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旦那様の前進

お立ち寄りいただきましてありがとうございます。なんちゃって世界のゆるふわ設定です。

広い心で読んでくださると嬉しいです。

 ウィステリアは規則正しい生活を送り始めた。

朝起きたら少し庭を散歩し、朝食をロビンと食べる。会話は二言三言だ。「おはようございます。今日もいい天気ですね。美味しいです」がほとんどだった。


翻訳の仕事をし昼食、旦那様はいたりいなかったりした。食後のお茶を楽しんでから翻訳の続きに取り掛かる。

午後のお茶の後は庭に出て散歩をする。朝と違いゆっくり見て歩く。

侯爵家の庭は美しい。広すぎるので一時間ほどにしている。


それから夕食、お風呂、読書をして就寝だ。

夕食の時に今日あったことを話す。

大体が「本を読んでいましたわ」と「お庭の花が綺麗でしたわ」くらいだ。

相変わらず「お休み」を言いにお部屋に来られる。不思議な人だわ。


夜会の準備のために一週間に一度メイドが二人がかりでエステをしてくれる。

気持ちが良すぎる。

ひと月もこんな生活をしているので、肌は健康になり輝くようになってきた。

髪は入浴のたびにサラが手入れをしてくれるので艶がありサラサラだ。


旦那様は仕事に復帰するようだ。宮殿へ行けば書類の山が待っているんだろうけど、幸せに思うのだろう仕事人間だから。



また帰って来なくなるのだろう。執務は誰がするのかしら。文官と執事だろうか。


ある日旦那様が大きな箱を持って部屋にやってきた。事前にサラから聞いていたので、原稿は片付けてある。

続けて入ってきたのは侍従かしら。


「ウィステリア、これが夜会のドレスだ。気に入ってくれるだろうか?」

箱を開けるとシルクの生地に金色の糸で刺繍が施され、サイドに黒いレースが縫い付けられているスレンダーなドレスが出てきた。

首周りは程よい開き加減、袖は手首まである。


「まあ素敵ですわ、ありがとうございます」

侍従が旦那様にベルベットの箱を渡した。


「これも一緒に受け取ってほしい」

ダイヤモンドのネックレスとイヤリングだった。


「ブラックダイヤモンドですか?」


「光り輝く君には及ばないだろうけど」


「旦那様はお世辞がお上手だったのですね」


「いや、決してお世辞などではない。本心だ」


「そうですか、ではこれを着る日を楽しみに致しますわ」


「美しい君の姿を見るのが待ち遠しいよ。ここに控えているのは侍従のシンだ。私の乳兄弟になる。これから会うと思うのでよろしく頼む」


「シンと申します、よろしくお願い致します」


「ウィステリアですわ、よろしくね」


旦那様が本棚に目を向けて言った。


「ここにある本は君の趣味だろうか?いろいろな分野の本が置いてあるんだね」


「そのようなものですわ」


「医学書まで読むのか、凄いな。医学に興味があるのかな?」


「雑学程度ですわ。色々な知識を得るのは楽しいですから」


「知識欲が旺盛なのだね、素晴らしいな。知らなかった。知ろうとしなかったのだけど」


「旦那様に比べたら大したことはないかと思いますわ。宰相様ですもの」


「新しい発見だ、知らない君を見つけるのは嬉しいよ。明日もまた知らない君が見れたらと願う。では失礼する、また夕食で会おう」


「素晴らしい贈り物ありがとうございました」




「奥様は知性あふれる方だったのですね」


「ああ、何も知ろうとしなかった自分が情けないよ」


「明後日から宮殿でのお仕事です。時間は有限ですよ、どうされるつもりですか?」


「観劇に誘ってみようと思うのだが、何かいい出し物はないだろうか?」


「想い合っているのになかなか結ばれない恋人達の舞台が人気だそうです。手配しますか?」


「頼む、それと帰りのレストランも予約を入れておいてくれ、店は任せる」


「ドレスの手配もしませんと」


「ドレスショップはまた一緒に行くとして、彼女に似合いそうなドレスを五着くらい持って来てもらってくれ、プレゼントにしたい。日常に着るものも必要だな、それも頼んでおいてくれ」


