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記憶喪失

新連載始めました。サバサバした女性主人公の話になります。楽しんでいただければ嬉しいです。

ある日私は見知らぬベッドで目を覚ました。三十歳位のメイド服を着た女性が

「奥様、気が付かれたのですね、良かったです」

と言って抱き起こし水を飲ませてくれた。余程喉が渇いていたのだろう、とても美味しく体に染み渡るような気がした。


「ねえ、貴女はなんという名前かしら、ここは何処なの?私の名前は・・・分からない。何も分からないわ」


「奥様、何も覚えていらっしゃらないのですか?直ぐにお医者様を呼んできます。そして胃に優しい食べ物をお持ちいたしますのでお待ち下さい」

その女性は急いで部屋を出ていった。


私はこの屋敷の奥様なのかしら、あの女性は私の味方?敵?ここは私の部屋のよう。凄く落ち着けるから。後で部屋の中だけでも歩いてみましょう。そう思っているとお医者様がやって来られた。ベッドで診察を受けた。


「一週間気が付かれなかった割にはどこも悪いところはないですな。身体は衰弱しておられますが。記憶がないのですか?少し検査しましょう」


と言って指を一本出し何本か聞いたり、本を見せて字が読めるか確かめたり、色々なことを尋ねられた。


「奥様は人の名前とそれに関係することを忘れておられます。

マナーとか文字とか外国語まで覚えていらっしゃいますので、生活に支障はないでしょう。

記憶喪失の原因は倒れる前のことをお聞きした限り過労とストレスでしょう。

記憶は戻るかどうかはわからないのものです。明日戻るかもしれませんし、永遠に戻らないかもしれません。気を楽にされるのがいいですよ。

水だけだったので、最初は柔らかいものから始めて徐々に普通食にして下さい」


「ありがとうございました」

侍女がそう言いお医者様が出て行かれると、他のメイドがミルク粥とりんごの磨り下ろしたものを持ってきた。


「美味しそうだわ、頂くわね」


食べると人心地がついた。


「私の名前はサラと申します。奥様が伯爵令嬢だったお小さい頃から側にいさせて頂いております。

奥様はウィステリア・カスクルートというお名前です。侯爵夫人でいらっしゃいます」


「サラさんよろしくお願いしますね」


「もうすぐ旦那様が帰って来られると思いますので、詳しいことは旦那様からお聞き下さい。もし私で答えられることがあればお答えしますのでご遠慮なくお聞き下さい。ではお疲れでしょうから暫くお休み下さい」


私は確かに眠くなってしまい、もう一度目を閉じる事にした。


ウィステリア、ウィステリア記憶がないなんて可哀想に・・・という男の人の声で目が覚めた。目を開けるとそこには金髪で黒い瞳のイケメンが私の顔を覗き込んでいた。


思わず


「どちら様でしょうか?もしかしたら旦那様でしょうか?」

ゆっくり起き上がりながら聞いた。


「本当に覚えていないの?君が眠っている間何回か帰ってきてみたんだけど目を覚ます様子がなくて、仕方なく仕事に行っていたんだ」


「あっ、こんな格好で申し訳ございません」


「君は病人なんだからいいんだよ、気にしないで、でもガウンを羽織ろうか?」


「はい、ありがとうございます、旦那様のお名前をお聞きしてもよろしいですか?」


「ロビン・カスクルートだ。宮殿で宰相をしている」


「宰相様ですか、お忙しいのでしょうね」


「忙しすぎて君には寂しい思いをさせていたかもしれない。申し訳ないと思っている」


「ご心配ありがとうございます」


「心細いだろうから暫く家で仕事をすることにした」


「宰相様の仕事って家で出来るものなのですか?無理をされなくていいですよ」


ロビンは妻がこんな感じの人だったのかと認識を新たにした。物静かな女性だと思っていたからだ。やけに明るい。空元気なのだろうか。


「夕食がもう少ししたら来るはずだ。私も一緒に食べていいだろうか?」

「私の食事は柔らかいものです。旦那様は違うメニューですよね」


「病人食は食べられないからね」


「ところで私はどうして記憶をなくしたのでしょうか?部屋で倒れていたそうです。どこをぶつけたわけでもないそうなんですけど。旦那様は聞いておられますか?」


「いや、君が倒れたと連絡をもらったので急いで帰ってきたら、もう君はベッドに寝かされて意識がなかった」


「仲良くしていただいていたのでしょうか?」


「私が望んだ結婚だったのだが、一年経つのだが仕事が忙しく家に帰ることが数えるほどしかなかった。すまない」


「なるほど、結婚さえすればいいと思っていらっしゃったのですね」


「そんなことはないが、君には酷いことをしたと思っている。家の執務も手伝ってもらっているから」


「以前の私がどう思っていたかは分かりませんが、休息が必要だとお医者様に言われましたので何もしないことにしますわ」


「ああ、ゆっくり休んで欲しい」


それから私達は食事を頂いた。病人食と普通食は余りに違いすぎて、普通食に戻るまで、旦那様には別で食べてもらうようにお願いした。目が欲しいと言っているのに食べられない、何の拷問かと思った。


