にウケてしまった。
└『そしてめっちゃ美人でないとダメwwwブサじゃヒロイン無理www』
……
私はアウトだ。
ニキビだらけでクッソブスな私がヒロイン?
記憶力がいいって?
こないだの3月模試、平均で6等級だったじゃん?
私は動画のあるコメントをなぞるように声に出して読んだ。
「こんにちは、ミドモアゼル、キム・ヨルニジュです……きゃああ!!」
突然、腹部に張りとともに腹痛が襲ってきた。
「あっ…お腹……うざい……何もしたくない……疲れた……お腹にガスも溜まって……ほんと最悪……ううっ……」
私は温かい水と一緒にタイレノールを一錠飲んだ。
眠気が襲ってきた。
暖かい水のせいか、周波数動画のホワイトノイズのせいかはわからないが、そのまま眠ってしまった。
…
ん? お腹痛くない?
私はきつく閉じていた目をゆっくり開けた。
キーッ
「お嬢様!」
「え?」
「何回起こせば分かるんですか! お嬢様!またスクールをサボるおつもりですか? 本当に!」
メイド服の茶髪の女性が目の前に立っていた。
「え? あの、どちら様ですか?」
「知らないふりしても無駄ですよ! 今日は私が捕まえて連れて行きますから、そう思っててください!」
「きゃああ! ちょっと待って! 何するんですか、離してください!」
初めて見る姉さんに、私はひょいと抱え上げられた。
いったい何の状況だ?
ラブファンタジーの世界なのか?
私の妄想が叶ったのか?
最 っ 高 だ。
さっき寝る前に見たあの、めちゃくちゃな動画が役に立つなんて!
キャー! わたし知らない〜!
「キャー! 知らない〜キャーッ!!」
ドサッ
「お姫様!! 馬車夫にはスクールまで行くように伝えてありますから!!」
「あ…痛い…ちょっと待って! あの! ねえ!」
私は面食らいながらも、ロマンスファンタジーの世界に来たという事実に笑いをあげた。
「キャアアア!!」
しかし――スクールって何だ?
私はキョンイル女子高の三年生じゃないか?
「キョンイルガールズスクールってこと?」
ぷっ
自分で付けたその名前が子供っぽすぎて笑ってしまった。
「キョンイルスクール、マジでww」
私は気合いを込めて呟いた。
「北部公爵、ちょうどいい。お前はもう死んだ。口ん中は全部私のものだ。ふーっふーっ。」
「お姫様〜、着きました〜」
馬車夫の優しげな声が聞こえる。年のいったおじさんっぽい声だ。
完璧だ。
クリシェだらけのラブファンタジー世界!
男たちよ、やんちゃな令嬢の魅力に溺れるがいい!
可愛い美少女に落ちたらもう終わりだって分からせてやる!
「かしこまりました。キム・ヨルニジュさん、今回はお断りしますね。」
私は北部公爵に憑依したように呟いた。
「断る? 断るのがお好きね〜 押しのければ押しのけるほど強く惹かれるのよ〜 ライク、イッツ・マグネティック〜」
私は歩きながら某有名ガールズグループの歌を口ずさんだ。
「ゆ〜ゆ〜ゆ〜ゆ〜ゆ〜ゆ〜〜 マグネティック〜 え?」
ふと、ガラスの柱に映った超絶美人のお姉さんを見た。
鼻歌をやめて、ガラス越しに凝視する。
…
「うわ、ちっ……マジでクッソブスじゃん。」
それ、私の顔だった。
「まずい、まずいぞ……」
心の中で何度も「まずい」と繰り返した。
「ヒロインになったら可愛くならなきゃでしょ、なんでそのままの顔なの?」
この顔でヒロイン?
私だってカ◯ナナやチャン・ヨンみたいに美顔でスタイルも良くて、男たちを翻弄してバッサリ振り回す、そんな気高いヒロインライフを送りたかったのに!
