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いのちのパン屋さん〜二回目の光〜  作者: 地野千塩


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休日のツォップ(3)

 数日後。


 芳乃はバリバリと仕事をこなしていた。ミントは相変わらず、元気は無いようで母から動画や画像が送られてきたが、忙しさにてんてこ舞いになり、ろくに返信もできていなかった。食事もろくに食べられなくなり、ついに土曜日の夜に倒れてしまった。


 救急車で運ばれ、しばらく入院する事になった。過労とストレスで身体のあちこちが慢性的に弱っていたらしい。今はアラサーぐらいの年代の人も、ブラック企業の人も多く、芳乃と同じような病状の人も珍しくないらしい。同じ病室には、SEやアニメーターの女性も入院していた。


 意外と入院生活は快適にだったが、食事は美味しく無い。医者からは栄養をつけろと注意されていたが、出されるスープやおはドロドロで、かえって病気になりそうだった。


 病室の窓からは、赤や黄色に染まった木々の葉が見える。美しい葉の色に少しは心は華やぐが、病院から出される食事を見るだけで、心は暗くなりそうだった。


 母からはミントの情報は相変わらず届いていた。病室のベッドで日々弱っていくミントを見ながら、やっぱり実家に帰るべきなのか、仕事をするべきなのか迷っていた。母からは、これを機会に実家にちょっと帰省しろと言われていたが、頭の中では仕事のタスクが渦巻く。


「芳乃さーん。芳乃さんにお届け物がありますよ。なんか福音ベーカリーというパン屋みたいなんですけど」

「福音ベーカリー?」


 看護師が小さな段ボール箱を片手にやってきた。福音ベーカリーは記憶がある。ミントそっくりの芝犬がいるパン屋だ。宗教関連のパン屋である事は気になったが、あの犬は可愛かった事を記憶していた。


 芳乃は看護師から段ボール箱を受け取る。なぜ荷物が届いたのか。なぜ入院先にパン屋から荷物が届くのかは謎で仕方がないが、とりあえず箱を開けてみた。クール冷凍便のようだし、すぐに開けた方が良い気がした。


 中はパンだった。あの三つ編みのツオップというパンが入っていた。怪しいと思ったが、病院食の不味さから、このパンが気になってしまう。手紙も入っていた。


 あの柊が書いたものらしい。丁寧な綺麗な字だった。あの後、服を買いに店に行ったそうだが、芳乃が入院した事を知り、いても立ってもいられず、パンを送ってしまったという事情が綴られていた。早くよくなってほしい事や、ゆっくり休んでほしい事も書かれていた。


 正直、ちょっと怖いと思ってしまったが、手紙の文字からは誠実さが滲み出ていて、悪意は全く無いようだった。そう言えば地元にいるシスターもよくボランティア活動をしていた。完全な善意で送ってきた事は確かだった。


「何、パン?」


 同じ病室の女性達もパンの匂いのつられて、そばにやってきた。ツォップは案外大きかったので、みんなで分けて食べた。病院食が不味いおかげで、ツォップは妙に美味しかった。フワフワでやわらかく、しっとりとした食感だった。素朴な味わいに、少し涙が出そうだ。


 ミントの顔が目に浮かぶ。


 今の自分に必要なのは、休む勇気なのかもしれない。

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