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離縁の攻防

お読みいただきありがとうございます。お楽しみくだされば幸いです。

 ウィスタリアは相当疲れが溜まっていたらしく、元のような体力に戻るまでに一週間もかかってしまった。

本を読んだり、庭を散歩したりして過ごした。

仕事という義務から離れ、何もしないでいるのは随分久しぶりな気がした。


別れると決めた以上執務を手伝う気にもなれなかった。

夫に離縁を言い出す時が来たと思ったので、サラに頼んでロビンと面会する約束を取り付けてもらった。

執務室の扉をノックした。

「どうぞ入って」という声がしたので入り夫の姿を確認した。


「体調はどう?」

「おかげさまでだいぶ楽になりました。つきましては旦那様、離縁してくださいませ」

「えっ、どうして?」

「そんなに驚かれなくてもいいではありませんか。旦那様は私のことがお好きではないのでしょう?だから初夜からずっと放って置かれたのですよね」

「いやそれは申し訳のないことをしたと思っている」

「そう思われるならこれにサインをして下さいませ。そして一年間働いた賃金としてそれ相当の金額を頂きたく思います」

「うっ・・・」

「契約上は夫婦ですけれど、ねぎらいの言葉も贈り物も何一つ頂いてはおりません。もはや雇用主と従業員としての関係で考えられていたのではないかと思うのですがいかがでしょう?」


