5.楽しい旅にしよう!
魔動二輪車のアクセルをグッと捻るとスムーズに速度が出て景色が流れて行く。魔人共和国には魔動車専用の道路が敷かれておりある程度住民達に気を配らなくとも速度を出すことが出来る。といっても勿論子供等が突然飛び出してくる事がある為ある程度は気を付けなくてはならない。
「…」
高速ですれ違う住民一人一人を照合魔術で確認しながら目的地へ向かう。もしかすると何かしらの方法で探知魔術に引っ掛からない様になっているだけで実は首都に居る、なんていう可能性もあるのだから。
…本当は分かっている、私の探知魔術が誤作動する筈が無いのだから。でも認めたくない…認めてしまったらもう二度と会えない気がするから。
「…」
そうこうしている内に目的地である冒険者協会に到着する。勇者が魔王を倒した後、元々使っていた旅道具を此処に預けていた。魔動二輪車を冒険者協会の隅に駐めて、括り付けていた大きなとんがり帽子を回収して被り冒険者協会内へ入る。
「荷物を取りに来た」
「あっこんにちは魔術士さん!荷物の受け取りですね!少々お待ちください」
若い青年の受付が私を見るなり笑顔になり奥の部屋へ入っていく。本来であれば冒険者証を提示しなければならないが私は有名人なので顔パスで利用できる。ちょっと防犯意識が足りないとは思うけど。まぁ盗られて困る様な物は預けていないし問題は無い。
「…」
待ってる時間がもどかしい。考えてみればこんなに気持ちが揺さぶられるのは何年ぶりだろう?決して気持ちの良い物では無い。
「…そ、か」
勇者との旅は常に楽しかったんだ。勇者は新しい旅を始める時に毎回同じことを必ず言っていたのを思い出す。
『楽しい旅にしよう!』
…ふふっ、そういえば勇者はいつも楽しそうだった。新しい場所、新しい装備、新しい発見…一つ一つ、こっちまで楽しくなってしまう程にいつも勇者は笑っていた。
「(そんな事すら覚えていなかったなんて、勇者が知ったらきっと…)」
あの勇者の事だ、まず死ぬはずが無い。大岩に轢かれた時も、地割れに呑み込まれた時も、迫りくる壁に挟まれた時も…必ず少し恥ずかしそうにしながらヘラヘラ笑って帰ってきたのだから。
ならば私はどうするべきか?血眼になって勇者を探す?きっとそんなのはつまらない、どうせなら勇者を見つけた時に沢山お話出来るようにレパートリーを増やしておくべきだろう。
「お待たせしました!…魔術士さん?」
「…何でもない。ありがとう」
「…!あ、はい!またどうぞ!」
受付の青年は何故か顔を赤くして荷物を渡す。受け取った荷物に追従の魔術を行使して冒険者協会を退所し魔動二輪車まで運ぶ。
私の後ろをふわふわと追いかけてきた荷物から追従の魔術を除去して魔動二輪車に積んでいく。私の見立て通り荷物は魔動二輪車に全て積むことが出来た、これで旅を始められる。
「よいしょ…この国に勇者が居ないのは確実だから…探すとしたら…」
魔動二輪車の荷物から何枚かある地図の内一枚を取り出して次の目的を探す。やはりここから一番近い国の首都がいいだろうか?しらみつぶしに探すにしても最短距離で巡って行く方が最適だろうし。…だけど勇者が行きそうか?と考えてみると難しい。
「うーん」
……よし、やはりここから一番近い国…エンデスへ向かおう。エンデスは農作物と織物の生産量が多く、非常に市場の発達した国だ。ついでにそこでローブ等の衣服を新調しよう。
「よし…決めた」
再び魔動二輪車にまたがり大きなとんがり帽子をくくり付けて魔力を込めてエンジンを起動する。辺りに重低音が響き渡り軽快なリズムを生み出す。
アクセルを軽く捻るとリズムは一層激しくなり魔動二輪車は軽やかに加速する。風で目が少し乾くが痛むほどでは無い。
「楽しい…旅にしよう」
第一章これで終わりになります。
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また他にも小説モドキを投稿しておりますが大変暗く陰鬱で気持ちの悪いアハ体験みたいなお話ですのであまりおススメできません。
逆にそういうのがお好みな変態マシーンの方はどうぞご覧下さい。