「かしこまりました、早速手配致します。奥様の為ですから」


「一言多いぞ」


「今までのようなわけにいかないのを、理解されたようですから協力を惜しみませんよ。ずっと居ていただかなくてはなりませんので」


「そうだな、どんなことでもやっていかないと逃げられてしまいそうだ。諸外国の地図まで置いてあった」


「気が付きました。恋愛小説もありましたが、本がお好きなのでしょうね。

どの分野がお好きなのでしょう。今度色々取り寄せてみましょうか」


「夕食の時に聞いてみよう、話題ができて良かった。何を話していいのかわからなくてあまり話せていなかった」


「思春期の男子ですか、愛想をつかされる寸前なのですから頑張っていただかないと」


「仕事のほうが楽な気がする」


「だから駄目なんです、御自分のなさったことを猛省されたんですよね。ちゃんとやり遂げるまで逃がすつもりはありませんから。奥様に幸せになっていただかないと侯爵家の恥ですよ」


「分かっているんだ、女性と関わって来なくてやり方がわからないだけだ」


「昔から何でも卒なくこなされるのに奥様相手だとポンコツですね」


「彼女は特別なことがやっとわかったのだが、最初に間違えてしまって躓いた」


「あの事件さえなければ普通に夫婦になられていたかもしれませんが、後のフォローができなかったのが、一番の汚点ですね。いくらでも挽回するチャンスがありましたのに」



一年前のあの日王都を騒がせていたのは、地方で起きた大災害だった。

未曽有の大雨と風が吹き荒れ竜巻まで起こり一つの広大な土地が一夜にして荒野になった。家も豊かに実っていた畑も牛や馬も飛んでいったそうだ。

亡くなった人々の数は数千人に及んだ。



その土地の領主が王家に救助を求めて来たのだ。

当然王家は救援物資や人手を送り助けに向かった。

命からがら逃げ出した民を他領に置いて貰うように伝えたり、炊き出しを行なった。



各分野の文官も呼び出され仕事漬けになった。災害に遭った人々よりは、少しましだろうなと言うくらいに疲れ果てて机の上にある書類と格闘していた。


色々な事務仕事が山のように積み上げられやってもやっても終わりが来なかった。一息つけたのが一週間後だったのである。

食事をし、眠り身体を清めほっとした時に、家人に何も告げず屋敷を飛び出してきたことに気がついたのだ。さぞかしハラハラしていたことだろう。


置き去りにされた花嫁のことを思うと、自分の迂闊さに嫌気が差した。

きちんと顔を見て謝ろうと思っていたのに、いざ行動に移すとなれば情けなさが先に立ち、何も言えなかった。

それが一年である。呆れてしまう。

こんなに情けない男だとは自分でも気がついていなかった。


第三王子に

「ロビンは結婚式の後飛んで来たのではないか?初夜もしていないだろう。

花嫁に悪いことをしてしまった。詫びに行こうか」とまで言われてしまった。

滅相もないので止めていただいた。


記憶のない妻は十九歳だ。私は二十五歳で六歳年上だが妻が私の年齢を知っているかどうか怪しい。ちゃんと言っておかなくてはいけないと思う。


ドレスを贈り演劇のチケットを見せてデートに誘った。


「この演目が人気があるらしい。一緒に行ってみないか?」


「以前から評判が良かったそうで観てみたかった舞台ですわ。人気でチケットが取れないと聞いておりましたので、是非連れて行って下さいませ」


「それは良かった。当日までにドレスを贈るから君は一緒に行ってくれるだけでいい」


「お仕事は宜しいのですか?」


「その日は休みだ、気にしてくれてありがとう」


「えっ、お休みがあるのですか?取れるのですね」


「大きな仕事が片付いたので休みが取れるようになった」


「そうですか、では楽しみにしておきます」



数日後、沢山のドレスと靴が部屋に届けられ、ウィステリアは困惑することになり、こんなに沢山のドレスどうすればいいのと呟くことになった。













誤字脱字報告ありがとうございます。大変助かっています。訂正しました。

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