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戦わない小説家シリーズ

ガチUMA、襲来

作者: 一木 川臣

「やあ、こんにちは」


「マジっすか……」


 私が言葉を失うのも皆納得してくれるだろう。私は今、衝撃的な出来事…… もとい、衝撃的な人物に出くわしてしまっているのだ。


 場所はとある路地裏。五月の暑い風が吹く中でもここはひんやりと涼しく、人通りも少ないため普段なら子供達の遊び場になっている場所だ。 

 いつもなら平和な路地裏、しかしながら事は突然に起きた。


 子供達が『UMAが出た!!』と騒ぎ出したのだ。唯ならぬ騒ぎっぷりに瞬く間に噂が拡散され近所も大騒ぎ。


 そして発見された当日即座に緊急町内会が開催され『なんとなくUMAに強そう』だからという謎の理由で町民代表として私が単体で出没した路地まで向かうことになってしまったのだ。


 そもそも『UMA』相手に単体で向かわせるなんてひどい話である。確かに平日土日限らず家の中でweb小説を書いている私だが、書いているものはファンタジーものではない。それで勝手にUMAに強そうと断定しないで欲しいのもあるし、こういうのは集団で行くべきじゃないかな? 


 まぁ、あれもこれも私が緊急町内会で意見したけど全部否決。挙げ句の果てには『年寄りにUMA退治させる気かっ! 魔法とか使ってきたらどうするんじゃ!!』と逆ギレされる始末。

 魔法なんて使われたら私でも敵わない話である。現代の日本でそんなの使用する輩はいないんだからそこまでビビらなくてもいいのにな……


 まぁ、どうせコスプレした誰かだとは思うけど…… そんな考えもあった為ある程度会議に折り合いを付け決裁に合意をし某所へ向かったのだが……



 ガチでいたのだ。UMAが! 


 目の前には茶色の髪を肩まで伸ばした推定年齢16歳ほどの女の子。まぁ、これだけなら何も驚かないが、特徴的なのは背中に生えている大きな翼だ。


 人間の姿に翼が生えているのだ…… 嘘だろ…… こんなことって……


「って、コスプレ少女か…… 驚いて損したよ…… ちょっと君、どこから来たの?」



 まぁ、この辺りで冗談は置いておこう。明らかにコスプレをした女の子だ。いやに翼が立派な為手が凝っているなあと感心してしまったが、街を大騒ぎさせたんだ。ここは大人である私がビシッと言っておかないとな。


 翼が生えた彼女は不思議そうな顔をしながら視線をこちらに合わせてきた。


「何を言っているんだい? これはコスプレじゃないよ」


 中性的な声。女性にしては若干低めの声だ。


 えっ、コスプレじゃない!? 何を言っているんだこの人……


「本物の翼さ。とは言ってもまだ信じられないという顔をしているね。じゃあ、見せてあげるよ、ボクが本物だっていう証拠を!」


 バサァっと大きく翼が羽ばたいたと思えば勢いそのままに少女は空を飛び始めた。5秒ほど空中を回りサッと滑空し地へ降りる。


 嘘だあ…… 本当に飛んだよこの人……


「えええっ!? ガチUMAじゃん!!」

「そう、ガチUMA」


 ニヤリと不敵な笑み……


 な、なんてことだ。本当に、本当に現れた。あれはなんだ、天使なのか? 鳥人間なのか? 区分が分からないけどついに私の街からガチUMAが現れた。


「これはおったまげたなあ……」

「うーん、ボクの予想だともっともっと、腰を抜かして驚き絶句すると思っていたけど…… おったまげる程度で終わっちゃうだなんて、ちょっと残念だなぁ」


 何を悔しそうにしているんだこの人。オバケでも目指しているのか?


 しかし、本物のUMAに会うなんて、しかも人間の言葉を喋れるタイプだ…… こんな日があるなんて……


 って感心している場合じゃない。もしかしてこの街へ侵略しに来たのかもしれないんだ、まだまだ油断はできないぞ!


