表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いのちのパン屋さん〜二回目の光〜  作者: 地野千塩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/65

七転び八起きのパネトーネ(4)完

 福音ベーカリーの店員、柊を側で見ると、やはり雛鳥のような印象だった。眉毛が凛々しく、黒い目も目立っているイケメンだが、純粋培養されたような幼さも滲んでいる。悪く言えば子供っぽい、良く言えばピュアと言いたくなるような男だった。何度か顔を合わせているはずだが、自分の子供の顔とタブってしまう。


「こ、こんにちは」

「サエさん、元気なく無い?っていうか、やっぱりクリスマス嫌い? ごめんねー、うちは色々考えて、クリスマスも利用する事にしてるんだ」


 ニコニコと語る柊から「利用」という言葉が出るのが不思議だった。柊の背後にあるクリスマスツリーは、よく見るとアイソングクッキーが飾られていた。星や天使の絵が描かれたアイシングクッキーで、普通のツリーとはちょっと違う雰囲気だった。煌びやかではないが、素朴な可愛さがある。


「実はね」


 そんな無邪気な柊には、なぜか今の自分の状況を語ってしまっていた。厨房の方にいる紘一には、あんまり話したくはない事だったが。おそらく、より柊は子供の存在と被っているからだろう。


「そっかー。でも、このパネトーネも何度も失敗して、練習して作ったんだよね? そーだよね? お兄ちゃん!」


 柊は大声で、厨房の方にいる紘一に確認をとっていた。


「そーだよ! この二時発酵失敗して、案外パネトーネって難しいね! っていうか、今ちょうど作ってるところだからね!」

「ごめーん、話しかけて」


 柊は、厨房の方に話し終えると、サエに向き合った。


「失敗はなんでもあるよ。聖書の登場人物全員思い浮かべてみなよ。イエス様以外は全員ダメなところあるじゃん。パウロもペテロも、ノアもダビデも。アダムとイブも。聖母マリアだってよーく聖書読むと、人間らしいところも描写されてるよね」


 そう言われてみたら、イエス・キリスト以外は人間らしいというか、人間そのものだった事を思い出す。裏切り者のユダは救いようはなく自殺してしまったが、パウロやペテロは改心していた事も思い出す。特にペテロは、イエス・キリストについて「知らない」と言い、裏切っていたのに。


「失敗しても大丈夫。表の看板にも書いたでしょ? 裏切り者のユダみたいに死ななければ、立ち上がるチャンスがあるよ!」


 少し上目遣いで言われ、サエの心もだんだんと軽くなっていく。砂糖漬けフルーツたっぷりの甘いパネトーネも、食べたくなってしまった。シュトレンは重いし、パンドーロは見た目が地味だ。この中で一番パネトーネが今の気分にピッタリだった。今日はグルテンフリーはお休みだ。クリスマスの起源についても、今日は忘れたくなってしまい、パネトーネを買う事にした。


「でも、今日子さんには悪い事しちゃった。後で謝りたいけど、どうしよう?」

「だったら、ここのパン奢るのってはどう? 多分あとで来ると思うし」

「そっか。じゃあ、このパンドーロがいいかも。今日子さんに後で奢ってあげて。あと、私からとは言わない方がいいかも」

「かしこまりました! だったら、パンドーロもデコってクリスマスツリーみたくしようかな」


 柊はこうしてパネトーネを箱に包んでくれた。飛び箱みたいなスクエア型の箱も可愛い。クリスマスツリーや雪だるまのイラストも印刷してあり、それだけでも目立つ。


 こうしてお店の美味しそうなパン達を見ていたら、急にお腹が減ってきた。今すぐ家に帰って食べたい気分だった。イートインスペースもあるが、なんとなく家でゆっくりと、パンを楽しみたい気分になっていた。


 今日子への謝罪はそれからにしよう。どうせ今の気分で言っても、ろくな言葉は出てこない気もしてきた。今は心を落ち着かせるのも大事な気がした。


 イートインスペースには、この店の看板犬のヒソプが目を細めてくつろいでいた。


 首輪はいつもと違って緑色と赤色のクリスマス仕様のものだった。いつもよりオシャレをしているヒソプは、浮かれているようにも見え、サエは思わず笑ってしまっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