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本屋

作者: 葵ソラ

地位、名誉、女、豪邸、金、幸せ…。

俺は何一つ持っていない。

持っているものは社会に対する反抗心だけだ。


この社会は狂っている。

勉強よりも金を稼ぐことが優先される。金が稼げないものは路上で捨てられた空き缶の残りを啜って生きるしかない。


俺はその中の一人だ。数年前に親が死んでから、家を追い出され、風呂に入れるのは運良く金が入って銭湯に行けるときだけ。


俺みたいな若いくせに痩せ細って汚い奴を真面目に雇う馬鹿はいない。適当に雑用をさせて気が向いたら給料を渡す。


そんな社会だ。


―俺の産まれる場所が少し違くて、親が金持ちで、俺がもっと強ければ、こんなことにはならなかったのかもしれない―


ただ実現するわけのない事を妄想するしかすることがない生活だった。


「食う?」


俯いた俺の鼻に、路地裏からは嗅いだことのない良い匂いが当たる。

俺は急いで顔を上げた。


(は…?)


俺の目の前には湯気がたっている食べ物と、それを差し出す綺麗な格好をした青年。俺と同じぐらいだ。

青年の持っている袋の中には数え切れないほどの食べ物が入っていて俺は思わず目を丸める。


「ん」


青年は俺に差し出す、というより無理やり食べ物を渡そうとした。ふわりと湯気が俺の鼻に当たる。


「食べる?」


「えっ、良いのかよ…」


俺は恐る恐るその食べ物を持った。

その食べ物を持つと、温かい温度がじんわりと手に伝わった。


久しぶりに食べた食べ物は、言葉にできないぐらい美味しかった。


「お前、名前は?」


青年は俺に聞いた。食べ物を頬張る俺は、答えることが出来ずにただ咀嚼していると、青年は右上を向いて考える仕草をした。


「俺、神楽伊月かぐらいつき。お前に聞きたいことあってさ」


伊月は少し疑いを含んだ目で俺を睨んだが、その後に名前を教えた。


俺は食べ物を飲み込むと、伊月は袋の中から同じ食べ物を俺に差し出した。

俺は迷わずそれを受け取り、食べた。

美味しい。こんな食べ物、久しぶりに食べた。温かい。


俺は無我夢中で食べ物を咀嚼していると、伊月は何か言いたげに俺を見つめた。


ああそうだ、聞きたいことがあるんだっけ。

俺は食べ物を喉に無理やり押し込み、伊月の顔を見つめた。


「聞きたいことってなんだ?」


俺がそう聞くと、伊月は片方の眉毛をあげて悪いような笑みを浮かべ、潤った唇で俺に問いかけた。


「お前、金欲しくない?」


「えっ?」


「俺の仕事は、本屋っていう一般人が持ってはいけないのに出回った本を探す仕事なんだ。今確認できてる数は四冊。そのどこかへ行ってしまった四冊の本を探す仕事。どう?」


伊月が言うには、俺が正式に本屋にならないと詳しいことは教えられないらしい。だから入ってくれということだ。


そしてその仕事は易しい仕事じゃない。だから死ぬかもしれないし、退職しますと軽く言える仕事では無いらしい。要するに、もう戻れないということだ。本屋という仕事が存在する以上は。


「それでもいいなら、職場に案内する」


「わ、分かった!やる!」


俺が食い気味にそう答えると、伊月はニヤリといたずらっ子のように笑った。


「だよな、俺も()()()()()。そう来なくちゃだよな」


その時、近くに車のライトが俺と伊月の顔を照らした。


それが車だと認識するのに時間はかからなかったが、俺たちを迎えに来た車だと認識するのには時間がかかった。


人を反射するほどに真っ黒の車の中から出てきたのは、眼鏡をかけてスーツを着た男だった。優しそうな微笑みを浮かべて俺と伊月を見つめたあと、深々とお辞儀をした。


「それでは行きましょう。伊月様、蒼太様」


伊月は「おつかれぃ」と軽いノリで車に乗り、俺はその後に続いて後部座席に乗ろうとした時、俺はある違和感に気がついた。


「なんで、俺の名前...!」


俺が隣に立ってドアを抑えている男を見ると、男は微笑んだ。


「伊月様が会おうとした人はこちら側に情報が渡されます。なので貴方のことも知っていますよ、境蒼太(さかいそうた)様」


つまり、伊月が俺に会いに来たのは計画されたことだったということだ。

最初から、俺を見つけていて勧誘するつもりで会いに来たということ...。


「とんでもない人だな」


俺が思わずつぶやくと、伊月は光のなくなった目でフッと笑った。


「それが仕事だからな」


俺はその顔を見た時に背筋が凍る感覚が伝わり、思わず立ち尽くしてしまった。伊月に早く乗れよと急かされてやっと足が動いたが、あの時の伊月の顔には確実に別の誰かが憑依したようなオーラがあった。


