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いのちのパン屋さん〜二回目の光〜  作者: 地野千塩


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悲しむ人の王様ケーキ(3)

 葵に声をかけて来たのは、知村柊という名前らしい。白いコックコートの胸元には、名前が刺繍されてあった。


 黒髪で、ツンツンとした髪型のせいか、ツバメのような印象がする男だった。まだ巣立ちしたばかりのツバメといった雰囲気で、純粋そうな目をしていた。


 体格は細めで頼りないが、黒板式の立て看板を運び出し、何かチョークで書いていた。


「心の貧しい人々は、幸いである、

 天の国はその人たちのものである。


 悲しむ人々は、幸いである、

 その人たちは慰められる (マタイの福音書・5章3節から5節より)」


 柊はサラサラとチョークで書いていた。パン屋のくせに、ポエマーだったのだろうか。単なるポエムの割には、力がある言葉に見えたが。看板の言葉は、キラキラと朝日を浴び、輝いているように見えた。


「店員さん、この言葉何? パンと関係なくない?」


 そうツッコミを入れたが、柊はニコニコと純粋無垢な笑みを浮かべていた。眉毛が凛々しく、鼻も高いので、イケメンといえる男だが、なぜか全く色気がない。男なのか、女なのかもよくわからない。今は性別の境界も曖昧らしいので、こに点については、ツッコミを入れる気にはなれない。


「普通、おススメのパンを書く所じゃないの?」

「うーん。これもパンなんだよね」


 柊は、意味のわからない事を言いながら、葵の隣に座った。


「店員さん、仕事しなくていいの?」

「いいの、いいの。もう一人いるからね」

「ふーん」


 特にパンが好きというわけではないが、このパンが焼ける匂いにはリラックスしてしまい、初対面の柊にも緊張せずに話せた。


「ねえ、悲しむ人が幸いってなんで? 逆じゃないの? 慰められるから、いいの?」


 言葉を見ながら思いついた疑問を柊にぶつけていた。こんなツッコミだったが、柊は全く表情を変えず、ニコニコと笑っていた。


「うん。この世は本当はめちゃくちゃだからね。人々を救う神様だって荊の冠を被せられて、殺されたしね。この世を楽しんで、ハッピーでラッキーな人は逆にヤバいよね。『この世の神』は悪魔だから」

「意味わからない。不思議くん?」


 柊は、葵のツッコミなどは無視し、言葉を続けた。


「もし、お客さんが、この世がおかしいって悲しんでいたら、正常の良心があるよ。この世を楽しんでいる人の方がおかしいからね。普通に生きてたら、真面目で正直な人が損するように出来てるからね。本当は葵さんの方が合ってるんだ、正しいんだよ」


 なぜ、自分の名前を知っているのだろう。おそらく、近所で引きこもりニートだと噂が立っているのだろうが、「正しい」なんて初めて言われた。ずっと自分が間違っている欠陥品だと思っていたが、そうでもなかったのか?


 柊が言う様に、この世と全く違う価値観の世界があるとしたら、自分はそうではなかった?


「もうすぐ開店だけど、パン食べていく?」

「漫画喫茶でモーニング食べてきたから、いいや」

「それは残念だ」


 そうは言っても、このパン屋が気になり、翌日も行くようになった。夕方には閉店してしまうので、昼夜逆転をやめて行く事もあった。


 店員は柊のほかに紘一という若い男もいた。柊の兄で、兄弟二人でパン屋を運営しているらしい。


 クリスマス時期なので、シュトレンやパネトーネも店内に並び、ツリーやリースもあり、店内は煌びやかだった。看板犬のヒソプには懐かれてしまい、なかなか帰れない時もあった。

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