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第7話 大御所作家の告白

 大阪で重石が行ったと思われる花屋を訪れた後、日置達は東京に戻った。彼は三界と重石が都内のパーティーで珍しく仲良さそうにしゃべってたという城間の証言が引っかかっており、会の主催者に会う段取りをつけたのだ。

 主催の作家は、推理界の大御所だった。ネットで調べたが、年齢は73歳。ベレー帽を被り、白髪の混じった髭を生やした作家の画像が掲載されている。名前は五野井勉(ごのい つとむ)。本名で、筆名は使ってない。五野井とは、都内にある彼の邸宅で会う手筈になった。

 今は長者番付を発表しなくなったが、昔発表されていた頃は赤川次郎や西村京太郎と並んで長者番付の常連だった。昭和の人気作家である。無論今も人気があり、日置も作品を読んでいた。

 横溝正史のような本格推理も書けば、松本清張のような社会派物も書くという多才な作家だ。2人の刑事は電車で最寄りの駅まで行き、五野井の住む家に向かう。2階建ての、絵に描いたような豪邸だ。インターホンのボタンを押すと女の声が出て、門扉を自分で開け、中に入るよう指示される。

 日置と正子は門を手で開けて中に入り、玄関に向かった。扉の前でしばらく待つとドアが開かれ、ネットの画像通りの五野井自身が出迎えた。

「ようこそいらっしゃい。ご苦労さん」

 初めて会う五野井は、好々爺を絵に描いたような笑顔を浮かべる。2人の刑事は手帳を見せた。

「最近は、女の刑事さんもいるんだね」

 作家は、正子を見る。

「そりゃ、そうだよな。ぼくが若い頃とは、何もかも違うしね。世の中ずいぶん進んだよ」

 彼自身の案内で、刑事達は和室に通された。テーブルをはさんで、座布団に座る。テーブルの上には、ガラスの大きな灰皿があった。

「どうぞ足をくずしてください。煙草吸っても構わないかね」

 作家は2人の刑事に聞いた。

「大丈夫です」

 日置は答えた。五野井は、正子の方を見る。

「わたしも大丈夫です」

 正子が笑顔で返答した。

「最近我々喫煙家は肩身が狭いが、ぼくはこれが何よりの楽しみでね」

 話しながら、作家はパイプに火をつける。

「お忙しいところ時間を取っていただきありがとうございます」

「なんのなんの。普段ぼくらは刑事さん達をダシにした小説を書いてメシを食ってるから、こんな時は協力せんと」

 破顔しながら五野井が答えた。

「所轄の警察がすでに来たと思いますが、城間さんは無実でないかという声が多数上がって、我々全国警察が改めてお話を伺いに来たのです」

 日置は五野井に説明する。

「いやそれが、警察来るのは初めてなんだよ。やっぱあれかな。沖縄県警は、城間君が犯人ありきで捜査したんだろうね。ぼくもテレビや新聞で観たり読んだりしたけども状況から見て、城間君が疑われるのも無理ないし。でも、彼は殺人のできる男じゃないよ。真面目で優しいし、人殺しなんて大胆な真似ができる男じゃない。殺しのあった日の前々日の土曜ぼく主催のパーティーで会ったけど城間君と重石君は仲が良さそうで、重石君を殺すなんてありえないよ」

「逆に誰なら殺すでしょうか。五野井さんは重石さんと共通のお知り合いが大勢いらっしゃるでしょう」

「それが彼は昔から評判がよくて、心当たりがないんだよね。ぼくなんかの方が平気で人の書いた推理小説をけなすから、殺したい人は大勢いるんじゃないのかな」

 作家はそこで、いたずらっぽく笑みを浮かべた。そういえば五野井は推理小説専門の文芸誌でミステリの批評コーナーを持っており、辛口なのを思い出した。

「しかし重石君みたいな若い人が亡くなったのは残念だよ」

 五野井は言葉を詰まらせた。

「奥さんやご両親もお気の毒だよ。もしも代わってあげられるなら、ぼくみたいな年寄りが先に死んであげたかったね」

 大御所作家は、顔をうつむかせた。

「失礼な質問になるかもしれませんが、例えば三界学さんならどうでしょう。彼なら重石さんを殺す動機はあるんじゃないでしょうか」

 横から正子が口をはさんだ。作家が幽霊でも見たかのように、目を見開いて、正子を見る。彼女はさらに話を続けた。

「三界さんは投資で失敗し、多額の借金を抱えてました。そのため重石さんと城間さんに金の無心をしてました。また三界さんはプロットを出すのが遅く、出しても出来が悪いので、他の2人が直してました。それで重石さんは三界さんと手を切ろうとしたのです。城間さんの話では、三界さんはトリックを考えるのは上手かったそうです。わたし達が考えもつかないトリックで重石さんを殺した可能性はありませんか?」

 好々爺は黙りこんでいたが、やがて重々しく口を開いた。

「三界君は、ぼくにも金を借りに来てね。最初のうちは貸してたが返そうとしないので、最近は断ってたんだ。確かに彼は、トリック考えるのは上手かった。荒唐無稽なのではなく、現実にもできそうなトリックだね。重城三昧初期作品のトリックは、みんな彼が考えたんだ。でも、成功してから人が変わったな。女関係が派手になって。奥さんや愛人に暴力をふるうケースも多かったらしく、悪い噂が絶えなかったね。以前呼びだして説教したけど、馬の耳に念仏で」

  五野井は顔をうつむけた。

「重石さんと城間さんは、口を聞かない仲と聞きましたけど本当ですか?」

 正子の問いに作家はうなずいた。正子が続ける。

「にも関わらず、先日のパーティーでは珍しく仲良さそうにしてたそうですね」

「そうそう。だから驚いたんだよ」

 五野井の声が大きくなる。

「三界君が近づくならまだしも、重石君から接近してったんだよ。びっくりしたんで後で重石君に聞いたら、借りた金は全額返してくれたそうなんだ。ぼくはまだ返してもらってないけど、それならそのうち返してくれるんじゃないかと期待してたんだ」

「それでは三界さんと手を切る話はなくなったんでしょうか?」

 今度は、日置が質問した。

「それは、ぼくも聞いた。そしたら、やはり手を切るって言明したよ。今までの件で懲りたんだろう。三界君に考えを変えるよう迫られたけど、最終的に納得したと重石君は話してた」

「三界さんは、よくお金を返せましたね」

「その件だけどね。三界君の借金は、瑞穂書房が肩代わりするんだ。その代わり三界君は、ある作家とコンビを組んで、新作を出すことになっててね」

「三界さんは仕事内容に問題があるんですよね。合作なんてできるんですか?」

「実は三界君と組む作家は実力はあるんだが人気がなくてね。合作とされる2人の作品はほとんどその作家が書いたんだが人気のある重城三昧の三界君との合作という形を取って瑞穂書房は売りだそうとしてるんだ。奥さんへの暴力事件が報道で流れたけど、その後三界君が公開で謝罪したのもあり、人気は衰えてないんだよね。三界君のプロットの出来が悪いのも、一般読者は知らないし」 

「重石さんと三界さんは、パーティーでどんな話をしてましたか」

「二人で城間君にドッキリをしかけるとか話してたっけ。どんなドッキリをしかけるかは聞いてなかったけど。いい歳して2人共子供っぽいから」

                      


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