男の運転する車は寝心地が良かった。運転のおかげなのか、車のシートのおかげなのか俺は分からないが...。





伊月の言う職場というのは、1時間ほどで到着した。

住宅地の少し外れたところの誰も近寄らないような古い場所に、大きくそびえ立つ城とも言えそうな建物。門は大きく、入口には柵で中に入る人を選別しているようだった。


「じゃあありがとルール」


まだ完全に止まりきっていない車から急ぐように降りた伊月に、俺は腕を引っ張られた。

男は運転席で「いえいえ。また何かあれば」と微笑み、俺は伊月に腕を引っ張られたままずんずんと城の大きな庭を歩いた。


そのまままっすぐ進み、正面にある大きなドアを伊月は片手で開けた。


「ここが俺たちの職場。今からマネージャーにお前のこと手続きしてもらわないとな」


伊月の職場(これから俺の職場にもなるのだが)は、上には大きなシャンデリア、左右には二階に続くぐるりと曲がった階段、壁には一度は見た事のある絵が数え切れないほど飾ってある。


「すごいだろ、これ全部本物だぜ」


「レプリカじゃなくて?」


俺がそう聞くと、伊月は適当に近くにあった絵を指した。


「美術館に飾られているものはレプリカだな、本物ですって言えばみんな見に行くだろ。そうしてみんな気付かないうちに騙されてるんだよ。

大切なものは、一番信用できる場所に置いとかなきゃ意味ねぇからな」


伊月がそう言ってすり、とガラス越しにその絵を触った。

絵は、長年誰にも触れていないのだろう。

こうしてガラス越しに何度も、何度も触られても本当は誰も触っていないのだろう。


「この絵を直で触れるのはボス直属のボディーガードだけなんだよ。俺も一回は直で触ってみてぇんだよなー」


伊月はそう呑気につぶやき、俺は「たしかに」と適当に返事をした。

ここの廊下はため息が出るほどに長かった。

ただ迷路のような道をくねくねと曲がる。


何分経ったのだろうか。

二人で長い廊下を曲がったりしていると、一つの大きな部屋に着いた。

部屋のドアには「受付」と書かれていて、伊月はそのドアを開けた。


「ルーナスさん、連れてきましたよー」


先程とはだいぶ違う、殺風景な部屋(机がひとつ、椅子が四つしかない)の角から出てきたのは、黒い髪を腰まで伸ばした女だった。


「たまにはいい仕事するのね、神楽。さあ堺、ここに座って。今から貴方に仕事内容とこちら側の話をするから」


ルーナスさんの持つ真っ黒い目は、カラコンのような人工的な色ではなく、経験と知識、人柄から抽出された色だろう。

真っ黒ではなく、紫がかった黒色だ。


俺は言われた通り椅子に座ると、ルーナスさんは向かいに座り、一息ついた。


「さて、仕事についてだけど」


急に走る緊張感に、俺は固唾を呑み込んだ。

軽い印象しかない伊月も今だけは静かだ。今だけは。


「私たちが探している四冊の本は、この組織のボスの祖先が書いた本なの。魔術、悪魔との誓約、過去予知、未来予知、が書かれた本。


四冊の本には全て呪いがかかっていて、本に無関係な人が持つとその人が病にかかって死ぬという呪い。個人でその呪いを解除することはできるけど、本の呪い本体を解除することは出来ない。


本の在処は現在不明。コピーと原本を合わせると冊数は八冊。その八冊を、なんとしてでも取り返す」


「つまり、呪われる人を少しでも減らすために本を回収するということですか」


俺がおずおずと聞くと、ルーナスさんはこくりと頷いた。


「半分正解。あとの半分は、本を使って人を貶めたりする人をなくすためよ。本屋が結成されてからの九十年、まだ二冊しか取り返せてない。それと同時に、九十年間原本を持っているシトラスという組織がある。


