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俺解釈三国志  作者: じる
幕間7 酷吏二人(熹平六年/177)
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12 亡命

 司隷校尉が代わってたった数日で、休沐で家に帰ろうとした宦官達が次々捕まり、洛陽獄へ放り込まれた。李膺が司隷校尉だった時と同じく、宦官達はまた休沐で家に帰らなくなった。


 陽球は留守宅も狙い打ちにした。宦官達のきらびやか自宅自体を取り締まりの対象にしたのである。留守を守るものたちは家の飾りを剥し、地味な装いに変え、苦難の時を乗り越えようとした。


 うす汚れはじめた宦官たちは、皇帝劉宏の裾にすがった。


「朕に何かしてもらいたいの?」

「司隷校尉を解任してください」

「お前達が球を司隷に勧めたんじゃないか。その司隷に落度が在る証拠は?」

「では大赦を……大赦をお願いします」


 洛陽獄に捕まった宦官達の助命の為である。


 劉宏はこの願いを容れた。日食から二十四日も経って大赦が行なわれた。


「洛陽獄の拘束されていた罪人を全て許し、解放しました」


 陽球は報告した。宦官は一人も解放されなかった。陽球が嘘を言ったのではない。皆既に殺されていたのである。陽球にその点ぬかりは無かった。


***


 この大赦の詔は張り巡らされた郵により、全国に伝えられた。むろん、それは五原安陽の蔡邕にとっても吉報だった。


「洛陽に帰れるぞ!」


 そう言って娘を両手で持ち上げた。はしゃぐ娘を見ながら、


(この利発な子をこんな僻地で過ごさせるわけにはいかない)


 そう決意した。北地は厳しい。一冬過ごすだけで死ぬ思いであった。


 蔡邕と蔡質の両一家はあわただしく帰路の支度をはじめた。


 元々罪人として来ているのである。財があるわけでもない彼らである。この北地から徒歩での帰還を考えると頭が痛かった。


「それは大変な事。この王智がよいようにいたしましょう」


 支援を申し出てくれたのは五原太守である王甫の弟であった。


 洛陽ではすでに王甫の一家は滅ぼされていたが、公事の大赦と違い、私事のそれはこの北辺に伝わっていない。後ろ盾となる兄がもうこの世に居ないことを王智は知らず、郡太守の大人気分のままなのである。


 王智が提供してくれた車に荷物を載せ、ようやく蔡家の旅の支度が整った。


「餞に別れの宴など一つ」


 気が進まない蔡邕だったが、さすがにこれを断われなかった。


 王智に建ててもらった屋敷で盛大な別れの宴が開かれた。


北の辺境とは思えない珍味佳肴が並び、安陽の人々がお祝いを言いに参上する、賑やかな宴となった。


 宴もたけなわの頃、王智が立ち上がるとくるり、くるりと舞始めた。思いの外達者な舞である。ぴたり、と動きを止めると蔡邕を誘った。


「さぁ!」


 返礼の踊りを要求したのである。だが蔡邕は立ち上がらなかった。


「……!」


 王智の顔色は元々酒と踊りで赤かったが、みるみるうちにそれを上書きし真っ赤に染まった。


「お、俺を!軽んじているのか!」


 叫んだ。蔡邕は無言で衣を払って立ち上がり退出した。後ろから王智のわめき声がする。叔父蔡質が追いついた。


「王五原はカンカンだぞ」

「叔父上、すいません。どうしても気が乗らなかった」

「判ってる。とにかく逃げよう」


 すでに車の準備は出来ていた。一家は逃亡を開始する。

 すぐに後ろから車で追うものがある。


「待てぇ!」


 当然、王智であった。


 王智が馬であったら追い付かれたであろう。だが車である。速度にさほどの違いが無く、なかなか差は詰まらない。もともと安陽は朔方郡との境の県である。すぐに郡の境界に辿り着いた。太守といえども隣の郡では何の力も持たない。王智は郡境で罵詈雑言を叫ぶくらいしかできなかった。


「訴えてやる!」

「都に帰っても貴様の安住の地はないぞ!」


 だがその声は確実に二人に届いていた。


「邕、どうする?」

「王甫の親族を辱めたんです。都には戻らない方が無難でしょうね……」


 二人とも王甫が既にこの世に居ない事を知らない。


「そうですね……海を渡り、楊州へでも渡りましょうか。呉にでも行けばさすがに追っ手はこないでしょう。寒いところはこりごりです」


 結局、蔡邕の呉への亡命は十二年の長きに渡る事となる。


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