4 黃門北寺獄
「いい眺めだ。実にいい。これをどれほど望んだことか……」
「……」
黃門北寺獄の一室で李膺は静かに正座して時を過ごしていた。
張讓は気が向くとここへ訪れ、収監された李膺の姿をじっくりと眺める。
張讓が牢の外からどのような悪口雑言を吐いても、李膺は静かに座っているだけでなんら反論も反応もしない。
だが、それでも良かった。李膺の今の姿は、自分達宦官が、あの李膺をここまで追い詰めた、という証だからである。
張讓はこの監獄の空気をじっくりと楽しんだ。
李膺が端正に座っているこの場所にも、拷問される士太夫の悲鳴が聞こえて来る。士太夫に居心地の悪いこの空間が張讓にはこの上なく心地よかった。
自分達宦官は常に高冠長剣という出で立ち。携えた剣で李膺を刺し殺すことすら簡単にできる。
(でもそれはもったいないな)
殺してしまったら、そこでおしまい。この楽しみが永久に失われてしまう。殺す日が来るまでいたぶってやりたい。
そうだ。
(李膺の奴も宮してやったらどうかな?)
自分を宦官にされたら、奴はいったいどんな顔をするだろう?今は行われていない肉刑を復活し、李膺を処してやりたい。張讓は切に願った。
黃門北寺獄から戻った張讓の顔を見て趙忠が声を掛けた。
「楽しそうだね。判るよ」
「ああ、やっとだ」
張讓は満面の笑みで応えた。
「やっとここまで来れた」
「よかったじゃないか」
「奴が死刑になるまではじっくり楽しみたい」
「帝から許可が下りるのは来年の一月でしょう?」
前年に死刑判決を受けた者に関し、死刑の執行を皇帝が裁可するのが一月である。李膺らが逮捕されたのは六月だが未だに死刑判決は下りていない。
「今年いっぱい楽しみ続けられるのか……」
張讓は堪えられない、という笑みを浮かべたが、趙忠は内心疑っていた。
(帝は本当に党人を処刑なさるんだろうか?)