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第2話 捜査開始

 やがて昼の12時過ぎに、待望の三界が丸島に自分で操縦してきたモーターボートで現れたのを、カメラの画像で確認できた。城間は東館を出て、東館の玄関を外から施錠する。そして西館に行こうとする三界の前を遮った。

「一体どうした?」

 三界は多くの者を魅了する涼やかな笑顔を浮かべて質問した。俳優のような男前で、学生時代はバスケをやってた事もあり、筋肉質の体型だ。身長は190センチもある。

「し、死体があった。に、西館で、お、重石が」

「落ち着けよ。つまり西館に重石の死体があったって? かつぐ気じゃないだろうな」

三界は、そよ風のような笑みを見せた。

「そ、そんなじゃんない。み、見に行ってくれ」

 とてもじゃないが、城間は2度と西館に行く気にはなれなかった。存命中の人間と会うのだって可能な限りまっぴらなのに、遺体なんてなおさらだ。小説でこそ殺人を描いているが、小心者の城間には、本物の死人になぞ、金輪際関わりたくない。

生きてる人間も苦手なので結婚もしてないし、恋人もいない。重石と三界以外の友人はいなかった。重城三昧の作品はマニアの間で『本格推理』と呼ばれるもので、普通ではありえないようなトリックを使った殺人事件が起きたりする内容だ。

なのでリアリティ重視の警察小説や社会派ミステリやハードボイルド作品等に比べるとファンタスティックな物語とも言える。

 そういう作風を嫌う者もいたが、熱狂的なファンの間で支持されていた。無論重城三昧の3人組もそういった『本格推理』の情熱的な読者である。

日本の作家なら横溝正史、島田荘司、綾辻行人、有栖川有栖等、外国の作家ならコナン・ドイル、アガサ・クリスティ、エラリー・クイーン、ジョン・ディクスン・カー等が有名だ。

「わかった。今見に行くから、ここで待ってろ」

 今まで笑顔を浮かべていた三界は、真剣な眼差しになって言明した。彼は1人で西館に向かう。その広い背中が果てしなく頼もしかった。西館の玄関に入った三界はなかなか戻らなかったが15分後再び姿を現した。顔面が、蒼白である。

「お前の言う通りだ。ゴルフクラブで重石が、後ろから殴り殺されてた。前から部屋に置いてあったやつだ。おれが乗ってきたボートに積んである無線から、警察に連絡する」

                 



            

 全国警察は、日本版のFBIだ。都道府県の管轄を超え、日本中に捜査権を持つ。所轄の警察の捜査に疑問がある場合一般人が、全国警察に訴えるのも可能であった。

 世界中に蔓延したコロナ・ウィルスの猛威がともかくも収束し、国民がマスクをつけなくてもよくなってからしばらくたった数年前に発足したのだ。

 その全国警察に所属する日置和彦(ひおき かずひこ)警部補は、都内にある全国警察本部の執務室にいる。今日はこれから瑞穂(みずほ)書房編集者の有本美咲(ありもと みさき)がここへ来る予定だ。やがて扉をノックする音が響いた。

「どうぞ入ってください」

 署員が連れてきたのは30代ぐらいのロングヘアの女性だった。

「はじめまして。瑞穂書房の編集者の有本です」

 自己紹介した有本美咲のうつむいた顔には影がさし、隠しきれない憂いをそこに帯びている。

「はじめまして。日置です。そちらへおかけください」

「ありがとうございます」

 美咲はソファーに腰かけた。日置も向かいあって座る。

「有本さんは、重城三昧さんの担当なんですよね」

 日置はなるべく相手を緊張させないよう、穏やかな口調で話した。

「そうです。重城先生は弊社の新人賞でデビューしました」

「存じてます。ぼくもミステリが好きで、先生の本も読んでます」

「そうでしたか。嬉しいです」

 美咲は顔を少しだけ輝かせた。

「このたびは重石さんがああなってしまい、残念です。ご愁傷さまです」

 日置は、悔やみの言葉を述べた。美咲は目を潤ませて下を向き、そのまま黙りこんでしまう。長い沈黙が続いた後、ようやく彼女が口を開いた。

「重石さんが殺されて一緒に作品を書いてらっしゃった城間さんが逮捕されましたけど、信じられないんです。城間さんは優しい方で、人を殺せる人じゃありません。亡くなった重石さんとは、仲良しでしたし」

