表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

第1話 殺されたミステリ作家

 重城三昧おもしろざんまいは、ベストセラーを連発する推理作家の筆名だ。その正体は、同じ大学でミステリ研に所属していた親友同士の男3人組だった。

 その3名が完成させたデビュー作が大ヒットし2作目以降も売れたため時代の寵児となったのだ。今や3人共40歳になっていた。

 3人のうち執筆担当が城間しろまだ。彼は人見知りが激しく、人間関係を深めるのが苦手な男だ。それもあってか妻子も恋人もいなかった。友人も重城三昧のメンバーである他の2人以外いなかった。両親も他界しており、1人っ子なので兄弟姉妹は元々いない。

 その彼は今モーターボートを1人で操縦し、丸島(まるしま)に向かっていた。そこは沖縄本島から船で片道2時間かかる孤島でその名の通り上から見ると、円に近い形をしている。

 そこは無人島だったが島の所有者に金を払って、城間は1人で住んでいた。丸島はスマホの圏外だしどのみちスマホは持ってないので、コミュ障の城間にとって理想的な環境だ。

 島には建物が2つだけあり、城間はそれを東館と西館と呼んでいた。通常城間は東館にいる。彼は一昨日も土曜の夜東京でのパーティーに参加して翌日日曜朝まで飲んだ後飛行機で沖縄へ来て1泊泊まり、今朝の月曜モーターボートに乗ったのだ。

 今日は先にこの島に、重城三昧の1人重石哲也(おもいし てつや)が来る話になっていた。彼は小説のプロットと絵を担当している。彼のイラストはデビュー時から評判がよく、最近は他の作家の挿絵や表紙絵を描いたり、オリジナルの画集を出して、1人でも活躍してる。

 今日は重石が書いた新作プロットの原稿を丸島へ持ってくる話になっており、それを読みながら次作の打ち合わせをするのだ。また今日は、この後トリオの1人三界学(みかい まなぶ)が遅れて島に来る話になっていた。

 三界もプロット担当でデビュー時は彼がプロット、城間が執筆、重石が絵の担当だったが三界は仕事が遅くてそのわりにプロットは雑で、城間と重石が三界のプロットを大幅に修正し、作品を完成させる時が多かったのだ。

 デビュー作が売れると3人の生活は一変したが、特に三界の変貌はすごかった。元々彼は女とギャンブルに目がなく、稼いだ金を湯水のごとくその2つに注ぎこむようになり、しかも株に手を出して失敗したのだ。

 小説から得られる収入は三等分されていた。原稿料、本の印税、映像化によって得られる収入等である。今やベストセラー作家となったので、収入を三等分し税金を払っても、全員に莫大な金が入る。

 にも関わらず金が足りないと、三界は他の2人に無心をするようになった。しかもプロットを出さなくなり、しかたないので他の2人でプロットを書くしかない状況だ。実質仕事をするのは、重石と城間の2人だった。

しかも三界は奥さんに日常的に暴力をふるっていたのが週刊誌に載り、SNSで叩かれている。特に重石の怒りは激しく三界と縁を切り、残りの2人で執筆しようと城間は誘われていたのだ。




 城間の操縦するボートは沖縄本島から2時間で、丸島に到着した。沖縄を出たのが朝8時。到着したのが午前10時だ。

 島はジャングルのようだった。森林が鬱蒼と生い茂り、鳥の声が聞こえてくる。人に害を与える動物はいなかった。いるとしたら蚊ぐらいだろうか。人以外の哺乳類は、ネズミぐらいだ。蝶やハエなどの虫はいた。

 空には真夏の太陽が輝き、灼熱の光が降り注ぐ。城間は白いTシャツに同色の短パンを身に着けていた。地球熱中化の影響で酷暑である。額から汗が流れる。それでもまだ東京よりはマシに思えた。都内の暑さはヒートアイランド現象もあるのだろう。

 丸島に2つある建物のうち西館は普段空き家だが、他から来訪者があった時は、西を使ってもらっていた。東館の鍵を持つのは城間だけで、西館の鍵は城間と重石の2人だけが持っている。

 三界はめったに来ないので、鍵は持っていなかった。城間は西館へ向かう。ボートが到着した港から歩いて30分とかからない。舗装されてないので港から西館まで地面がむきだしで、昨夜の雨でぬかるんでいた。

 先に1人で来たはずの重石のと思われる靴跡が残っている。当然ながら、他の靴跡はない。東館も西館も2階建てだ。2つの館の間の距離は近く、歩いて片道5分で行けた。

 重石のと思われる靴跡は西館の玄関へ続く。西館の周囲はむきだしの土でぬかるんでいるため靴跡を残さず近づくのは無理だ。出てきた靴跡はないので、彼は西館にいるはずだった。城間は西館の玄関のドアを開く。

 驚く事に、強い異臭が城間の鼻を突く。今までこんな経験はない。悪臭の元となる物は、西館にないはずだから。恐る恐る中に入った。心臓が早鐘のように鳴っている。手が、震えた。

 重石がいるはずの応接室に向かう。扉を開くと、床にうつ伏せに倒れた男の姿がある。金色に染めた、肩までかかった髪の毛から重石とわかった。

 後頭部から血が流れてる。城間は悲鳴を上げた。足をよろめかせながら彼は部屋を出て、玄関に戻る。そしてそこから東館に向かって走る。城間は東館の玄関のドアを開けようとしたが、当然それは施錠されていた。

 島を出る時施錠したのだ。城間は玄関を持っていた鍵で開錠した。そして玄関の中に入ると、中からサムターンキー回して施錠する。この後2時間後に三界が来る。彼は城間と違って腹の座った男だ。三界に全て任せよう。

 東館でソファーに座って少し落ち着くと、誰が重石を殺したかが気になった。ここは離島で一般人は、人が住んでるのを知らない。

 船がないと来るのは無理で、島の周囲は外に向けて、12の防犯カメラが死角のできぬよう並び、24時間撮影している。

 何者かがここに城間がいるのを知り、金目の物を盗もうとして船で侵入したのだろうか? 城間は念のため東館の中が荒らされてないか確認したがそういった形跡はなく、何も盗られていなかった。

 館内の窓や扉は、全て中から施錠され、割られた窓もない。城間は防犯カメラで撮影した動画を確認した。動画は1つの大きなモニターに映っている。彼は同時に12の動画を巻き戻した。

 重石が丸島の港に漁船で来た場面が映るまで戻したが、その間侵入者が来る姿は映ってなかったのだ。だとしたら犯人は、重石が現れる前に侵入した事になる。

 そうだとしたら、侵入者が来る時乗ってきた船はどうなったのか? 犯人だけ降ろしたのか? それも変な話である。盗難が目的なら、逃げるための船を残した方が自然だろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