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第6話 おかしな服装

 その後全国警察の2名の刑事は証拠として押収された防犯カメラの動画のデータを、島袋に観せてもらう。最初島に到着した重石の画像から観た。彼は漁船で、丸島に到着したのだ。漁船の手配は城間がしていた。重石だけ降ろすと漁船は丸島を去り、沖縄本島に帰還した。

 それから動画を時系列通り観るうち日置はおかしな点に気づいた。それは、三界の服だ。彼は真夏なのに黒い長袖のシャツと、黒いビニール地のロングパンツを履いている。動画を観る限り太陽が燦燦と照りつけている。この件を、島袋に話した。

「どんな服着てたかなんて、関係ないでしょう。体調悪くて体が冷えたとかじゃないんですか」

「ちなみに、事件当日沖縄は寒かったんですか?」

 横から口をはさんだのは、正子である。

「真夏ですし、暑かったです」

 島袋の話を聞くと、沖縄県警の捜査は最初から犯人が城間ありきで進んだようだ。録画された動画を見ると、三界が来る前に来た重石と、その次来た城間はTシャツに短パンだ。

 重石はリュックをしょっており、スポーツバッグを1つ持っている。リュックは膨れて重そうだが、スポーツバッグは中身があまり入ってないらしく、軽そうに片手で持っていた。

                  



     

 その後日置と正子2人の刑事は沖縄県警が用意した船で、丸島に向かう。島袋が同行した。スマホで事件当日の沖縄の気温を調べたが、31度だ。船の操縦士にも聞いたが、やはり暑かったと話した。やがて船は、丸島に到着する。

 聞いてた通り島の外周を囲むように並んだカメラが皆海を向いており、死角はなさそうだ。3人の刑事は、歩いて西館に向かった。港から西館まで、むきだしの土の地面だ。今日は乾いてたが、雨が降った後なら、靴跡がくっきりつきそうだ。

 玄関から入って最初の部屋が事件現場だ。床にチョークで、遺体のあった位置が人型に描かれていた。頭の描かれたあたりに血の染みが広がっている。西館の中を調べたが、やはり人の隠れられそうな場所はない。そもそも2階建ての小さな建物だ。西館の近くに井戸があった。

「今は使われてなさそうですね」

 日置は古井戸の近くに行くと、中を覗いた。

「丸島の前のオーナーが掘らせたけど水に塩分が混じるので、一度も使ってないとの話です」

 島袋が回答する。

「井戸の中は、調べました?」

「言うまでもなく調べましたが、人はいませんでした。調べた者の話では、落ちた草木が中で腐ったせいか、悪臭がしたそうです。近くで焚き火でもしたのか、何かの灰も落ちてました。無論撮影も念のためしています」

 島袋は話したが、焚き火をしたような跡は、周囲にない。東館も調べたが、西館同様人が隠れられる秘密の部屋などなかった。どちらも2階建ての小さな建物で、4部屋ずつしかない。壁や本棚を念のため押したが、隠し扉のような物もなかった。

 日置と正子は島袋と一緒に沖縄本島に戻った。もう1度城間に会い、丸島で焚き火をした経験があるか聞いたが全くないとの話である。燃えるゴミも含め全てのゴミは金を払って週1回丸島まで来る漁船に回収してもらっているそうだ。

 ゴミを回収する漁船とは、重石を丸島まで連れてきた船だ。漁船を操縦する船主にも会ったが、同じ回答が返ってくる。この漁船の船長が、丸島に住む城間に頼まれて日用品や食料等を島まで毎週運んでいたのだ。

 その後2人の刑事は那覇空港から飛行機で大阪に飛ぶ。重石のサイン会を開催した書店に行くためだ。店は、大阪駅前だ。夕方到着した2人の刑事を50代の女性店長が出迎えた。