「すまない、反省している」

「言葉ではなんとも言えます。それに加え私は記憶をなくしてしまいました。

もうお役目は充分に果たさせて頂いたかと思うのですが」


「君にしていた酷い仕打ちは夫として許されないことだと思う。やり直すチャンスを貰えないだろうか?」


「旦那様は愛人がいらっしゃるのではありませんの?その方とお暮らしになればよろしいかと思いますわ」


「愛人などいない」


「そうですか、まあどうでもいいですけど。私に関心がなかったのは本当の事ですもの」


「お願いだ、もう一度チャンスをくれないか」


「困りましたわ、離縁する気でおりましたのに」


「お願いです、もう一度チャンスをください」


ロビンは机に頭を擦り付け許しを願った。


「私、本当に何も覚えておりませんの。屋敷の方のお名前も貴族の方のお名前や特産物。全部分かりませんのよ。お役に立てるとは思えませんわ」


「分からない所は私が補う。だからもう一度やり直すチャンスを貰えないだろうか」


「どうしてですの?今更ですわ。私日記をつけていましたので今までのことが理解できたのです。

初夜で見限られたときだけは落ち込んだようでしたけれど、それ以外は旦那様にどうこうしていただこうとは考えていませんでしたわ」


「謝っても、謝っても、許してもらえないのは分かっている。それだけのことをしてしまったのだから。ただ君のことが嫌いでした訳では無い」


「ああ、そちらの・・・」


「違う、君の考えている事は間違いだ」


「あらそうなのですか、ではやはり私に魅力がなかったのですね。

好みがありますから仕方がありませんけど、貴族である以上考えていただきたかったですわね」


「君はとても好みだ」


「ますますわかりませんわ。好みの女を抱いてはいけない神様を信じていらっしゃるとか」


「そうではない。初夜の日は緊急の仕事だった。一週間缶詰になっていた。

風呂も入れなかったし寝てもいない」


「大変でしたわね、その時に襲われたとか?」


「誰にも襲われてはいない。また変なことを考えているだろう」


「一睡もせず一週間働き通しなら、おかしくなる方もいらっしゃるかと思っただけですわ」


「君はとても面白い人だったんだな、もっとおとなしい人かと思っていた」


「記憶がなくても性格は変わらないと思いますのでこのような感じだったと思いますけど」


「もったいない事をしたんだな。仕事ばかりでつまらない人間だ、私は」


「反省は一人でゆっくりなさって下さいませ。さあサインをして下さいな」


「あと半年、猶予をくれないか。君が考えを変えてくれるよう頑張らせてくれないか」


「お仕事が忙しいのではないですか?帰って来られる時間がありますの?」


「帰ってくる、何としてでも」


「私は旦那様に好意は抱いておりませんし執務もお手伝いしません。

離縁したいのですから。 

昼間は何をしてもいいと言われるなら留まってもいいです。仕方がなくですが」


「浮気は困る。それ以外なら自由にしてくれてかまわない。

君に使う予算は去年の分は君の資産として銀行に預けるようにしよう。

去年働いて貰った分はそれに足しておくよ。今年の分は好きに使ってもらってもいい。

ドレスを買うなり宝石を買うなりすればいい」


「あまり興味はありませんわ。着て行くところもありませんし」


「夜会には付き合ってもらえるだろうか?」


「夜会ですか?二人で出席したことはございませんわよね。

行かないほうが離縁後のためにいいのではないでしょうか?

あっ、結婚している事実を皆様に見せて虫よけにしたいのですね。

それなら仕方がありません、一度くらいお付き合いします」


「君の発想に付いて行けない。君の事は守るからお願いしたい」


「いつか分かりますか?準備がありますので」


「確かひと月後かな」


「ドレスが間にあいません。却下です」


「そんなものなのか?どれくらいあれば出来るものなのかな?」


「夜会ともなると、皆様が頼まれますので三ヶ月は必要かと。早くてですわ。

お頼みになったことがございませんの?」


「ないよ、誰にも贈ったことはない」


「意外ですわ。ああ、おしゃべりし過ぎてしまいました。とても長くお話ししましたわね。初めてでしたのに、離縁の話だなんて普通考えられませんわね」


「私が悪かったからだ。すまない」


「ここに書類は置いておきますからサインをお願いしますね、ではごきげんよう」



ウィスタリアが執務室から出ていくと、壁になって立っていた乳兄弟で執事のシンが笑いを堪えながら話しかけた。


「奥様、随分と面白い方だったね。ロビンが振られたら立候補しようかな」


「駄目だ。手放さない」


「御本人は別れる気満々だったじゃないか。執務は完璧、家政も使用人に慕われるくらい完璧、その上夜は勉強をしていたそうだ。

誰かさんのせいで夫に顧みられない可哀想な奥様という噂まであったんだぞ。

その上記憶喪失なんて、可哀想で目も当てられない。自由にさせてあげなよ」


「自由は与えた。後はリベンジを頑張る」


「だから、屋敷に帰れって何度も言ったのに聞かないからだ」


「初夜をあんなことにして何と言って謝れば良いのかわからないまま時が過ぎてしまった」


「ヘタレすぎるだろう、俺は奥様の味方だからな、お前の味方はしない」


「そんな事を言わないでくれ。それよりもパーティ用のドレスを頼みたい。

色は金色と黒を入れたものが良い。デザインは俺がチェックを入れる。

宝石屋にも連絡を入れてくれ」


「かしこまりました、旦那様」




部屋に帰ったウィステリアは大きな息を吐き出した。まさか離縁を拒否されるとは思っていなかったからである。


サラがお茶を持って来てくれた。話を聞くと


「この期に及んで何を言っているんでしょうね、未練なんてあったんですかね。でもここで仕事が出来ますね。鍵さえ閉めておけば誰にも分かりませんし。街の本屋へ行くのは私の仕事ですね」


「私も行くわよ、自由にして良いと言われたんだから。羽根を伸ばすわ」


「正体バレて良いんですか?」


「離縁するまで我慢するかな。そうだ、変身すればいいのよ、紫色の鬘が欲しいわ、庶民用の服もいるわね。

万一のために護衛もいたほうが良いかもしれない。信用のおける人っている?」


「いますよ、奥様のファンで口の堅い人が。剣も強いです」


「旦那様に言って街歩きの時に付けてもらうわ」


「今まで街にも行っておられませんでしたものね。お忙しすぎて」


「楽しくなってきたわ、時間があるって良いものね」










誤字脱字報告ありがとうございます。訂正しました。大変助かっています。

離縁する気満々のウィスタリアと今更なロビン。巻き返すことは可能なのでしょうか?

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