「き、君は何者なんだ……!?」


 半歩下がり大きめの声で尋ねてみる。あまり刺激したくないけど、何もせず帰ったら町長に怒られてしまう。最悪何者かだけでも突き止めないと。


「ボクの事…… よく聞いてくれたね」


 嬉しそうに手を開き、中性的な声で話し出す。


 あっ、この人結構話したがり屋だ、ラッキー。


「ボクは天使。天界から舞い降りた天使さ!」

「何しにきたんだー!?」


「ちょっと君、遠くない!? そんなに遠く離れなくてもいいじゃないか。なんか立てこもった犯人を尋問するようで嫌だぞ。もっと近くに来て話そう」


 言われてみればそうだ。天界でも立てこもり犯がいるようでどの世界でも変わらないようだなあ。


 とりあえず襲って来そうには無いので彼女と距離を詰めることにする。


「天界からわざわざ来て…… 何しに来たの?」

「そこに世界があるから…… かな」


 う〜ん、ちょっと拗らせているのかこの子。まあ、年齢的にそういうのも好きそうだし仕方ないのかなあ。堕天使とか憧れてそうだ。


「そんな怪しげな顔をするな。大丈夫だ、君たちに危害を加える気はない」

「まだ危害が目的だった方が怪しくないような……」


 そんなことないか。平和が一番。


「さて、こんな空も飛べるボクなんだ。よければ君たち人間に何か力を貸してあげるよ」


 大きく伸びをしながら自称天使がそんなことを言い始めた。私はまだ何も頼んでいないのに……


「力……? 急にどうしたんですか?」

「力さ、ボクの力。ボクは人の役に立つことをするのが好きだからね。それに、君も何か困ってそうじゃないか……」


 あ〜、なるほど。便利屋という訳ね。確かに天使だから人間以上の活躍も見込めそうだ。じゃあ、お言葉に甘えて……


「1兆1円くらいの金が欲しいなあ」

「は? 無理に決まってるでしょ、何言ってるの君」


 速攻で断られてしまった。まぁ、これぐらいは予想していたけど、秒で断るのもいかがなものか。天使の力でなんとかして欲しかった……


「じゃあ、私の連載しているweb小説をアニメ化してください」

「無理だって! 君、天使をなんだと思っているの……?」


 えっ、じゃあなんで力を貸そうとか言い始めたんだよ。できない事があるならそんなの人間と変わらないじゃないか。


「案外役に立たないね」

「君の願いが無理なものばっかりなんだよ」


 じゃあ、何ができるのさ。ガチUMAに問い詰めたら「空を飛ぶことができる」と自慢げに言い張ってきた。それだけかよ。


 当然だけどガチUMAと言い合いになることに。空を飛ぶなんてドローンが活躍するこのご時世であまり高い価値を見出せない。もっと、人を蘇生させるとかその辺りを期待していたのに。


 文句を言えば、向こうも負けじと返してくる。相当負けず嫌いのようだ。


「空とぶなんて、パトロールしかできないじゃん!」

「そんなことないもん! もっと役に立つこと考えてよぉ。天使って凄いんだよ!」


 ついにグズり出す。天使が凄いと言われても困るし、グズり出したあたりから何故だか私が『彼女の力が発揮できるところ』を見出す役になってしまった。


「んじゃあ、野球の外野守るとか? ホームラン取れるし大活躍間違いなしですよ」

「野球できないよぉ」


「あ、じゃあUFOで接近するエイリアンを撃退してください!」

「エイリアンは無理! 同じUMAだからって一緒にしないでよぉ」



「じゃあトマトを襲うヒヨドリの退治をしましょう。空に逃げられても追いかけられますよ」

「鳥怖いよぉ」



 思った以上のぽんこつ天使だぞ。人間が出来ることもできないんじゃないか…… こんなぽんこつ天使なのにさっき自信満々に『ボクの力を貸そうか』とか言っていたんだぞ…… 情けなさすぎるでしょ……


「今思った! ぽんこつ天使って思ったでしょ!! ふえーん!」

「えっ!? 私は何も言ってないですよ!」


 妙なところで察しだけはいいのか、私の心内を覗かれてしまいついに泣き出してしまった。

 ど、どうしよう、このガチUMA……



 あ、そうだ!!








