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俺解釈三国志  作者: じる
幕間4 天の子(建寧三年/170)
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1 樓桑

 北辺の地、幽州。

 その州治所である涿郡涿県の南西の郊外に、小さな里があった。

 大きな桑の木が一本立ってはいたが、それを除けば、どこにでもある、何の変哲もない、豊かでもない田舎の小さな里である。


 この辺鄙な里の、さらに村の外れに、みすぼらしい小屋がある。その小屋の外には粗末な柵が有り、里と外との境界をかろうじて示していた。


 里の外から歩いてきた少年がひとり、柵の隙間をくぐると小屋の戸を開けて叫んだ。


「爺い。もう死んだか?」


 そう言うと返事も待たず、小屋の土間に、脇に抱えていた枯れ草や枯れ枝を投げ出した。


 暗い小屋の中には老人が一人、死んだように横たわっていた。

 老人の胸はゆっくりと上下し、老人がまだ生きている事をかろうじて示していた。


 少年は小屋の中央の炉、とも言いがたい焚火跡の前にあぐらをかいて座ると、枯れ枝の一本を手に取り、ざっと灰をかき混ぜ、熾きを起こした。


 やっと老人は答えた。


「……馬鹿を言え。そう簡単に死ぬか」


 か細い答えを聞き終わると、少年はとめていた手を動かし始め、次々に枯れ草を灰の上にくべた。

 枯れ草は火花を散らしながら、みるみると燃え上がる。

 少年は枯れ枝をボキボキと折りながらその炎に突っ込む。

 木の燃える匂いが漂い、小屋の中がほんのりとあたたかくなる。


 少年は残った枯れ枝で灰をもてあそびながら、視線も上げずに言った。


「でも、おいらが世話をしなくなったら、爺さんすぐにおっ死ぬだろ?」


 老人は数回胸を上下させることで、やっとの怒りを込めて言った。


大耳児みみでかめ。育ててやった恩を忘れたか!」


 そこまで言うと、激しく咳き込んだ。


 咳が治まるまで待って、少年はつぶやいた。


「育ててもらった分の恩くらいは返したと思うけどな」


 しばらくして、老人はやっと答えた。


「……憎たらしいガキだ。殺してやる」


 老人は起き上がろうとしてまた咳込みはじめる。


「あんなに匂いをプンプンさせちゃぜったい無理だよ」


 少年は退屈そうに灰をかき回した。


 この二人の共同生活が始まったのは九年前のことになる。


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