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第3話 妻の言い分

 日置は正子の運転で車の後ろに乗りこんだ。車は都内の世田谷にあるタワーマンションに向かう。そこには殺された重石の妻が住んでいる。

「今度の件、よく再捜査が決まりましたね」

 ハンドルを握りながら正子が話した。日本版FBIの全国警察が立ち上げられ、各都道府県警で解決できなかった事件や、今度のように不審な事件の再捜査という形での活躍が期待されたが、再捜査の判断は、なかなかされなかったのだ。

「容疑者の城間が人気作家だからかな。彼が犯人なんてあり得ないという電話や投書やメールが警察に殺到して、上層部も世論を無視出来なかったんだろう」

「係長は、どう思われます? 普通に考えたら、城間以外の犯人は考えられないです」

「確かにそうだが、先入観を持ちたくないな。冤罪の原因になる」

 車を世田谷にあるタワマン近くのコインパーキングに駐車させた後、2人は歩いて目的地に向かった。1階の玄関でインターホンのボタンを押す。重石の部屋は最上階の33階だ。

「どちらさまでしょう?」

「全国警察の日置です」

 警部補は、インターホンのカメラの前に手帳を見せた。

「警察なら、他の人が1度来てますが」

 女性の声が回答する。

「我々は日本版FBIの全国警察です。念のため所轄の警察とは別に、再捜査に来てます。奥さんは容疑者として逮捕された城間さんが犯人とは信じられないと証言してると聞きました。そのあたりをお伺いしたくて参りました」

「お入りください」

 オートロックのスライドドアが、横に開く。2人の刑事は中に入る。そしてエレベーターに乗り、最上階までゆく。33階で停止すると自動ドアが左右に開いた。2人の刑事は重石家のドアに向かう。インターホンを鳴らす前に、扉が開く。開けたのは茶髪に眼鏡の女性である。年齢は40代ぐらいだろうか。重苦しい雨雲が、彼女の周囲に漂っていた。

「重石さんの奥様ですね」

「そうです。中にお入りください」

 インターホンの声と同じだ。刑事達は中に入った。重石夫人はドアを閉め、施錠した。刑事達は応接室に通される。

「捜査のしなおしをするのは、犯人は別にいると思うのですか?」

 夫人がソファーに腰かけながら、質問した。彼女の名は重石絵美(えみ)。夫の重石哲也(てつや)とは、同じ大学のミステリ研で知りあって結婚に至ったので三界や城間とも旧知の仲だ。

「普通に考えれば城間さん以外の犯人は考えられません。重石さんが丸島に到着後城間さんが来るまで誰も島に来なかったのです。防犯カメラの録画画像でも証明されてます。誰か来たり誰か出れば、全て撮影されるからです。カメラの死角はありませんでした。島に着いたら、すでに重石さんが殺されてたというのは城間さんの発言だけですし」

 日置は状況を説明した。

「わたしには城間さんが夫を殺したと思えないんです。城間さんは優しい方で夫とは仲がよく、動機がないです。動機ならまだ三界さんの方が……」

「三界さんなら動機があるんですか?」

 日置はそこに斬りこんだ。

「殺すまでの動機になったかわかりませんが、夫と三界さんの仲は険悪でした。以前はよくこの家にも遊びに来てたんですが最近は来なくなり、夫も三界さんの悪口をこぼすようになってました」

「どんな悪口をおっしゃってました?」

「報道されたのでご存じでしょうが、三界さんは元奥さんを殴って警察沙汰になりました。夫は三界さんが暴力をふるったのが許せないと話してました。また何年も前から三界さんはプロットを出さなくなり、夫と城間さんが代わりにプロットを作ってたんです。三界さんは金遣いが悪く、愛人や賭け事につぎこんだり投資に失敗し、多額の借金を抱えてました。そこで夫や城間さんに金をせびるようになったんです。夫も城間さんも最初はお金を貸してたんですが、借金を返さないし仕事も全くしないので、夫は三界さんと手を切るつもりでした」

「その話が本当でしたら三界さんには動機があると言えるかもしれませんが、アリバイがありますからね」

「なのであたし三界さんが、何か推理小説のようなトリックを使って夫を殺したんじゃないかと考えてるんです。夫は重城三昧を解散させようとしてました。解散すると過去作品の著作権料は従来通り三等分されますが、新作は夫と城間さんで書くので、その収入は三界さんには入らないんです。なので、そうならないよう夫を殺したんじゃないかと思うんです」

                  

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