「この顔でラブファンタジーのヒロインって?」
スクールだか何だか分からない場所に入れない。
逃げよう。
どうせ私の人生でもないし。
私のキョンイル高校三年の人生でもない。
どこの国だか知らない世界で羽目を外すのだって許されるはずだ。
私は校舎の反対側に走った。
走りながらさっきのメイドさんの言葉を反芻した。
…「何してるんですかお嬢様!またスクールをサボるつもりですか? 本当に!」…
「お嬢様? 私を“お嬢様”って呼んだわよね?」
「ぷっ!」
「お嬢様〜お嬢様〜」
私、貴族の令嬢ってことは変わらない。
「顔はたしかにブスだけど、私は一応、ある貴族の令嬢よ〜ふふっ〜」
体が軽くて飛んでいきそうだった。
「おばあちゃん! 私の服はどうするのよ!」
路地で男の怒鳴り声が聞こえた。
「あらあら…すみません若者よ…どうしたのかしら…?」
「いや、何がどうだって言うんだよ! 服が臭くなってんだぞ! これ高い服だって言ってんだ! 賠償しろ! 賠償しろってんだ!!」
男がばあさんに怒鳴り散らしている。
高貴な貴族令嬢の私は、見過ごせない。
私は指先でスカートの裾をつまみ、気取ってその男に歩み寄った。
ちっちゃく小指も立てて。
「ちょっと、どうしておばあさんにそんな言い方するんですか? 礼儀正しく話しなさい!」
「お前誰だ…ぎゃああ!!」
ドサッ
男が倒れた。
「まあまあ…誰だ…? ありがたや…ぎゃああ!!」
ドサッ
ばあさんも倒れた。
え?
二人とも私の顔を見た途端、倒れた。
まさか私の容姿のせいで?
私がキレイすぎてショックで卒倒したってこと?
そんなわけない。
どんなにブスだとしても、顔で人を気絶させるなんて話が通じるか。
「おばあさん…おじさん…だいじょうぶですか…?」
「ブルルルル……」
男が泡を吹いている。
「ピクピク…ピクピク…」
ばあさんは小刻みに痙攣してのけぞっていた。
「ひゃああああっ!!」
誰かが私の後ろで叫んだ。
「キャアアアアアッ!!」
振り向くと、一人の女がダーッと走って逃げていった。
「ちょっと待ちなさい!!」
くそっ!
前科がつくかもしれない。
逃げねば。
私はドレスを掴んで追いかけた。
バキッ
「うわああ!!」
「ひゃっ、すみませんおじさん!!」
おじさんの上を飛び越えようとした拍子に、手を踏んでしまった。
…
「ゼェゼェ…」
全力で走ったせいで息が上がった。
「ああ…疲れた……どれだけ走ったんだろう…」
ドサリ
私は見知らぬ野原に倒れこんだ。
「はぁ…」
風が心地よく吹いた。
ぷっくりかわいいスズメたちがチチチチと飛び回っている。
「うわ、これ完全に白雪姫の世界じゃん? 雰囲気やべぇ……」
私は目を閉じて、ゆっくり開けた。
没入開始。
白雪姫に憑依したつもりで歌った。
「サムデイ〜マイ・プリンス・ウィル・カム〜 サムデイ〜ウィル・ミート〜」
小鳥たちよ〜 おいで〜 一緒に歌おう〜
「チチチチチ!!!」
スズメたちが私めがけて突進してきた。
「キャアアアッ!!」
「チッチッチッ!!」
小鳥たちが嘴でつつき、足で攻撃してきた。
「いややめっ!!」
私は腕を振り回して小鳥を追い払おうとした。
「チュッ? チュッ…」
バタッ
バタバタバタッ
スズメたちが床に落ちた。
焦る私。
「なんで、私だけ見るとみんな倒れるの!!……ぷはははは!」
悔しさもあって笑いが込み上げた。
ブス令嬢ヒロイン、顔で人も動物も気絶させる。
ククク……
もういいや。
この顔で北部公爵を落とすのは無理だ。
むしろ悪党でもぶっ倒して生きてやる。
—ブオッ—
私はスカートのレースの裾をちぎった。
長く裂いて顔にぐるぐる巻いた。
「よし、このラブファンタジー世界、私がいただくわ。」
私は立ち上がった。
こんにちは、頸椎損傷と申します。
韓国ではすべて断られてしまい、藁にもすがる思いで小説家になろうに投稿することにしました。
どうぞよろしくお願いします!
もし翻訳に変な部分や不自然なところがあれば、ご指摘いただけると幸いです。
これからもよろしくお願いします!