 ・

 ・

 ・



「うおおお、くらえ、『堕天使ストライク』!!」


 大きく翼を羽ばたかせながら天使は大きく飛び上がる。そして滑降の勢いままに『サツマイモレンジャー』を蹴り飛ばした。


「くっ、なんてパワーだ!」


 強烈な打撃を受け、お腹を押さえながらサツマイモ色のヒーローが跪く。


「はっはっはー! 私の必殺技を受けて耐えれる人間なぞおらん! このままくたばるがいい!」


 ヒーローピンチ! の運命やいかに!


『頑張れー!』『堕天使に負けるなー!』『サツマイモレンジャー、ファイトー!』



 声援を受け満面のドヤ顔を見せつける『堕天使』役の『ガチUMA』…… いや、本物の『天使』


 すごいノリノリだな…… 子供達からも大人気だ。


 場所は大型ショッピングモール『ゐをん』。今日はヒーローショーのイベントということで、ついに彼女がヴィラン役として出ると聞いて見にきたが、ものの見事にカタにハマっている。


 大きな羽に黒色のコスチュームをした彼女は紛れもない『堕天使』、マジで大丈夫かサツマイモレンジャー、この展開からどう逆転するのか……


 最初は本気で見ていなかった私もこの流れにはつい汗を握ってしまう。


 子供たちに限らず、周りの大人は足を止めて彼女に釘付けだ。ワイヤーもないのに本当に飛んで演技をしているから皆ド肝を抜いている。


「はっはっはー!! 今日この日がサツマイモレンジャーの命日!! ついに私は、兄の仇であるサツマイモレンジャーをこの手で…… 長かった…… とても長かった!! くらえっ『堕天使バスター』!!」


 迫真の演技…… にも見えるけど、多分彼女はああいう役がとても好きなんだろう。若干拗らせ気質もあったしそれも上手にマッチしているのかもね。


 『堕天使バスター』とは低空飛行のまま頭突きをする攻撃だ。かなり威力が高そうで、サツマイモレンジャーも「ぐほぉ!」っと演技とは思えないやられ声を吐き出した。


『ちょっと堕天使強すぎない……? 絶対サツマイモレンジャー勝てないわよ』

『痛そう……とても演出とは思えないのだけど、サツマイモレンジャー大丈夫かしら……』

『凄い面白いけど、流石に痛そうね……』

『うおおお!! 堕天使のねーちゃん、応援しているぞお!!』


 一緒に観戦する親達からはこんな声が聞こえてきた。私も本当に大丈夫か焦ってくる、さっきから見ていてなんとなしに気づいたがあの『堕天使』絶対に手加減していないぞ…… 可哀想だが頑張ってくれサツマイモレンジャー、日々肉体を鍛えているなら勝てるはずだ……


 頼むぞ、サツマイモレンジャー、お前は正義の味方なんだろう? 絶対に負けるんじゃないぞ。



「あー、はっはっは!! これでトドメだ、サツマイモレンジャー!!」









 ちなみにその日、過去200回以上の開演以来、初めてサツマイモレンジャーが負けてしまった。この出来事はあまりにも衝撃的で『ゐをん』の株価が大荒れになってしまい、ニュースや新聞などで大きく取り上げられてしまう事態までに陥った。


 通称『堕天使ショック』、緊急株主総会が開かれてしまったのは言うまでもない。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 天使なのに堕天使役。しかもノリノリ(笑) でもヒーロー倒しちゃ駄目だよね! 女の子が戦うやつならばっちり!
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