「はじめまして。全国警察の、日置と研川です」

 警部補と正子は店長に手帳を見せて、頭を下げた。

「店長の徳田(とくだ)です。よろしくお願いします」

 店長は名刺を出した。『徳田ゆかり』と名前が印刷されている。2人の刑事は書店の会議室に通され、彼女と向かいあって座った。

「亡くなった重石さんについて、調査に来ました」

「犯人は城間さんじゃないんですか? テレビではそう報道されてましたけど」

「城間さんは人気作家のせいか、犯人じゃないから再捜査してくれという声が数多く警察に寄せられましてね。そこで我々全国警察が、新たな観点から捜査中です」

「確かに城間さんが犯人いう報道観て、驚きましたわ。以前この店で、重城三昧さんの3人が来たサイン会やったんですが、城間さんと重石さん仲ようて、城間さんが重石さん殺すようには思えませんでした。こう言うてはなんですけど、重石さんと三界さんの仲の方が微妙で、口聞いてませんでした。三界さんが奥さん殴ったいう報道が出る前の話です」

「そうでしたか」

「それに重石さんが、陰で城間さんに三界さんの陰口叩いてるのをついうっかり聞いてしまいました。三界さん借金抱えてお金の無心を重石さんにしてたそうです。それ以外にも全然仕事をしないとか、女癖悪いとか、カンカンでしたわ」

「ちなみに徳田さんは、推理小説も読まれますか?」

「少しですけど」

「ご存じでしょうが殺人現場の丸島は城間さん以外には犯行が考えられない状況でした。仮に城間さんが犯人でないなら、誰がどうやって重石さんを殺害できたか、推理ファンとして、何か考えがあればと思いまして」

「残念ながら、そこまでは。それに推理小説のトリックって、現実には使えそうにないですし。でも、面白三昧の初期作品のトリックは、現実にも応用できそうな物が多かった記憶ありますね」

「言われてみれば、そうですね。ぼくも読んでましたが、幻想的な作風のわりにはそんな感じでした」

「重石三昧って、幻想的な話を書くんですね」

 横から正子が、口をはさむ。

「作品にもよるけど、中世ヨーロッパが舞台の作品とかは、幻想味が強かったね。文章は城間さんが書いてるけど、詩的な世界を作り出すのが上手いんだよ。重石さんの絵もファンタジックで素敵なんだ」

 日置は、正子に解説した。そして今度は、再び店長のゆかりの方を向く。

「事件前日の日曜のサイン会の時、重石さんに変わったことはなかったですか?」

「そういえば……花屋の場所を聞かれました。スマホの画面に花屋の場所を呼び出して、ここに行きたいとおっしゃられて。そこは遠いんで、近くにある別の花屋を教えたんですが、特殊な植物を買いたいそうで、スマホに呼び出した花屋じゃないと、この辺では売ってないそうで」

「どんな植物か聞いてませんか?」

「あたしも聞いたけど、教えてくれませんでした。重石先生、いたずらっ子みたく笑ってらっしゃるだけで」

「花屋の場所は、わかりますか?」

「わかります。今、探します」

 ゆかりはスマホで花屋の場所を検索した。日置は表示された店名を自分のスマホで検索し『お気に入り』に追加する。

「ご丁寧に、ありがとうございます。花屋というより植物園みたいですね」

 スマホで店の情報を見ながら、日置が話す。

「広い温室がいくつもあって、南国の植物も、各種取り揃えてるようですね。敷地自体が、広いですし」

「そうなんです。以前行きましたけど、本当植物園みたいでしたわ。普段見た事のない、名前も知らん南洋の花なんかがぎょうさんあって」

 店長からそれ以上実のある話は聞けず、2人の刑事は宿泊先のホテルに戻る。大阪に来たのが夕方だったので、今夜はホテルで泊まるのだ。2人はそれぞれ自分の部屋に入った。日置はベッドに倒れながら、事件に考えを巡らせる。そのうち変な点があるのに気がついた。

 重石はスポーツバッグを持って丸島に上陸したのが防犯カメラで撮影された動画に録画されていたのに、そのバッグが島内になかったのを思い出したのだ。背中にしょってたリュックは西館にあったのだが。

                    



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