溺愛 1
お読みくださりありがとうございます。お楽しみいただいていますでしょうか。溺愛モードは後半です。
陛下に真実を明らかにされた旦那様は見るのが気の毒なほど落ち込んでいた。
真実を言えないヘタレ男として妻に認識されたのだから。不倫男の方が良かったのかしら。
何も知らなかった私は初夜を拒否されたと思い込み離縁に向かって走り続け疲れを溜めて記憶喪失。
この頃関係回復を図られて絆されかけてはいるが、
白い結婚のままだし、どうしていいのかわからない。
周囲はなんとも言えない気まずい雰囲気になっている。
自分の撒いた種だと思われたのだろうか。陛下が
「宰相、二人で話し合うことを命じる。明日は休みだ、良いな」
と仰ってくださった。なんていい方なのかしら。あっという間にもやもやした空気が拡散した。
フランクにされていたのですっかり威圧感のない小父様扱いになってしまった(主に私の心の中で)不敬で罰せられるかもしれない。態度に出ていたら旦那様に取りなしてもらおう。
二人で屋敷に帰る馬車の中でもずっと俯いたままの旦那様に
「大変な夜会になりましたわね、あの夜一言こういうことだからと言ってくださればよろしかったですわ。そんなに余裕のない出来事だったのですか?私はそんなに聞き分けの悪い女ではありませんのに。どこかで真実を告げてくださっていれば一年も誤解したままでいませんでしたわ」
と文句を言った。これくらい許されるだろう。
「災害の連絡があったときは貴女はもう下がっていて湯浴みの最中だったと思う。自分で直接話したかったのだ。結果的には最悪の判断だったが。
一生に一度の結婚式の夜に花嫁を放り出して仕事に走る夫などどう考えても許してもらえるはずがないと思い込んでいた、すまないことをしてしまった」
「余りのことに私の中で処理しきれておりません。今日来ておられた貴族の皆様にどんなふうに伝わったのか心配になってきました」
「陛下が宰相の夫婦喧嘩に口を挟んで失敗したので黙っておいてくれと緘口令を敷いてくださった」
「それでも明日からどのような噂が駆け巡るのか心配ですわね」
「貴女に不利になるようなことはないと断言できるよ。情けないのは私だから」
話題を変えるために
「食事をいただきませんか?お腹が空きました」
と言った。ほっとしたような顔の旦那様が応えてくださったので良しとする。
「そうしよう、ドレスを着替えると良い。苦しいものなのだろう?私も着替えてこよう。食事は用意させるから後で貴女の部屋で食べよう」
「そうですの、これでもかとばかりに締め付けておりますのよ」
と笑顔で答えた。
「女性は大変なのだな、ではまた後で」
メイド達を呼んでドレスを脱がせてもらい、コルセットを外してもらうとやっと息が楽に出来るような気がした。湯浴みも簡単にする。普段用に買って頂いたワンピースに着替えるとやっと人心地がついた。
旦那様が扉をノックされ「どうぞ」と言うと入ってこられた。
後ろには軽食を載せたワゴンを押したシンがいた。
「ゆっくり話させてもらおうと思って色々作ってもらった。貴女は好きな物だけ食べてくれ」
「どれもとても美味しそうですわ、遠慮なくいただきますね」
「美味しそうに食べるのだな、見ていて気持ちがいい」
「旦那様もお召し上がりくださいな、食べながらお話を聞かせてくださるのでしょう?」
それから私はあの夜起こっていた大災害の話を聞いたのだった。
「そんなに酷いことが起きていましたのね。日記には何も書かれていませんでしたので私の元までは情報は入って来なかったようです。どこにも行っておりませんでしたから仕方のないことだったのですけど」
「肝心の私が伝えていなかったのが、原因だったのだから気にする必要はないよ」
「侯爵家として出来ることがあったかもしれませんが、もう済んだことですものね、これ以上は言わないことにします」
「助かるよ、心を抉られるようで辛い」
「私も旦那様に打ち明けなければいけないことがございます」
「えっ、心臓に悪いことじゃないよね?」
「それほどではないと思いますけど」
「好きな男ができたとか言う話なら聞かない、聞きたくない」
