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ロビンの想い

これで最終回となります。読んでくださりありがとうございました。

 その人を見つけたのは宮殿でのデビュタントが行われたときだった。沢山の少女達が白いドレスを着て集まり、エスコートの相手とともに立っていた。

彼女のいるところだけがスポットライトが当たったように輝いていた。

隣にいるのは兄だろう、顔がよく似ている。けれど雰囲気がまるで違う。

少女が凛としているのに兄らしき人物には覇気がない。直ぐに部下に調査を命じた。


優秀な部下は彼女がウィステリア・サダール伯爵令嬢であること、家族は両親と兄が一人、父親は愛人にかまけて伯爵家の執務に関わっておらず夫人がすべてを取り仕切っていることを調べ上げてきてくれた。


彼女を逃がしたくない、捕まえておけという想いが強く心を支配した。

これでも宰相、侯爵家当主である。多くの令嬢から狙われていたが心は動かなかった。仕事人間だったせいか女性に興味がなかった。

追い回されすぎて辟易していたのもある。


いい加減身を固めよと陛下から言われていたが、仕事が忙しすぎますと言うと

黙ってしまわれるので、そのままにしていたのだ。


なのに、彼女が現れた。私より六歳も年下だがよくある話だ、早速伯爵家に婚約の申し込みをした。


顔合わせの時には侯爵家に来てもらった。伯爵夫人と一緒に現れたウィステリアは、その名のような薄紫のドレスを纏っていた。

藤の花の妖精なのか?美しすぎる。


「ようこそおいでくだいました、侯爵家当主のロビン・カスクルートです。宰相をしております」


「サダール伯爵の妻アメリアと娘のウィステリアでございます。お目にかかれ光栄でございます」


「お嬢様への婚約の申し込みをお受けしていただき感謝に耐えません」


「こちらの方こそ宰相様のような素晴らしい方に娘を娶っていただける幸運を喜んでおりますわ」


「お嬢様のことは必ず幸せに致します。裏切ったりいたしませんのでご安心下さい。一生お守りします」


私がそう言うと伯爵夫人はほっとしたようだった。


「では、わたくしは席を外しますので娘とお話くださいませ」

伯爵夫人はそっと席を立った。シンに応接室でもてなすように指示を出した。


「そうさせて頂きます。こんにちはウィステリア嬢、君のことをデビュタント会場で見かけて婚約の申し込みをさせてもらった。一目惚れだった」


「初めてお目にかかります、一目惚れ?そんな事がありますの?」

何だこの可愛さは、初々しさが半端ない。

「そうだよ、あの会場の中で君が一番輝いていた」

「よくわかりませんが、ありがとうございます」

「君と二人で温かい家庭を築いていきたいと思っている。いいだろうか?」

「はい、是非お願いします」


こうして僕たちの初顔合わせは無事に終わった。婚約の書類にサインをし陛下に了承を頂いた。結婚式は彼女が学院を卒業したらということになった。

待ち遠しかった。


毎日花を届け、影をつけ学院や家での様子を知らせてもらった。もちろん危険から守るのが主だ。宰相の婚約者ということで狙われる可能性が格段に高くなったからだ。護衛も侯爵家から数人派遣した。