原本をコピーし、販売したのもそいつら。そして、九十年間ずっと捕まえられない。三十年前に一度顔を見た人がいたけれど、そのあとあっさりと殺された。


アイツらの目的は、私たち本屋が滅びて、本を確実に自分たちのものにすること。そして、私たちを殺すこと」


まとめると、九十年間野放しになってしまった禁書を取り戻す。シトラスという禁書を所有している組織を潰して、呪いの被害を減らす。それが本屋の仕事ということだ。


ルーナスさんは立ち上がり、俺の方に小指を差し出した。


「約束して。これから本屋を裏切ることはしないと。裏切ったら病にかかって死ぬ。これはボス本人が作った呪い。私とこの約束を交わしたら、貴方に呪いがかかる。それでもいい?」


俺はルーナスさんの小指を見た。

ないはずなのに、黒い糸が俺の小指とルーナスさんの小指を繋げているように見えた。そして俺が指を近づけると糸は消え、見えない約束に形が変わった。


ルーナスさんが小指を離し、俺はその小指を見つめていると、ルーナスさんが言った。


「堺、お前は最近殉職した奴の担当だった場所に入ってもらうからね」


「え?」


突然の発表に、俺は目を丸くしていた。

まだ自分の仕事の説明は何一つ聞いていない。

それなのにルーナスさんは仕事があると言って部屋の奥に行ってしまった。


(不思議な人だな...)


俺がぼんやりとしていると、伊月が立ち上がった。


「蒼太の担当は俺と同じ実行役ってやつだな。担当事務所に行こうぜ、仲間たちを紹介するよ」


どうやら、俺は伊月と同じ仕事をするらしい。

仲間がいることへの安心感から、俺は安堵の息を吐いた。


受付室を出ると、質素な部屋から高貴な廊下に変わり、俺は伊月の進む方向に着いて行った。


「ここから十階まで上がるぞ」


廊下の一番奥にある鉄製の地味な階段の前で、伊月は爆弾発言を落とした。


「...階段で?」


「なに当たり前なこと聞いてんだよ馬鹿か?お前」


絶望だ。

エレベーターはなく、全て階段で移動することが義務になっているらしい。

十階まで約百八十段登る...。

俺は鉄の階段を叩くように踏み、肩で息をしながら登った。


「お前、体力ないんだな」


伊月が感心したように述べるものだから、俺はムキになって答えた。


「お前、路地裏にいた俺に体力云々を求めるなよ...!?」


俺がそう言うと伊月は目を見開いた後に「あはは」と愉快な声をあげて笑った。その顔があまりにも年相応に見えるので、俺は何秒か凝視してしまった。


かなり先の方に伊見えていた伊月かだいぶ近くなり、それは十階に到着している事を意味していると俺は気がついた。

腕でおでこの汗を拭きながら前を見ると大きな自動ドアがあり、向日葵のシールが貼られている。


「ここが俺たち実行役の担当事務所だ」


静かな音をたてて自動ドアは滑らかに開き、中には数え切れないほどのデスクが並んでいた。そして伊月と同じ服を着た男女が一斉に伊月に視線を向けたあと、俺に移した。全員が俺を見つめ、ざわざわと盛り上がり出す。


「お前ら、紹介するよ。新しく実行役に配属された堺蒼太だ」


「あ、よろしくお願いします...!」


俺が急いで頭を下げると全員が口々に「よろしく」と適当に挨拶をして口を閉ざした。

カタカタとパソコンを打つ音と話す声が耳に入り、実行役という割にはただの事務仕事のように見えた。

もう少し話しかけるとかないんだなと俺が考えていると、近くのデスクに深く腰をかけてパックジュースのストローを咥えている女の子が伊月に話しかけた。


「神楽、その子強いの〜?」


どう見ても俺より四歳は年下の女の子は丸椅子をクルクルと回しながら俺を見た。うさぎのようなつぶらで丸い瞳が俺を映し、思わず目を逸らしてしまった。


「さあな。俺もさっき知り合ったばかりだからよく知らねぇ」


伊月が女の子を見てそう言うと、女の子はパックジュースを潰し、横にあるゴミ箱に投げ入れた。


「んぇ〜?じゃあこっちで勝手に調べちゃうけど良いの?戦力にならなかったらぶっ殺すよぉ〜?」


女の子は俺を睨んだ。品定めをするような目をした後にパソコンに視線を移し、しばらくキーボードとマウスを動かしたあと引き出しからペロペロキャンディを出してぱくりと口の中に入れた。


