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いのちのパン屋さん〜二回目の光〜  作者: 地野千塩


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あんぱんと優等生(4)完

 その夜、美嘉はYouTubeの動画を見ながら、眉毛を整えていた。眉バサミや剃刀は姉のものを借りた。


 なぜ眉毛を整えてみたいと思ったのかは謎だった。綺麗になりたいわけでも、校則を破るたい反抗心があるわけでもなかった。強いていえば、今までとは違う何かを一つやってみたかった。


 鏡の中には、少々垢抜けた雰囲気になった美嘉の姿があった。思えば自主的に何か行動を起こした事は初めてだったのかもしれない。


「あれ、意外といいかも……」


 学校では何か言われるかもしれないが、そう思うと少しドキドキもしてきた。


 そうか、ルールは守るだけじゃなく、何故あるのか考えると意味があるのかもしれない。しばらく美嘉は考えていたが、外見に気を取られ、勉強が疎かになるから、こう言ったルールがあるのかもしれないと思った。学校は勉強をする場所だ。つまり、今はちゃんと勉強をするのが、最優先なのだろう。目が覚めたような気分になっていた。なぜルールがあるのかと考えれば、単に従うだけのロボットでは無いのだと気づく。


 翌日、放課後福音ベーカリーに寄り道していた。今日は、昨日と違って店のの前のベンチには芝犬がちょこんと座っていた。おそらく看板犬だろうが、大人しく優しい性格の犬のようだった。


 あの立て看板には、昨日と違った聖書の言葉が書かれていた。聖書の言葉だけでなく、パンや芝犬のイラストも描いてあったので、賑やかな看板になっていたが。


「イスラエルよ。聞け。われらの神である主は、唯一の主である。心を尽くし、思いを尽くし、知性を尽くし、力を尽くして、あなたの神である主を愛せよ。次にはこれです。『あなたの隣人をあなた自身のように愛せよ。』(マルコの福音書 12:29-31より)


 看板の文字は、夕陽に照らされ、生き生きしているようにも見える。単なる言葉だが、妙に生々しいというか、血と肉が通い生きているかのように感じてしまった。


「お店入ってもいい?」


 一応看板犬に確認をとり、店に入る。ドアベルがあるようで、チリンチリンと音がした。今は秋だが、店内は秋のように暖かかった。店の中央にある大きなテーブルには、あんぱんやジャムパンなどはもちろん、三つ編み型の変なパンやクラッカーのような平べったいパンが全面に推されていた。


 オレンジ色の照明も暖かい雰囲気だった。店の壁には、聖書の言葉が書かれたポストカードや色紙もあり、クリスチャンが経営しているパン屋である事は間違いなくない。厨房の方には、昨日あった紘一が仕事しているのが見えた。かなり集中している様子で、美嘉には気づいていない。代わりに別の店員が出てきた。紘一とは真逆のタイプの若い男性だった。まだ少年のような雰囲気だが、眉毛が凛々しく、昔の武士の様なまっすぐな瞳だった。


 背も高く一言でいえば、イケメンだった。コックコートの胸元には、知村柊という名前が刺繍されていた。どうやら、あの紘一とは家族か親戚だろう。苗字も同じだし、眉毛の雰囲気がそっくりだった。


「こんにちは!」


 ニコニコとした笑顔で話しかけられた。女子校に通い、異性と接触のない美嘉は、自然とドキドキしてきた。


「あ、こんにちは。あの看板にある聖書の言葉って何? 面白いね?」


 美嘉は少しドギマギしながら言う。


「そうだね。うちの神様は、厳しいんだよねぇ。ルールもあるっちゃあるけど、何でそれがあるか考えさせられるよね。表面的に守っているだけで、心が無かったら意味がない感じだよね」


 柊の言う事は、難しくてよくわからなかったが、美嘉は思わずコクコクと頷いてしまう。


「なんかちょっと気になってきた。その神様について、教えてくれたりする?」


 別に宗教には興味はない。でも、ルールに縛られてはいない雰囲気の柊や紘一については気になってしまった。宗教に入っている割には、フリーダムというか、妙に楽しそうのが気になる。


「うん、いいよ!」


 柊は、まるで花が咲くような笑顔を見せていた。まっすぐな黒い目は、いかにも誠実そうで、悪い人には見えない。


 とりあえず、明日もこのパン屋に来てみよう。眉毛も整えてみよう。姉や莉央にメイクの事を聞いても良いかもしれない。イケメンの前で芋臭い優等生というのも、どうなのかと思ってしまった。

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