「まあ、そんなこと考えたこともございませんわ。実は私仕事をしていますの」
「ああ、家のことを完璧にしていたと聞いているよ」
「それではありません、翻訳の仕事をしていますの」
「それではこの部屋にある海外からの本を訳しているのが貴女ということなのか?名前はペンネームというわけか。少なくとも数カ国語はあるじゃないか。才媛だったのだな、素晴らしい」
「怒ったり呆れたりされないのですか?この国は貴族の女性が働くのは恥ずかしいとされていると聞きました。てっきり旦那様もそういう方だと思っておりました」
「能力のある人はどんどん実力を発揮すればいいと思う。男女関係なく、身分も関係なく」
「進んだ考え方をされる旦那様でしたのね、知りませんでした」
「誰かに話すのは初めてなのだ。貴女だから話したいと思った」
「外国にはそういう制度の国もあるのです。試験さえ受かれば登用されるのです。国が豊かになっており羨ましいと思っておりました。我が国も是非そういう仕組みがあればと考えていました」
「貴女には本当に驚かされることばかりだ。翻訳の仕事は楽しいのかい?」
「はい、新しい知識が学べますし、自分で働いたお金があるというのは心強いものでした」
「ではどうだろうか?翻訳は週のうち三日にして貰って家政に力を貸してもらうというのは。疲れるといけないから人を増やそう。毎年の夫人としての予算はもちろん貴女の物だからどう使ってもらっても構わない。
あっ、こんなだから駄目なんだな、ビジネスじゃないのだからやり直させて欲しい」
そう言うと跪いて
「私と結婚して下さい。貴女を愛しています、幸せにします」
と愛を告げられた。いきなり、いきなりなの?でも言わなくては
「こんな私で良ければ喜んで」
「ああ、良かった。断られたらどうしようかと思っていたので怖かった」
そう言うとぎゅうっと抱きしめられた。
「だ、旦那様?とても自信があるように見えましたわ。もう一つ隠していたことがありますの」
「なんだろうか?」
慌てて腕を離すとまじまじと顔を見つめてきた。可愛いかもしれない。
「そんなに身構えないでくださいませ。街に小さな家を買っております。離縁したらそこで暮らすつもりでしたの」
「いつから?」
「記憶をなくして、日記を読んですぐでしょうか。旦那様には愛人の方がいると思っておりましたので前々から準備していたようです」
「驚かされることばかりだ。随分行動的な奥様だったのだな。話ができるようになっていなければ捨てられるところだったとは。これからは全力を尽くして私の気持ちを伝えていくから覚悟して」
「お受けしますわ、楽しみです。訳している恋愛小説くらい甘くしていただいても構いませんわ」
「読ませてもらってもいいだろうか?ライバルとして参考にしよう」
「貸して差し上げますけど、原語の方がより参考になるかと思いますが」
「何故?」
「表現が直接的としか言えません。我が国では許されていない言葉が出てきますので」
「では両方読んでみるとしよう。楽しみだ。側においで」
そう言うと肩を抱かれ隣に座らされた。髪を撫でられ頂きに口付けされた。
そういうことに免疫のない私は真っ赤になるしかなかった。
「全力で貴女を落とすと言ったでしょう。まだ始まったばかりだよ」
旦那様の雰囲気が怪しい物になってきた。まずいわ、煽りすぎたかもしれない、本の知識でしか知らない耳年増だった。
耳の近くで囁かれた。
「初夜のやり直しをしてもいい?」
熱い息が耳にかかる。弱いかもしれない、何なのこの色気。キスもしていないのにどきどきしてきた。
「可愛い、全部食べたい。全てが愛おしい」
顔中にキスを落とされた。額、瞼、頬、耳を舐められた。「ひえっ、あっ」
「反応が可愛すぎる、反則だよ」
反則は貴方です、旦那様。許容量を超えた私は意識を飛ばした。
誤字脱字報告ありがとうございます。大変助かっています。感謝しかありません。
色気だだ漏れのロビンです。奥手のウィステリアはたじたじです。次回はもっと攻めます。
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