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俺解釈三国志  作者: じる
第三話 陳竇の事(永康二年/168)
25/183

1 梓宮

 徳陽殿の前殿に、腐臭と、そして濃厚な血臭が漂っていた。


 腐臭は前殿中央の祭壇上に飾られた梓宮──皇帝の遺骸を納めた梓の木でできた棺──から漂っている。そこには不滅の力を秘めた金褸玉衣を纏い、皇帝劉志が眠っている。


 血臭は祭壇の周囲に転がる九つの死骸から立ち昇っている。

 遺体からはまだ間欠的に血しぶきが吹き出し、晩冬の冷たい大気にうっすらと湯気を上げながら前殿の石畳に広がっていく。


 屍は皆女性だった。ボロを着せられた上で縛められ、髪は剃り上げられ、顔はずたずたに切り刻まれていた。


 だが宦官の彼らには無傷の部分を見ただけでどれが誰かが判った。

 皇帝劉志の為、彼女らの身支度と検査に何度も何度も立ち会っていたからである。この死体は皆後宮の貴人であり、生前の劉志に深く寵愛された者たちだった。


 中常侍の管霸と蘇康は「あってはならないことだ」と力無くつぶやいた。

 小黄門の張讓と趙忠は目くばせで警戒感を伝えあった。


 皇帝劉志が崩御して間が無いのに、彼が寵愛した貴人達が棺の周りで惨殺された。

 竇太后の指図だろう、とは誰も言わなかった。判りきったことだったから。

「嫉妬か」とも誰も漏らさなかった。誰が聞いているか判らなかったから。


 死体の片付けに立ち会い、疲労と共に内宮へ帰って来た彼らの元に、中常侍の曹節が走って来て叫んだ。


「皇太后陛下が、後宮の采女たちをみなごろしにするように仰せだ!」


 管霸と蘇康は情けない表情で互いに顔を見合わせると、竇太后を諌める為に走っていった。


 部屋に残った張讓は、敷物の上によろよろと座った。

 趙忠がその横に並んで座る。

 余人に聞かれたくない話をする為である。


(とんでもない事になったね……)


 趙忠の囁きに張讓が頷く。


 年末に帝が崩御なされ、年が明けて早々皇后竇妙が皇太后となられた。

 跡継ぎはいない。帝の生母も十五年前に崩御されている。

 当面は皇太后が御親政なさることになる。だから皇太后が自儘に振舞われることは判っていた。しかし、ここまでなさるとは。


(管常侍が止めてくださるといいが。)


 竇太后は愛されなかったお方だ。


 後宮宮女は六千人。その中で特に寵愛された貴人が九人。

 一昨年、帝はその九人の中から田聖を選び、皇后になさろうとされた。

 だが当時太尉の陳蕃が田聖の家柄に文句を付けた為、帝は家柄の良い竇武の娘竇妙を皇后に選ぶことにした。

 しかし、それは帝が竇妙を愛した、ということではない。帝が竇皇后を訪れる事は殆ど無く、結果として竇皇后は名ばかりの妻となった。


 よりによって皇帝は死の床で田聖ら九人を采女から貴人に昇格させた。これが皇后の秘めた怒りに油を注いだ形になった。


 帝が崩御なされると、竇皇后は竇太后となられた。帝に無視され続けたお怨みが吹き出し、正月早々九人の命が奪われた。さらに後宮の女六千人にも累が及ぼうとしている。


 恨み骨随とはこのことか……。


(まぁ陛下も後宮に男を入れたくはあるまい)


 六千人もの宮女たちを処刑するのは宦官の手に余る。だから兵か役人を多数入れ捕縛する必要が有る。ぐずぐずと始末していたら宮女の親族達が騒ぎ出す。皇太后もそれは避けたいだろう。


(これからどうしようか?)


 趙忠の問いに張讓はつぶやいた。


(決まっている。我らは我らに出来る、最大の事をするだけだ)


 そう、今後は全力で竇太后に諂うのだ。


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