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言葉とメロンパン(1)

 市井由佳は、せっせと自宅のトイレを磨いていた。


「ありがとう、ありがとう!」


 その表情は、実に楽しそうに感謝の言葉を述べていた。毎日、夫が息子が散らかしているトイレだ。見ていると、イライラする事もあるが、こうしてトイレ掃除をしていると、良い事が起きそうな気がする。


 由佳は来年五十歳になる主婦だった。仕事は雑貨屋でパート店員をしている。夫は都内で健康食品メーカーで会社員をして、息子は大学一年生だ。はっきり言って家計に余裕はなく、毎日宝くじを当てたいと考えている時、ネットで調べると、スピリチュアルが良いらしい事の気づいた。


 スピリチュアルは胡散臭そうで、良いイメージは全く無かったが、山田一子というスピリチュアルリーダーは、とても美人だった。今すぐモデルにでもなれそうなルックスで、由佳の警戒心はすっと溶けた。SNSでも映える画像を多用し、どことなくオシャレだった。


 そんな一子の配信や、ブログやSNS記事にハマり、由佳もせっせと毎日彼女の教えを実行していた。「ありがとう」と百万回唱え、トイレを綺麗にすると、願いが叶うらしい。一子が作ったヒーリング動画なども見ると、さらに効果的らしかった。


 今のところ、たいして効果はないが、一子のファンは願いが叶っているそうだ。宝くじが当たったり、イケメンと結婚した顧客もいるらしい。そんな事を聞くと、由佳もやる気が満ちる。


「ありがとう、ありがとう」


 まるで念仏だが、言っていると楽しくてしょうがない気分になってくる。一子はポジティブ思考が何よりも大事で、悪い事は思考するなと言っていた。その教えを健気に信じる由佳は、テレビも新聞も全く見なかった。世間では、ワクチンの薬害やコロナ不況での自殺も騒がれていたが、そんなニュースを見たら波動が悪くなりそうだ。由佳は一日中、楽しい事しか見ないようにしていた。宝くじが当たり、ハワイに旅行するイメージばかりしていた。また「宝くじが当たりました。ありがとうございます」というアファメーションも繰り返し、繰り返し言葉にしていた。


 これも一子の教えだった。言葉には力があり、人間が言った事は現実になるらしい。一子は、ヨハネの福音書という聖書の言葉を引用しながら、言霊について動画で説明していた。


「聖書では敵を愛せとか、信じられない波動が低い事も言っていますが、言葉に力があるのは本当です。さあ、叶えたい事をどんどん言葉にして、アファメーションしましょう!」


 由佳も聖書なんて宗教の書物で興味はないが、願いが叶うのなら活用したい。


「願いが叶うのなら、神でも仏でも頼っちゃう♪」


 綺麗になったトイレに由佳の声が響いていた。

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