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いのちのパン屋さん〜二回目の光〜  作者: 地野千塩


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初心者のソーダブレット(2)

 翌日、学校帰りに駅ビルの中にある書店によっていた。成績は良いが、わからない所も出てきたので参考書を買う為だった。


 今日は体育でドッジボールをやった。背中や右腕にボールをぶつけられ、痛くて仕方ない。こんな野蛮なスポーツが学校で公認されているのが、莉央は全くわからない。ついつい教師にくってかかり、今日は疲れた。同じクラスの芋臭い同級生・藤倉美嘉にも睨まれている様な気もして、イライラする。


 ついつい爪を齧りたくなる。これは、母が生きていた頃の癖で、ボロボロになってしまった事がある。今はマニュキュアを塗り、どうにか我慢していた。マニュキュアを塗るのは、校則違反だが、どうせ人間なんて見た目が9割だ。中高生ぐらいからメイクをするのは、総合的に見て人生にプラスになるだろうと思っていた。


 そんなイライラした気持ちを抱えながら、書店の参考書コーナーに直行する。同じ聖マリアアザミ学園の生徒が何人か参考書を見ていた。高等部の制服は莉央が着ている中等部のももよりオシャレで、それだけで少し目立っていた。


 参考書はネットでチェックしていたものが売り切れだった。似た様な事を考えていた同じ学園のものもいたのだろう。再び爪を噛みたい衝動を抑えながら、なんとなく女性向けのエッセ本などを見ていた。可愛らしい表紙の絵本みたいな読みやすそうな本があり、手にとってみる。どうやらスピリチュアル関連の本で、子供は親を選んで生まれてくるといった論調の本だった。


 天国らしき場所から母親を自分で選んでいる子供の姿が絵で描かれていた。だとしたら、自分は何だろう。子供を産む事に後悔していたキャバ嬢の娘になりたかったんだろうか。


 本の中では、子供は親を助けるために生まれてくるらしい。子供より親が未熟というメッセージだけは、なんとなく理解でき、目の奥が痛くなってくる。本の最後では虐待や貧困家庭の子供についてもフォローされていたが、何の慰めにもならなかった。前世の記憶もあるのに、親選びは失敗してしまったのは自己責任としか思えなくなってきて、心はさらに岩のように重くなってくる。


 こういう本は、子育てに悩んでいる親にとっては希望だろう。おそらく出版社のターゲットも子持ちの母だろう。一方で、子供の立場から、こういった本を見ると苦しくなってくる。気づくと隣には、お腹が大きくなった妊婦らしき女性もいたが、再び目の奥が痛くなってくる。


 他のスピリチュアル関連の本を適当に見てみたが、どれも子供が親を選んで生まれてくる事は肯定的に書かれていた。不幸な子供は、そこで学べという。あの母から学べそうなところが、一つも思いつかず、反面教師にしかできなかった。


 心の中で、「あんな風にはなりたくない、母みたいにはなりたくない」と再びつぶやいてしまった。


『そうだね! もっと、もっと母を恨め。莉央は全部間違ってなくて正しいよ。許さなくて良いよ!』


 再び、どこからか声がし、莉央は深くその声に同意してしまった。


「きゃ!」


 そんな事を考えながらぼーっとしていたら、他の客とぶつかった。同じ学園、聖マリアアザミ学園の高等部の生徒のようだ。生徒会にいる生徒のようで、顔と名前を知っていた。莉央もその仕事を手伝った事がある。確か名前は織田春歌だったと思う。


「あ、ごめんね」


 春歌は、なぜか莉央の目を覗き込みながら、謝罪してきた。


「あなた、大丈夫?」


 そして、なぜか心配されてしまった。泣きそうな顔をしている事がバレてしまったのだろうか。


「このパン屋がおすすめだよ。食べるとちょっと元気になるかも?」


 春歌は、カバンからカードを取り出し、莉央に渡した。大人しい優等生風な春歌だったが、ほぼ無理矢理といった感じの渡し方だった。


「え?」

「推し活よ、推し活。じゃあね!」


 春歌はそう言い残すと、手を振りながら去って行った。


 一人残された莉央は、手の中にある名刺サイズにカードを見てみた。どこかのパン屋のショップカードらしい。福音ベーカリーというパン屋でこの穂麦市の住宅街にあるらしかった。裏面に簡易地図や連絡先も乗っていた。表面には、パンと芝犬の可愛いイラストが印刷されていた。芝犬のイラストには、そばに吹き出しもあり、「食べるとホッコリ癒される天使のパン、あります」というセリフも書かれていた。


「天使のパン?」


 莉央は首を傾げる。普通、パンのような糖質の高い食べ物は、悪魔のパンと言うのではないだろうか。この女性向けエッセイ本コーナーのすぐ側にある料理本は、悪魔とか罪というタイトルのものが人気のようで、山積みにされていた。


 その違和感が何となく心に残ってしまい、莉央はこのパン屋に行ってみる事にした。


『はぁ? やめてくれない?』


 どこから聞こえきた声は、莉央のこの行動をとても嫌がっているようだったが、無視する事にした。

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