表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いのちのパン屋さん〜二回目の光〜  作者: 地野千塩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/65

悲しむ人の王様ケーキ(4)完

 福音ベーカリーに通い始め、数日がたった。いつの間にか年があけ、正月休み明けに店に向かうと、店のテーブルの上に華やかケーキ見たいなパンがあった。


「柊、これ何?」


 いつのまにか柊には、呼び捨てで呼んでいた。同じ歳ぐらいなので、〜さんと呼ぶのも違う気がした。


「これは、王様ケーキだね」

「王様ケーキ?」


 柊は、このケーキについて説明してくれた。ポルトガルのボーロ・レイというケーキで、クリスマス時期に楽しむものらしい。ケーキというが、生地は菓子パンに近い。表面には、緑や赤のドライフルーツもトッピングされ、華やかだ。たしかにクリスマスムードがある。リング状で、巨大なドーナツというより王冠のようにも見えた。


「クリスマス終わったんじゃない?」


 冷静に言うと、厨房の方から紘一が出て来てさらに説明してくれた。クリスマスは正解には1月6日まで祝ってよく、この日はイエス・キリストの誕生を祝う公現祭とも言うらしい。幼子イエスへの東方の三博士の訪問も記念しているそう。確かに店内のクリスマスツリーやリースもそのままだった事を思いだす。さすがにアドベンントカレンダーは撤去されていたが、イートインスペースにいるヒソプも赤い帽子をかぶったままだった。


「それで、ボーロ・レイの注文を受けて焼いていたんだけど、急にキャンセルになってさ。葵さん、僕たちと一緒に食べない? もう正月で客もあんまり来ないしね、もう今日はクローズにして食べよう!」


 柊の提案に断りそこね、イートインスペースで、この王様ケーキを三人で切り分けた。


「あれ? なんか入ってる?」


 葵がケーキにフォークを入れた瞬間だった。カチっとした音がして取り出すと、陶器のマスコットが入っていた。天使の形をした可愛いマスコットだった。


「葵さん、あたりだよ! ボーロ・レイ、あたりつきのケーキなんだよ!」


 なぜか葵よりも柊の方が大興奮して喜んでいた。


「葵さん、おめでとう!」


 紘一は厨房の方から、紙で出来た王冠をもってきて葵の頭の上に載せた。


「今日だけは葵さんが王様だよ。なんでも僕らに命令して良いよ」


 柊の声を聞きながら、この瞬間の自分だけは悲しんでいない事に気づいた。悲しむ人が幸いというにも、間違いないのかもしれない。そう思うと、鼻の奥がツンと痛み、泣きたくなってきた。


 今後も問題が山積みで、自分も欠陥品という自覚はある。共働きで子供が二人いる正しい既製品には、どうしてもなれそうにない。


 それでも、今は確かに慰められていた。自分の悲しみも、この世以外の場所では、違うものに変わっていて欲しい。


 そう、心から願っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