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いのちのパン屋さん〜二回目の光〜  作者: 地野千塩


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番外編短編・カツサンド

 木崎希衣は、大きめなスケッチブックを持って福音ベーカリーに訪ねていた。


 希衣は現在、イラストレーターの夢を追いながら色々と作品を作っていた。一時期は落ちこむ事もあったが、福音ベーカリーの店員である柊や紘一のおかげで、だんだんと立ち直ってきた。


 たまに福音ベーカリーの前にある立て看板にイラストを依頼されて描く事もあった。なかなかお客さんにも好評のようで、店に飾る一枚絵も紘一から依頼された。今日はそのラフスケッチを持ち、実際に描いて良いか確認をとるところだった。


 花嫁の絵で、神様らしき男性と一緒に歩いているところの絵だった。紘一からは、神様の顔は描くなと言われているので、ベールを被せたような感じにした。聖書では、クリスチャンのことを「キリストの花嫁」と言っているようで、紘一もそんな絵を望んでいた。紘一も柊も二人ともクリスチャンだった。希衣からすると、男性クリスチャンもキリストの花嫁と表現されるのは、ちょっと気持ち悪いが。


「こんにちは」


 店内に入ると、パンの焼ける匂いはもちろん、メープルシロップのような甘い香りもした。メロンパンが焼きたてのようで、紘一は大きな手でテーブルの上に並べていた。他に平べったい煎餅のよいな種無しパンやツォップという三つ編み型のパンもあった。これらは、クリスチャンにも関係が深いパンらしい。


「こんにちは! 柊は今、ヒソプ連れて散歩がてら、昨日の余ったパン配りに行っちゃったんだよ」


 希衣に気づくと、紘一はニコッと白い歯を見せながら笑った。紘一は色黒で体格もいい。一見トラック運転手のような雰囲気だが、爽やかで不器用そうなイケメンにも見える。この店のお客さんは、柊にファンも多いそうだが、紘一には隠れファンが多いと聞いた事がある。確かに縁の下の力もちキャラというか、地味だけどよく見るとイケメンというのは、悪くはない。


「頼まれていた絵の下書きなんだけど、こいいうのどう?」

「いいじゃん! これで描いてね」


 笑顔で褒められてしまい、希衣の頬も赤くなっていた。


「実は、人事異動があって、春から別の人が店員になるんだ」

「え、嘘」


 その知らせに、希衣の頬は元通りになってしまった。せっかく仲良くなれた所でお別れとはショックだった。


「まあ、次の人もいいやつだし、元いた店員も戻ってくるみたいだから」

「そっかー」

「うん。俺もまた戻ってくる可能性あるし」


 寂しいが、こればっかりは仕方ない。


「これ、今日の下書きのお礼に」


 紘一は、チルドケースの方からカツサンドを持ってきた。紘一の大きな手に包まれたカツサンドは、ちょっと小さく見えてしまった。カツは分厚く、淡いピンク色だった。衣はソースがしみこみ、薄切りのパンに挟まれ、希衣は気づくと唾を飲みこんでいた。


「いいの?」

「うん。それにカツサンドは片手でも食べられるから、絵を描く人にいいでしょう」

「嬉しい」


 細やかな気遣いをする紘一に、思わず笑顔を見せてしまった。


 人事異動があり、しばらく紘一には会えないだろう。


 寂しさは覚えるが、美味しいカツサンドを食べたら、そんな事はすぐに忘れられそうだった。

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