「しかしですね有本さん、ぼくも沖縄県警の書いた報告書を読みましたが、犯行当日朝7時に重石さんが沖縄本島から事前に依頼した漁船に乗せられて丸島に到着したのは、ご存じでしょう? 島への到着が朝9時過ぎ。その後朝10時に城間さんがモーターボートで1人で島に来ます。さらに昼12時過ぎにやはり一人でモーターボートを操縦してきた三界さんが到着。一番最初に来た重石さんが待ってるはずの、島の西館に行こうとした彼を、先に来て東館にいた城間さんが待ち受けてたわけです。城間さんに『西館に重石さんの遺体がある』と言われて行ったらうつ伏せになっていた重石さんの遺体があった。ちなみにカメラが島外に向けて12箇所に設置されてたのは知ってますよね?」

 日置の問いに、美咲がうなずく。

「カメラには死角がなく、海からでも空からでも何かが島に接近すれば、いずれかのカメラに撮影される形になってましたね?」

日置はそう確認する。

「その通りです。城間さんは熱狂的なファンや、害を加える暴漢が来るのを恐れてました。あの島にいるのは秘密でしたが、誰か嗅ぎつけるのではないかと不安がってたんです。心配性な方でしたから」

「三界さんからの通報を受けた防犯カメラの録画映像を沖縄県警が確認すると城間さんが丸島を出て東京へ行った後丸島へ来たのは犯行当日の朝被害者の重石さんを送り届けた漁船と、その後から来た城間さんと三界さんがそれぞれ乗ってきたモーターボートだけで、それ以外には船も飛行機もヘリコプターも来てはいません。直接泳いできた人もいませんでした」

「警察の方から聞いてます」

「しかも丸島には犯行前夜雨が降りました。島の港から西館までぬかるんだむきだしの地面でしたが、残ってた靴跡は3種類です。鑑識の結果重石さん、城間さん、三界さんのだと判明しました。それ以外の人物がいて城間さんが島に帰るまでに重石さんを殺したら、その人物の靴跡がないとおかしいです」

「聞いてます」

「西館の周囲もむきだしの地面で、靴跡を残さず犯行当日出入りするのは不可能です。城間さんの証言通りすでに死体があったなら、犯人はどこから来たんでしょう。沖縄県警の結論通り城間さんが殺したと考える方が納得いきます」

「でも、おかしいと思いませんか? 城間さんが殺したなら、例えばカメラの1つを壊し、そこから別人が侵入したと思わせるようにもできるはずです」

「おっしゃる通りです」

 日置は認めた。

「沖縄県警は『犯行は計画的ではなく城間さんと重石さんの間で口論があり、激高した城間さんは重石さんを室内に以前からあったゴルフクラブでなぐり殺してしまった。呆然としていたら以外に早く三界さんが来てしまい、カメラを壊す等の細工をする余裕はなかった。城間さんは自分で親友を殺したのを認める事ができず、犯行を否定している』という考えです」

 日置は事情を説明した。美咲も承知してるはずだが、城間が犯人と認めたくないのだろう。気持ちはわかるが、無理筋だと警部補は考えた。

「日置さんのおっしゃる事はわかりますが、何かトリックがあると考えてます。それを調査してほしいのです。城間さんには動機がありません。彼と重石さんは仲良しでした。人見知りの激しい城間先生ですが、重石先生夫妻の家には、よく遊びに行ってたんです。それに重城三昧はプロットと絵を重石さんが担当してました。彼が亡くなったのでは創作は難しいでしょう。そんなリスクを城間さんが犯すとは思えません。それに城間先生は、激高して相手を殺すような方じゃありません」

「待ってください。ぼくは以前重城三昧のデビュー作の後書きを読みましたが、プロット担当は三界さんでは?」

「一応そうなっているのですが三界先生は遅筆なもので、最近は重石先生が書いてました」

「沖縄県警の者には話しましたか?」

「話してません。今みたいな質問はされませんでしたから。そもそも沖縄県警の担当者の方は、ミステリの事も重城三昧という作家も、よくわかってらっしゃらないようでした。いくらベストセラー作家といっても、興味ない方は興味ないですからね」

 この部屋には、日置の部下の女性刑事が1人いたが、ずっと黙ったままだった。が、そこでようやく口をはさんだ。

「わたしミステリって読まないんですが、重城三昧さんってそんな有名な方なんですか?」

「出た本はことごとくベストセラーの売れっ子です」

 解説したのは美咲である。

「ドラマや映画やコミックにもなってます。海外でも翻訳されてます。英語、フランス語、ルーマニア語、中国語、韓国語等で、中国や韓国では映画化もされました」

 質問した女性の刑事は驚いた顔をした。刑事の名前は研川正子(とぎかわ まさこ)だ。年齢は33歳だった。

「わたしの話が信用できないなら、重石先生の奥さんに話を聴いてみてください」

 美咲が話した。

「重石先生と城間先生の仲がよかったのを、確信できると思います」


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