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言葉とメロンパン(3)

「喉が痛い」


 都内から最寄り駅にある穂麦駅に帰ると、喉がさらにヒリヒリとしてきた。マスクをしていたとはいえ、「ありがとう」を言いすぎて、喉は限りなく乾燥していた。まだ秋口だったが、風も冷たく感じてしまう。


 仕方がないので、駅のそばにあるコンビニで、ペットボトルのお茶を買い、喉を潤した。穂麦市は、比較的静かで、老人が多いところだが、駅前には新しくマンションや商業施設もあり、そこそこ栄えてはいた。駅の周りは、老若男女が行き交っていたが、みんなマスクをしていた。

 さっき行ったコンビニ店員も、二重マスクをしていた。


 やはり、マスクをしていると、モブキャ感が漂う。別に真面目に感染対策をしていたら、悪い事では無いが、人の目を気にしてマスクをしているモブキャラに見えたりする。


 もし自分の意識が世界を創っているのなら、こんな世界を選んだのだろうか。由佳は、自分で選んだとか、こんな世界に意識を向けた覚えはなかった。


 そんな事を考えていたら、少し気分も悪くなってきて、駅ビルのそばにある公園のベンチに座った。


 まだ昼過ぎだったので、公園は老人や若いカップルが散歩していたりした。長閑な昼下がりで、少しホッとしてくる。やっぱり世界は自分が創ってる?


 しかし、視線をずらすと、ホームレスのような男性がいるのが見えた。ボロボロのコートを着込み、カップ酒を飲んでいた。顔は真っ赤で、少し酔っ払っているようだった。新聞紙の上に座っていたが、酒のおかげか、目を細めてリラックスしていた。


 一子の動画では、自分の意識が現実を創ると言っていた。


「この世界に貧困やホームレスがなくなった。感謝します」


 心の中で唱えてみた。波動も高めて、感謝の言葉も唱える。


 しかし、ホームレスがいる現実は全く変わっていなかった。


「おい、おばさん!」


 しかも、なぜかホームレスに絡まれた。


「お金、くれ」

「いや、です……」

「金が無いんだよ。もう冬だ。死ぬかもしれん」


 あまりのもネチネチと絡んできたので、財布から一万円を引き抜いて、ホームレスに渡した。


「おぉ、ありがとう」


 ホームレスは、泣いて喜んでいたが、由佳の気持ちは複雑だった。自分の意識や波動は全く関係なく、一万円という現物が一番彼を喜ばせている現状は、複雑で仕方がない。それにこの一万円もすぐに消えるだろうから、彼の将来には全く役に立たない。


 そういえば、十年ぐらい前、若いホームレスにペットボトルの水をあげた事があった。まだ二十歳ぐらいの若いホームレスだった。汚いホームレスだったが、その人の前には天使の羽もようなものが一枚落ちていた。


 なぜか、そんな昔の事を思い出してしまった。ご利益を求めてスピリチュアルセミナーに参加したが、全く心は満たされなかった。


「もう、帰るか……」


 由佳はすっかりと疲れていた。喉も痛いし、 一子のように自分の意識が現実を創るという事も、全く成功していない。その上、一万円も失ってしまった。


 こんな憂鬱な気分を抱えていたが、お腹だけは妙に空いていた。

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