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開店

 僕は、神様の仕事をしている天使だ。


 天使歴は短く、まだ十七年ぐらいだった。名前はルルルという。天界には、僕と同じ天使がいっぱいいて、ビックリすると思う。みんな喜んで神様の仕事をしている。


 僕はまだ歴が短いので、ミルルという先輩天使にくっついて研修中だった。ある時は、クリスチャンホームの子供の子守りをしたり、悪霊の門の警備をしたり、ホームレスやコンビニ店員になり、クリスチャンのテストなどを行なっていた。


 このたびは、最後の研修の為、ミルルと共にパン屋の店員になる事になった。


 このパン屋は元々、ワーカホリック天使・マルが副業として営んでいた。マルは、本業の天使の仕事が暇になった為、神様に頼み込んで、地上でパン屋の仕事をする事になったらしい。どちらかといえば仕事は普通にやる僕としては、全く意味がわからないが、パンと聖書は関係あるし、マルのキャラクターのおかげで、近隣住民にも相談に乗っていたらしい。その中で、クリスチャンになった者はいないようだが。


 本来なら人間がする仕事でもあるが、日本はクリスチャン人口が少ないから仕方ない。神様は特に日本の気をかけているし、肉体を持ち、日本で仕事している天使も案外いるらしい。だから、隣人を安易に「キモい」なんて言ったらいけない。天使かもしれないし、神様の可能性だってある。


 僕は天使の時は、ヤンキー風のいかついルックスなのだが、地上での肉体の姿は、全く違うものになった。


 背が高く体格は良いが、髪は黒く、眉毛が凛々しい。おそらく二十歳前後の青年のものだが、かなりイケメンではないか。歯並びも真っすぐで、綺麗だった。同じくパン屋で働くルルルは、トラックの兄ちゃんみたいな親しみのあるルックスだが、それと比べると、だいぶ顔がいい。


 名前も知村柊というものになった。ちなみにルルルも知村紘一という名前で、パン屋では兄弟設定で、店員のフリをするそうだった。


 肉体をもち、長時間地上にいるのは、慣れない事もあり、ストレスも強い。ルルル、いや、紘一がいるのは救いだが、パン作りの技術も叩き込まれ、毎日へとへとだ。


 そんな中、飼い犬かつ看板の柴犬・ヒソプの存在は癒されるものだった。可愛い柴犬で、このパン屋でも愛されている。元々マルの為の飼い犬だったが、僕や紘一にもすぐに懐いた。


 今日も早起きし、紘一と一緒にパンの仕込みをし、焼き続けた。僕はまだ、パン作りの技術的には中途半端だから、接客業務も多い。本当はパン作り専門にやりたいんだけどなぁ。


「先輩、今日の御言葉は何を書く?」


 すっかり開店準備を終えると、店の前にある黒板式の立て看板を出す。ここにはおススメのパンを書いてあったが、マルが聖書の御言葉を書くようになり、今もそうしていた。


 紘一は顎に手をやり、考え込む。こうしてみると、どこからどう見てもパン屋の店員にしか見えないから不思議なものだ。意外と白いコックコートがよく似合ってる。


「そうだな、やっぱりヨハネの福音書の6章から、書きたいよな」


 紘一はそう言いながら、チョークを取り出し、「わたしはいのちのパンです。ヨハネ6:46より」と書いた。


 それを、店の前に出した。ついでにヒソプも店の前にあるベンチに座らせた。立派な看板犬である。


 店の外は、秋の風が吹き抜けていた。どこからか、赤や黄色い葉も舞っている。少し寒いが、食欲の秋だ。ぜひ、うちのパンを食べ、腹を満たしてほしい。同時に聖書の御言葉を咀嚼し、心が満たせたら、大万歳だ。


「よし、今日も頑張るぞ!」


 僕はそう言うと、「Open」と書かれたドアプレートを掲げた。

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