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勇者失踪 ~勇者が行方不明になったので探す~  作者: 御味九図男
第一章:魔術士と行方不明の勇者
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4.勇者が本気を出せば地球一周に1時間も掛からない!


 鳥の囀りと朝日の心地よい朝。


 日光に晒され仄かに香る木の香りに優しく目覚めた魔術士は少し伸びをして呟いた。



「勇者…?」



■■■■■■■■■■■■■■■■■■



「はぁ…もう11時だぞ…」


「勇者さんはともかく魔術士さんまで遅刻だなんて珍しいですねぇ」



 リースとシンシスはあきれながら大窓から見える時計塔を薄目で見る。今日は魔王と人間の王達で大切な会議が開かれる日であった。本来であれば9時50分集合の筈だったが集合時刻より1時間と少し経った今になっても二人が現れる様子が無い。



「まったく…本当に人騒がせな奴じゃのう。ほっほっほ」


「全王会議にすら出席しないとは流石、破天荒な勇者様だのう」


「クックック…それでこそ我を倒した男よ…」



 だが王達に怒りの様子は無い、寧ろ流石だのいつも通りだのわがままな孫をあやすお爺さんとお婆さんといった感じだ。誰もが皆勇者がとてつもない善人である事を知っているが故の状況である。



「本当に申し訳ございません…うちの勇者が…」


「きっと何処かで人助けでもして時間が掛かってるんだと思いますぅ…」



 実際過去に勇者は大切な用事を人助けですっぽかしていたりする。それも一度や二度では無い、だが理由が理由な為誰一人として不快に思う者は居なかった。



「まぁ会議自体は無事終わったのだし問題はなかろうて」


「そうさなァ…奴はそういう男だしのう」


「クックック…我が魔王眼で覗いたとき人助けをした回数が5桁を越えていたからな…今回もそうなのだろう…クックック…」


「やっぱり風邪とか引いてるんじゃぁ…」



 魔王を心配するリースを尻目にシンシスはお偉方に謝って回っていた。だがシンシス自身もそれを腹立たしく感じたりはしていない、自分が助けられない存在も助けてしまう様な男なのだ、自分が謝って誰かが救われるのなら安い物だと考えている。


バァンッ!


 そんなほのぼのとした空気が流れていた全王会議場の大扉が突如凄まじい勢いで開かれる。そこに立っていたのは魔術士一人、見るからに疲労している様子の彼女は開口一番こう発した。



「勇者は!!?」



 沈黙が訪れる。


 その後ハッとしてシンシスが疲れた様子の魔術士に駆け寄り肩を貸す。それに続いてリースも魔術士に駆け寄り疲労回復の魔術を行使する。



「こちらにはいらしてませんよぉ」


「一緒じゃないのか?」



 魔術士はその場にへたり込み話す。



「朝起きたらもう…居なくなってて!」


「クックック…ほう…探知魔術は試したのか?」


「駄目だった。勇者が本気を出せば地球一周に1時間も掛からない!」



 今まで見た事無い程に焦っている魔術士を見た皆は少しづつ事の大きさを理解していく。



「馬鹿な…こんなタイミングで失踪するなど…」


「いいえ、世界平和が成された今だからこそ…失踪したのでは?」


「何者かに暗殺でもされた…という線は無いだろうのう…感謝はすれど彼を憎む者など生物にはおるまい」


「クックック…そもそも奴を殺すことなど不可能だ…」



 王達は様々な可能性を模索し頭を悩ませる。何故一個人に対してここまで頭を悩ませるのか、それは此処にいる誰もが勇者に大恩があるからだ。魔王もその一人である、そもそも勇者と魔王はタイマン事件以前にも交流があり何度も何度も勇者に助けてもらっていたのだ、一応魔族の王としては勇者に負けないと世界平和に協力する為の表立った理由を作れなかったからだ。



カンッ



 魔術士が大杖をついて立ち上がる。小さな音だったが場を沈黙させるには十分だった。



「まて!何処へ行くつもりだい!?」


「探す…!」


「探すってぇ…何処を探すんですかぁ!?」



 少しずれた大きなとんがり帽子を直して魔術士は答える。彼女の表情に余裕は殆どない。



「全部…っ!」


「全部ってぇ世界中ですかぁ!?一人じゃ無理ですよぅ!」


「私も行く」



 シンシスが魔術士のマントを掴もうとするが大杖で押しのけられる。



「駄目。二人ともやるべき事がある筈」


「しかし…!」


「皆で実現した世界平和…無駄にしたら許さない」


「…っ!」



 シンシスは何かを言おうとするが魔術士に睨まれ立ち竦んでしまう。それだけの気迫が今の魔術士には有った。



「あなた達も同じ、絶対平和を守って」


「クックック…容易い事だ…安心して勇者を探すといい…」



 他の王達も何かを覚悟した様子で頷く。そしてそれを確認した魔術士は今度こそ会議場から出て行ってしまった。その背中を追う者は居ない。



「行って…しまったな」


「魔術士さん…また…あえますよねぇ…?」


「…ふん!落ち込んでいる場合か!我々は世界平和を維持する!そうするしか無かろう!」


「クックック…そうしなければ奴に怒られてしまうからな」


「ほっほっほ、そうじゃのう。では…このまま第二回全王会議を開催しようではないか、異存のあるものは?」



 会場が静まり返る。



「よし、では第一議題は…"勇者に依存せず世界平和を維持する方法"だ」



■■■■■■■■■■■■■■■■■■



「私のせいだ…私のせいだ…私のせいだ…」



 長い石畳の道を進む。暗い思考が頭の中を永遠に交差している、探知魔術に勇者の反応は無かった、既にこの国には居ないのだろう。


 すれ違う人々は皆明日の希望を信じて疑わない様子だ、これが勇者が世界にもたらした物だ。ほかの誰も出来なかった偉業だ。



「はやく…!見つけてあげないと」



 飛翔魔術で空を飛び勇者を探した方が発見率は高いが長期的な面で見るとかなり非効率だ。そうなると移動手段が必要になる、歩いて探している様ではどれだけかかるか分からないのだから。



『もう俺の役目は終わりって事かな』



 勇者の言葉が頭の中で巡る。彼の何処か寂し気で孤独を感じさせるその一言が重くのしかかる。あまりの重さに現実の足がもつれてしまいそうになるほどに。



「考えても仕方が無い」



 何とか自分に言い聞かせて魔動二輪車店に入る。そして適当に積載量の多い物を選んで購入する、金はかつての旅のおかげで腐るほどある。


 魔動二輪車はこれからの捜索にとても適している、魔力さえあればいくらでも走るしスピードも出る。運転方法はかつて禁書庫に住んでいた時に学んだ。



「勇者との繋がりは途絶えて無い、死んでは…いない」



 勇者は共に旅する仲間に特別な加護のような物を分け与える事が出来る。加護を受けると身体の一部に模様が浮かび上がり様々な穏健をもたらす。それは勇者の仲間を辞めるか勇者本人が死ぬまで消えない。



「…」



 魔動二輪車に魔力を注ぎ込みエンジンを起動すると心臓を打つような重低音が辺りに響き渡る。そして大きなとんがり帽子を脱いで紐で魔動二輪車に括り付ける。ヘルメットは着けない、付けなければならないという法律も無いし着けると視認性が悪くなる。



「行こう」



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