手紙も送った。彼女からの返事は大切に読んでから金庫にしまった。

僕の宝物だ。



彼女の学院生活は穏やかに過ぎていた。時々嫌味を言われているようだったが、余りに酷い輩は裏から手を回して潰しておいた。


僕のウィステリアに何をしてくれるの、許さないよ。



デートは二週間に一度くらいはするようにしていた。

仕事が忙しく今日は久々のデートの日だ。一ヶ月ぶりかな、伯爵家に迎えに行くと薄桃色のドレスで玄関まで出ていてくれた。僕の癒やしだ。


「今日も可愛いね、そのドレス良く似合っている。天使かと思うくらいだ、飛んで行かないでね」


「どこにも行きませんわ、ロビン様今日はどこへ連れて行って下さいますの?」


「街だよ、君を連れていきたいところがあるんだ」


「楽しみです」

にこっと笑った顔が可愛い。


馬車を少し走らせると街なかに着いた。馬車を止めさせウィステリアをエスコートして宝飾店に連れて行った。

支配人が飛んできた。

「宰相様、サダール伯爵令嬢様、ようこそおいで下さいました。どうぞこちらへ」

「頼んでいたものを出してもらえるかな」

「こちらでございます」

そう言って並べられたものは大きなダイヤモンドの指輪だ。

ウィステリアが驚いている。


「君のために取り寄せてもらった。結婚式で着けてほしい。サイズを調整してもらうために来たんだよ」


「とても嬉しいですわ、ありがとうございます。驚きすぎて息が止まりそうです」


「それは困るな、どこにも行かないとさっき言ってくれたばかりじゃないか」


「素晴らしすぎるのですもの」


「君によく似合うよ。イヤリングもお願いしたい、支配人良いかな?」


「もちろんでございます、デザインはどのようなものがご希望ですか?」


「雫のような形がいいね、ドレスを着た時に目立たないといけないからね。ウィステリアの方が目立つに決まっているけど」


「素晴らしい婚約者様を見つけられて、本当にようございました。イヤリングは当店からの結婚のお祝いとさせたいただきます」


「支配人、感謝する」

「ありがとうございます」


「これからもお二人の末永いお幸せを願っております」





あれから暫くしてウィステリアの母親の伯爵夫人が病を得て儚くなられた。

葬儀で泣きもせずテキパキと動いてたウィステリアの健気な姿と対象的に父親と息子は全く役に立っていなかった。

長年顧みなかった妻に死なれて呆然としていただけだった。あれでは伯爵家はあと何年持つか分らない。早めに婚約して良かった。支度金目当てでどこかの貴族と結婚させそうな父親だ。


私が贈った支度金は夫人がウィステリアの個人資産にしているらしい。しっかりとした人だった。


葬儀の後声を掛けると涙を一杯にためた瞳で僕に縋ってきた。抱きしめて泣かせてあげた。こんな悲しそうな君をすぐにでも僕の元へ連れ去ってしまいたいと思ったよ。



やっと卒業式が終わって君が僕の花嫁になる日が来た。

空は高く晴れ渡っていて僕たちを祝福しているようだった。


君は金色の髪を綺麗に結い上げ僕の贈った指輪とイヤリングを身に着け、真っ白なレースの豪華な衣装に身を包んで僕のもとに歩いてきてくれた。

幸せすぎて泣くのではないかと思ったくらいだったよ。


神様の前で誓いを立てベールを上げてキスをした。

大勢の参加者の前でウィステリアを抱き上げた時は胸が苦しいほどの幸せを感じた。


なのに愚か者の僕は宮殿からの使いに驚き、あの大失態をやらかしてしまった。


君と一年近くも話をしていない。話したいと思っても自分の愚かさに声が出なかった。



そして宮殿に屋敷から君が倒れたという知らせが届いた。急いで戻ると真っ白な顔をした君がベッドに寝かされていた。君を永遠に失うのではないかと思ったら腰が抜けたようになってしまった。

僕は何をしていた?申し訳ないと思ったら謝っておくべきだったのに、君を傷つけたままでいなくなられるのは嫌だ。


ベッドの側から動かない僕を、君のメイドが鬼のような顔で睨みつけてきた。


「私がこのようなことを申し上げるのは不敬とは思いますが、旦那様は酷いお方です。結婚前はあれほど仲良くされていましたのに、結婚式の後から放っておかれた奥様の悲しみがどれほどのものかお分かりになっておられますでしょうか?

旦那様からいただかれた宝石類は箱にまとめて入れておられました。いつでも離縁を言い渡される覚悟をしておいででしたので」


「君の言う通りだ、情けない男だと自分でも思っている。ウィステリアが目を覚ましてくれたらどんな償いでもするつもりだ。宝石はこの部屋の金庫に厳重に鍵を掛けてしまっておいて欲しい。もし売って欲しいと言われたら売ってもいいが、やり直すつもりでいるからできるだけ避けて欲しい。浮気などはしていないよ、安心して欲しい」


「出過ぎたことを申しました。お許しください」


「いいよ、君だけが味方だったんだろうな。どんなに心細かったことか、悔やんでも悔やみ切れない」







ベッドの上で気持ちよさそうにすやすやと隣で眠っているウィステリアの髪を撫でながらロビンはこれまでのことを思い出していた。


倒れる以前の事はすべて記憶のない妻は自分を許してくれた。

甘えてくれるのが何より嬉しい。胸に頭を擦り寄せ自然に抱き着いてきてくれる。眠っていて無自覚なのにこの可愛さだ。あの時目を覚ましてくれて本当に良かったと思う。神様に感謝しなくては。


旦那様、離縁してくださいませと言いに来たウィステリアは可愛かった。怒っているのに可愛いってどうなの?


眠っている妻の顔中にキスを落としてしまった。目を覚ましたら怒るだろうか?楽しみだ。幸せで一杯のロビンだった。

誤字脱字報告ありがとうございます。大変助かっております。感謝しかありません。

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