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溺愛 2

お読みくださりありがとうございます。甘々な二人になりました。お楽しみいただければ幸いです。

 目を覚ませば明るい陽射しが部屋を包んでいた。

もぞもぞと動き出したウィステリアを逞しい腕が抱きとめていた。あれ、私は昨夜どうしたのだったかしら。旦那様達が初夜のやり直しをしたいと囁いて・・・

そこまでしか覚えていない。

いつの間にか寝間着に着替えている、メイドの仕事よね。隣に寝ている旦那様だって、えええ、隣に寝ている‼どうして⁉


「ウィステリアおはよう、今日も綺麗だね、寝起きの貴女を見られるなんて幸せなことがあるだろうか」


「おはようございます、旦那様。何故隣に寝ているのですか?」


「貴女を口説くためだよ。そんなに驚いているウィステリアも可愛いね。寝間着はもちろんメイドに頼んで着替えさせてもらったから安心して」


「ここは夫婦の寝室ですわね、初めてですね。じゃなくて、いきなり過ぎません?心臓に良くありませんわ」


「陛下に休みを頂いたんだよ、有効に使わないとね」


「人が変わっていませんか?どうされましたの?」


「変わってはいないよ、貴女の夫のロビンだ。朝のキスをしてもいい?」


「あわわ、キスですか?やはり夢の続きを見ているとか」


「昨夜、いい感じになったと思ったら貴女は気を失ったんだよ。僕の気持ちがわかる?」


「それは申し訳ありません?」


「語尾が上がっているよ。やり直させてもらうよ」


「朝ですよね?」


「そうだよ、朝でもいいんだ。ようやく貴女から了承の返事がもらえたんだ、全力で落とすと言ったろう?覚悟すると言ったじゃないか、あれは嘘なの?」


誰この人?絶対中の人が入れ替わったとしか思えない。旦那様ってこんな人だったの?


「また変なことを考えてる、逃さないよ。使用人には声をかけないように言っておいたからね、誰も来ない。食事は扉の外に摘みやすい物を置いといてと頼んであるから、お腹が空いたら教えて」


ええい、女は度胸だ、覚悟を決めよう。

「優しくしてくださいね」


「大丈夫だよ、僕に任せて」


旦那様は優しく髪を撫で始めた。


「貴女の髪は綺麗だな、滑らかだ。頬もすべすべで気持ちがいい。全部味わいたい」

大きな手と唇で全身を愛でられた。もう一度気を失ってしまいたいウィステリアだった。



本当の夫婦になってしまった。恥ずかしさがこみ上げてくる。


「夢が叶った。ウィステリア今日からロビンと呼んでね。貴女のことはリアと呼んでもいい?今日はリアの世話は僕がするからね。軽食を持ってくるから待っていて」


さっきからロビンが甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。シーツを取り替え、湯浴みをさせて貰い水まで飲ませてもらった。これから食事をするのだろう。お腹が空いた。