「堺蒼太...。私に認められたいなら少なくとも私に勝つことからだね〜?」


女の子はペロペロキャンディを口からだして顔の前でクルクルと回した。


「神楽に連れてこられたんでしょ〜。お疲れぇ〜」


リュオンはまだ形を保っているペロペロキャンディをゴミ箱に突っ込んだ。ゴミ箱から飴の棒が顔をのぞかせている。

俺は勿体ねぇなと心で呟くとリュオンがギロリと俺を睨んだ。


(声には出てねぇはずなのに...)


俺は慌てて目を逸らすと伊月はくすくすと笑い、リュオンは「へ〜」と俯きながら黒いオーラを出した。


「ねえ堺。私に腕相撲で勝ったら君のこと認めてあげるよ」


先程まで放っていたふんわりとしたオーラを完全に消した。リュオンはそう言ってデスクの上に肘を思い切り置いた。強く当てたせいでデスクにある物が音を立て、俺は思わず後ずさった。


「早く、やるよ」


俺は焦って伊月を見ると、伊月は察したかのように笑った。


「まぁ、リュオンは弱いから安心しろ」


伊月に背中を押されてリュオンと向かい合わせに座った俺は、差し出されたリュオンの手を握った。

俺よりも二回りほど小さい手を握り、俺はこれなら負けないと高を括った。


余裕そうな笑みを浮かべる俺を不審に思ったのか、リュオンが舌打ちをする。


「じゃあやるよ、三、二、一」


俺は始まって一瞬の力で倒してやろうと思った。

リュオンが力を入れる時間が無い内に倒してさっさとこの威嚇している態度を改めてもらおう。


「はじめ!」


リュオンの声が耳に響き、俺は思い切り力を込めた。

これでリュオンの腕は完全に机に付いたはずだ。

俺はそう思った矢先、リュオンが俺の腕を思い切り倒した。


(は...?)


