3包囲
人また、人。
敵また、敵。
万余の集団が、山陰城の北側を取り囲んでいる。
城壁の上から見下ろすだけで朱儁の背筋に寒いものが走る。
句章で県が襲われた。その急報から僅か二日で、大軍が城を囲んだ。
兵の増強などする暇はなかった。県城の門を閉ざし、伝令を送り出すのが精いっぱいだった。
救いは彼らにまともな攻城兵器がない事……いや、まともな武器がない事である。城の背後を占める長湖には舟もまばらで、まだ完全な包囲には至っていない。
だが、時間の問題ではあった。
「安心したまえ、朱主簿」
同じく城壁の上で不敵に笑う男。會稽太守の尹端である。朱儁はこの尹會稽に主簿として仕えている。
「こんなもの烏合の衆に過ぎん。慓悍な羌族共に比べれば烏のひよっこ以下だ」
尹端は張度遼の下で羌族と戦ってきた歴戦の勇士である。朱儁はそう聞いている。
「大将軍とやらは素人だな。この戦力差なら、力押しできように」
多大な犠牲は出るだろうが……尹端はそうつぶやいた。
土で出来た城壁である。死を賭して近付けば、彼らの農具でもいずれ崩せるだろう。
上からの矢で死ぬのを我慢できれば、であるが。
朱儁にも判った。つまり、敵はぬるいのである。
だが、この県城を守る兵士にその道理が判っているかは怪しい気がした。
それでも兵士にも判る事はある。
兵士達は常に尹端を見ている。
その、落ち着き、ふてぶてしい様子を。
城の士気が崩壊しないのはそれ故であった。
「州への連絡は送り出した。援軍が到着し解囲してくれるまで持久するのが我らの任務だ」
尹會稽の頼もしさだけで、この城は持ち堪えている。




