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あんぱんと優等生(1)

 藤倉美嘉は、優等生だった。今は、中学二年生だが、校則は全部守り、親や先生から「良い子」として通っていた。


 今朝も、校門の前で服装の検査を教師達がやっていた。美嘉が通う聖マリアアザミ学園は、元々ミッションスクールであり、周囲では、お嬢様学園として通っていた。美嘉は中等部の生徒だが、高等部の方は制服がオシャレで、一部の美人の生徒はアイドルのように見えたりしていた。


「おい、眉毛いじるな。ノリで二重のもするんじゃないよ!」


 同級生の何人かは、担任や学年主任に怒られていた。メイクをし、眉毛を整えているらしいが、美嘉は「馬鹿な子だな」と思ってしまった。学校が工場だとしたら、そんな馬鹿な子たちは出来損ないの部品だろう。訳アリ品として、誰か買ってくれるといいね。美嘉はそんな意地悪な事を考えたりしてしまった。


「でも、先生。大人になったら、メイクはマナーになりますよ。学生時代は無駄な校則で縛っておいて、大学生になったらハシゴを外すようにメイクはマナーになって就活しろって言うのは、おかしくないですか? 実際、人間は見た目が九割です。メイクの授業でもやった方が生きやすいと思うんですけど。特に芋臭くて、真面目さだけが取り柄な優等生は、この先メンタル病んで人生詰みますよね。真面目さを評価してくれるのは、学校だけですから」


 校則を破り、怒られていた同級生だったが、果敢にも先生に言い返していた。確か高瀬莉央という名前の生徒だ。苗字に「高」がつくからかわからないが、背が高く、かなり体格の良い同級生だったが。


「生意気な口を叩くんじゃない!」


 先生は怒り、莉央に反省文の宿題を出していた。気が強そうな莉央だったが、さすがにしゅんとしていた。


 美嘉はそんな莉央の横顔を見ながら、「馬鹿な子」と思ってしまった。自分だったら、先生に意見なんて言わず、黙ってルールを守る方が楽じゃないかと思う。


 そういえば莉央は、マスクも意味が無いとか言い、ノーママスクを貫いていた。実際、マスク着用は一応自由なので、どうでも良いが、おそらく変な陰謀論でも見て、感化でもされてしまったのだろう。


「藤倉、お前はちゃんと校則を守って偉い。マスクもちゃんとして偉いぞ。二重マスクでよろしい」


 美嘉は、先生に褒められ、思わずニヤニヤと笑ってしまう。どうせマスクの下は何も見えちゃいないので、ゲスい笑みでもバレやしない。


「先生、ありがとうございます」

「うん、あと、優等生の藤倉にはお願いがあるんだが、プリントをホッチキスで留めておいてくれ」


 なぜか仕事も頼まれてしまったが、役割を与えられて美嘉は嬉しくなってしまった。そんな調子で各種委員長などもやらされていたが、美嘉は満足していた。


 鏡の中には、眉毛がボサボサ、二重マスクの垢抜けない中学生がいるわけだが、それで良いと思っていた。


 ルールを守っていれば大丈夫。褒められる。こんな楽な事はない。授業を大人しく聞いて、テスト勉強も暗記を頑張れば乗り越えられる。今の環境は、楽以外の何ものでもなかった。


 体育の時間では、組体操でピラミッドを作ったり、ドットボールで人にボールをぶつけているわけだが、そういうルールだと思い、全く疑問の思っていなかった。


「先生、ドッチボールっておかしくないですか? 人の身体にボールあてて楽しむゲームなんて野蛮です。組体操のピラミッドも同様におかしいです。下にいる人は苦しいですよ」


 莉央は、そんな事まで先生に噛みつき、ひどく煙たがれていた。幸い、美人でスクールカーストの上位にいたので、いじめられたりはしていなかったが、莉央のこういう所は、何となく苦手だった。


「何? 藤倉さん?」


 チラチラと莉央を見ていたら、美嘉は睨まれてしまった。莉央のまっすぐでキツい視線を見ていると、美嘉は思わず震えあがってしまった。


「そんな優等生やってて楽しい?」


 ついにバカにされてしまったが、美嘉はコクリと頷いてしまった。


「うん。ルール守っているだけで優等生になれるんだから、楽だよ」


 莉央は呆れているようだが、美嘉は自分は全く間違ってはいないと思っていた。

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