俺が目を丸くしていると、リュオンの手が離れた。

絶対力を最大限出したはずなのにそれすらも抑え込まれてリュオン単体の力で押し倒された腕。


木の棒のような細い腕だと思っていたが、リュオンが片腕の袖をまくると、その腕には俺よりも鍛えられた筋肉が見えた。


「なんだ、全然強くないじゃ〜ん。拍子抜けだね」


リュオンは鼻で笑いながらデスクの中にある個包装のクッキーをかじった。

俺の事をバカにするような細めた目で見てくる所が何とも癪に障るが、負けた身分でどうこう言えない。

俺は押し黙った。


「まあでも、路地裏育ちにしては中々の腕だったねぇ〜。全然弱かったけど、あはは」


普通の人なら、ここで負けるかよと意気込むだろう。物語の主人公なら都合よく強い師匠が現れるだろう。

しかし俺には人望がない。師匠もいない。知り合いも...今は伊月ぐらいだ。


しかも目の前にいる俺より小さい女の子であるリュオンは超生意気で超うざい。

俺は初めて悔しいと思い、奥歯を噛み締めた。

それと同時に、リュオンを尊敬した。


リュオンの体を見ればわかる。小さい体なのに筋肉が多い。そしてそれを隠すような長い袖。


女の子として生きたかったはずなのに、訓練で作ったであろう体に、俺は尊敬を覚えた。


―そんな俺に出来ることはただ一つ―


「俺に、強くなる事を教えて下さい」


俺は土下座をした。冷たい地面がおでこについて床には俺の顔が反射する。

リュオンの足元を見つめると、リュオンの履いているブーツが俺の顔の方へ向いた。


「顔、あげなよ」


先程より幾分か落ち着いた声に、俺は顔を上げた。


「バカと弱いやつは嫌いでも、素直なバカで弱いやつは好きだよ」


顔を上げるとリュオンはニヤリと笑った。ホンワカした雰囲気と真面目な雰囲気が混ざりあっている。


「分かった。私が堺のししょーになってあげる。その代わり、実践の場で死んだら地獄に行ってまでも連れ戻すからね」


リュオンが俺の腕を掴んで思い切り立たせた。

思わずよろける俺を、リュオンは笑った。


「まずは私の弟子たちの家に行くところからね。そのしけた面流して、私の作った隊服もあげるわ」


早く行くよと事務所を足早に出ていくリュオンを俺は足をもたつかせながら追いかけた。


本屋のある程度強い人は、シューラーという自分の弟子達が住む家を造ることが許可されているらしい。

リュオンは自分より強い人を育成するために屋敷ぐらい大きなシューラーを造ったと自慢げに話した。


俺はリュオンのシューラーに着くことが楽しみになった。屋敷...、でかい...。なんて贅沢な響きなんだろう。


本部の裏出口を出てしばらく薔薇が咲き乱れている花園を歩いていると、一つポツンと建っている家がある。

その家は、先程の花園と本部の雰囲気と百八十度違う。

大きいと言えば大きいのかもしれないが、想像していた大きな家とは全く違う。屋敷というよりただの家。


「え、まさか...」


俺がそう呟くと、リュオンは大きな声を出した。


「ここが私のシューラー!どう?中々良くない〜?」


「あ、あぇ...」


俺は返答に困った。

まず、瓦作りである。屋敷というのなら部屋がいくつもあるのだとおもったが、古いおばあちゃん家と言われて思い浮かべる家そのものだ。


引き戸で庭には枯れている花が数え切れないほどある。育つだけ育った草たちが顔を出し、その様子は面倒くさがりなリュオンの性格を表していた、


「最近はぜ〜んぜん使ってなかったから汚いままなんだよね。掃除してよ〜堺」


「い、嫌ですけど」


俺が冷や汗をかきながらそう言うと、リュオンは明らかに「有り得ない」という顔をした。


「仕事でもなんでも初めは掃除から!早く掃除しなさいよ弟子なんでしょ!」


リュオンの謎の言い分により、俺は嫌々掃除をする羽目になった。

まずは庭の雑草を抜いて除草剤をかける。

玄関の砂を掃除して縁側の蜘蛛の巣を叩く。

家の中は綺麗だが一応ゴキブリ対策やらなんやらをする。


その間リュオンは家の中でテレビを見たりお菓子を食べたりパソコンを打ったり忙しいのか忙しくないのか分からなかった。


ある程度掃除をしてから部屋に戻ると、縁側でスイカを食べているリュオンがいた。


「お疲れ〜、まあ食べろ食べろ」


どこから出てきたか分からないスイカをかじると、果汁が溢れて服にシミをつけた。


「お前掃除上手だね、弟子じゃなくて掃除担当になる〜?」


リュオンがぷぷぷと種を庭に飛ばすと、除草剤を撒いた地面にぽたぽたと落ちた。


「スイカなるかな〜」


俺は除草剤を撒いた事を言えなくなった。


「ねぇ、堺」


リュオンの声がして俺は横を向くと、リュオンの拳がおでこに直撃した。


「痛っっ!」


「あら、反応できると思ったんだけどな...」


申し訳ない、とリュオンは眉を下げて猫のような顔をするが、冗談抜きで痛い。アイスクリーム頭痛を一気に百個感じてるみたいだ。


「こんなのにも反応できないなんて、終わってるよ」


俺がおでこを抑えて地団駄踏んでいると、リュオンは俺の腕を掴んだ。


「あんた、こんな痛さでそんな泣きそうな顔してどーすんのー。敵の攻撃はもっともっーと痛いんだよ〜?」


そう言いながらリュオンは手刀を作って俺の頭を攻撃しようとしていた。


「危なっ」


頭に当たる寸前でそれを避けると、手刀が髪に当たってシュッ、と風を切った。

俺は手刀が当たらなかったことに安心していると、リュオンは目を丸くしてこっちを見ていた。


「あんた...今の反応速度、凄い。拳の時より格段に上がってたよ」


リュオンは口の端を持ち上げた。


「堺蒼太。今日から一年以内に私の教えることができるようになるまで、シューラーから出る事を禁止する!」





いつか連載形式で書く予定です。

読んでくださりありがとうございました!!

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