食事が終わったので少し部屋の中を歩いてみることにした。本棚と沢山の本。婦人用の机と椅子。ソファーにテーブル。お風呂とトイレ。落ち着いたインテリアの部屋だった。


引き出しを開けてみたら鍵のついた日記帳が入っていた。鍵は小さな赤い箱の中に入っていた。取り出してそっと中を読んでみた。自分の日記なのに、知らない人の日記を読むような罪悪感があった。


一ページ目を読んで、自分が可哀相になった。あの男初夜に来なかったらしい。

字が滲んでいた。多分涙だ。結婚式の後仕事が入ったと出て行ったまま帰ってこなかったようだ。

白い結婚なのね、巷の恋愛小説に溢れている物語が自分に起きていたなんて、衝撃しかないわ。

読み進めていくと、この一年で数回しか屋敷に帰っていない。食事を一緒に摂ったら直ぐに仕事に帰って行ったとある。

馬鹿にしてるわね。夫人としての予算をもらっているから贈り物も無し。

宮殿内に愛人でもいるのだろうと書いてあるわ。なんてこと。


私の予算には手を付けていない、けれど隠し預金が銀行にあるらしい。私は何をしてお金を貯めていたのかしら。


執務をしていたのなら給料として予算から頂いておきましょう。ドレスも作ってないようだもの。合わせると家の一軒くらい買えるかもしれないわ。

サラのことは信用しても良さそう。子供の時から面倒を見てもらっていたのね。


何をして預金を作っていたのか聞いてみよう。


お風呂に入りたいとサラを呼んだ。



寝る用意が整うとサラに私が何をしてお金を稼いでいたのか、この屋敷での立場はどうだったのか聞いてみた。旦那様に蔑ろにされている妻ってどうなのか気になるところよね。倒れていた時の状況も聞きたいわ。


「奥様は翻訳をされてお金を手にしていらっしゃいました。昼間は執務を立派にされていましたので、奥様は人望があります。

夜翻訳をされていたのでお体を壊されたのだと思います。働き過ぎですと申し上げたのですが、未来のためだからとおっしゃって、お聞き頂けませんでした。

あれが帰ってきていませんので色々噂になって、悩んでおられたかとおいたわしく思っておりました。

お聞きになったかと思いますが、倒れられていたのはこのお部屋です。床に蹲るようにされていてどこか具合がお悪いのかと駆け寄ってみましたら意識を失われておられました」


「あれだなんて聞こえたら大変よ」


「お嬢様を飼い殺しにしていたんですからあれで充分です。お子様が出来ている可能性はないかと思われます」


「そうよね、はっきりしたから次の行動に出られるわ。まずは家を買いたいわ」


「離縁されるのですか」


「もちろんよ、役目は果たしたと思うの。支援金も実家が使っているのでしょう。日記に書いてあったわ、実家は頼りにならないのでしょう。結婚して縁も切れたし、離縁してここを出て平民になったとしても暮らしていけるわ」


「スッキリされるのですね、私もお供いたします、お嬢様だけでは日常のあれこれが出来るとは思われませんから」


「ありがとう、助かるわ。翻訳の取引先は何処なのかしら?」


「街の大きな本屋です。偽名を使われていますので、そこから足がついて探されるということはないかと思います」


「家を探さないといけないわね」


「お嬢様が以前目をつけられていたところがあるのです。街の中ですが目立ちにくい所です。下が台所とお風呂と二部屋で二階が三部屋あります」


「素晴らしいわね。ねえそこを買っておいてくれないかしら」


「判断がお早くなりましたね」


「倒れるほど追い込まれていたのよ、早くなるわ。もしかしたら離婚用紙も書いてあるとかかしら」


「多分あると思います」


「着なくなったドレスも売りたいわ。どこか知らない?」


「お任せ下さい、売ってきます。買い取ってリメイクして売る店が流行っているんです」


「サラは頼りになるのね」


「この一年悔しかったので色々勉強しておりました」


「ありがとう、唯一の味方ね。そうと決まればもう寝るとしましょうか」


「はい、おやすみなさいませ、お嬢様」


「おやすみ、サラ」


身体が元に戻るまで静養させてもらわないといけないが、準備は着々と進めておかなくてはね。

後で盗まれたと言われても困るから夫人としてのお金は頂きたいと言っておかなくてはいけないわ。

一年間まともに帰っていなかったくせに、倒れたら帰ってくるのね。帰ろうと思えば出来たということじゃない。馬鹿にするのもいい加減にしてほしいわ。

と考えているうちに眠ってしまった。


誤字脱字報告ありがとうございます。大変助かっています。

エピソーEpisode1の最初に何故かあらすじが入って

いました。読みにくかったと思います。申し訳訳ありませんでした。自分でもよく分かっていない現象でした。指摘してくださりありがとうございました。

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