新婚の夫婦は皆こんな事をしているのかなと、恋愛小説を思い浮かべながらぼんやりと思うウィステリアだった。


膝に抱かれて果物を口に運ばれながらロビンが聞いた。


「街の家って今は誰が管理してるの?放ったらかしなわけないよね。リアのことだから」


「街のギルドで紹介してもららった御夫婦に庭と家の中の掃除をお願いしています、あっ頼んでいるわ」


「うん敬語は、なしだよ。二人の時は。結婚式の後こうしたかったのに出来なかった。僕のせいだけどね。今度行ってみたいな」


「私もサラとの話の中でしか知らないので是非行ってみたいわ」


「二人だけで過ごす家にしてもいいかもしれないね。その使用人の費用は僕が持ちたい。リアを独占できる気がするから。家を買ったお金も払いたいんだけど」


「そんなに高くなかったので気にしないで。今だから余裕な事言えるけど頑張って買ったの。令嬢の頃から働いてお金を貯めていたらしいの」


「何か危機感があったのかな?」


「今となってはわからないけど、貴族でも働けることが楽しかったんじゃないかしら。実際役に立ったしね」


「グサッと来ることを言う子だね。そんな口は塞いでしまうよ」

「支えだったのよ、家があるって」

「ごめん、僕のせいで悲しい思いをたくさんさせて」

また萎れた犬のようになってしまったロビンの頭をよしよしするウィステリアだった。



翌朝仕事に行くロビンを見送り、部屋に戻るとサラが


「奥様、旦那様と上手くいって良かったですね、何処までもお供はするつもりでしたけど、このままお幸せになられるのがいいと思っておりました」


「ありがとう、サラがいてくれたからどんな事も乗り越えられたのよ」


「とんでもないことでございます、奥様の意思で切り開かれたのです。私は只見ているしかありませんでしたから」


「見守ってくれる人がいるのは心強いものだわ。あっ、サラ今度街の家に旦那様と一緒に行ってみようと思っているの、案内してね」


「はい、喜んで。やっと奥様の家に行かれるのですね、家が喜びます。管理人さん達もいい御夫婦ですから安心なさってください」


「サラがそう言ってくれると信頼が置けるわね。今日の仕事は侯爵家の執務にするわ、溜まっているんでしょうね」


「分かりませんが、皆様が喜ばれますよ。奥様がいるといないでは違いますでしょう」


「頑張って片付けるわ」


「頑張り過ぎはよくありませんよ、休憩は取って頂きます。お茶をお持ちしますから」


「お願いね」



サラはウィステリアが七歳の頃からお仕えしているメイドだ。

実家は男爵家だったが、貧乏な貴族の五人目の子どもであるサラは十歳で奉公に出た。

奉公先の伯爵家のお嬢様がウィステリアだった。お嬢様は聡明で穏やかな気性で屋敷の使用人たちから慕われていた。貴族の家にはよくあるらしく旦那様には愛人がいて家の中はギスギスした雰囲気だった。

お嬢様の母である夫人はそれでもと頑張っておられたけど、お嬢様が十七歳の時に儚くなってしまわれた。執務も家政も取り仕切っておられたのは奥様だったので、直ぐに傾くことになった。旦那様もお嬢様のお兄様の坊ちゃまも頼りない方達だったから。

ウィステリア奥様はデビュタントの時に侯爵様が見初められて是非にと請われた結婚だった。生きておられたお母様がお喜びになっていたのが思い出される。

十八歳で嫁がれた可愛らしい奥様にあんなに酷いことをして許すものかと思っていた。ご自分で家を買われ出ていく覚悟をされた時には拍手をしたものだ。

でも幸せになられた。良かったと心から思うサラだった。




今日は約束の街の家を見に行く日だ。朝からウィステリアのソワソワが止まらない。ロビンと街の家まで行くことが出来る。


水色のワンピースに白い帽子を被り、黒のジャケットとトラウザーズのロビンにエスコートをされ馬車に乗り込んだ。

ウィステリアは朝からずっとにこにこしている。可愛いと見惚れるロビンだ。壁がなくなった妻は凛としているのに、急に甘えてきたりしてロビンを翻弄する。勝手に身悶えしているロビンである。


街までは馬車で十分だった。住宅街は更に五分後で入り組んだ街なかにそこだけ明るく陽が射すような家全体が可愛らしい印象だった。庭に花が咲き乱れている。随分腕の良い庭師を掘り当てたものだと感心した。


管理人夫婦は人の良さが顔に出ているような人達だった。庭は申し分なく管理されていた。家の中も磨き込まれて清潔にしてあった。某子爵家で長年働き退職したので余生を楽しもうとしていたところに、この話を見つけたそうだ。

家も庭もこぢんまりしているので、第二の人生をもう少し働いてみようかと思ったらしい、通いである。


家は一階に台所とリビング、お風呂。寝室が二部屋。サラに住んでもらうつもりだった。二階が、客室が二部屋にウィステリアが住むはずの部屋がもう一つ。女性の二人暮らしになるはずだったので十分な大きさだった。


ロビンはこの家を見て目を輝かせた。

「二人暮らしにちょうどいいね。たまにここに来て庶民の生活を楽しんでみるのもいいかもしれないよ。大きなベッドを買って入れよう。治安も悪くなさそうだけど一人で来てはだめだ、侍女と護衛は必ず連れて来ること。まあ僕が一緒に来るつもりだけど」


お茶のセットや食器などは買ってもらっていたので、持ってきた最高の茶葉でサラにお茶を淹れて貰った。リビングのテーブルでロビンとウィステリアが、台所のテーブルでサラと護衛と管理人夫婦に座って貰いお茶をゆっくり飲んだ。


「サラの淹れるお茶は最高ね、落ち着くわ」

「おそれいります、綺麗な台所ですね」

「お料理が作れるといいわね。ここで練習してみようかしら」

「奥様に時間がありますか?お忙しいのに」

「そこなのよね、忙しすぎて手が回らないわきっと」

管理人の妻が恐る恐るという感じで話に入ってきた。

「私は元料理人でしたので、いらっしゃることを教えていただければ作りますが」

「まあそれは楽しみだわ。その時は別に手当を出すわね、鍋も買わないといけないわね。楽しくなって来ましたわ旦那様」

「室内の模様替えはいいの?希望があれば言うといい」

「壁紙は購入した時に張り替えてありますし、客室に入れる家具でしょうか、お風呂は古いまま我慢しようと思っておりましたが、新しいものに替えていただければ嬉しいですわ」

「早速手配しよう」

新しい幸せにわくわくが止まらないウィステリアだった。














誤字脱字報告ありがとうございます。大変助かります。次回で最終回になります。

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