2.いらない!知ってるんだぞ…!税金とか管理費とか…!そんな金は無い!
「よろしくお願いしまァァァァアアアすッッ!!」
「まてまてまて」
やり直したかと思ったらすぐに切りかかって来る勇者をまたもや制止する魔王。
「クックック…落ち着け勇者よ」
「何…!?」
「あ…また始まった」
魔術士の面倒くさそうな声も虚しくまたしても咳ばらいをして話し始める魔王。
「オホン。クックック…我の配下となれ…!勇者よ!さすれば世界の半分をくれてやる…」
「いらない!知ってるんだぞ…!税金とか管理費とか…!そんな金は無い!」
「クックック…現実的な勇者だ…」
そんなやり取りを聞いた仲間達はこそこそと話す。
「(そんなにかかるんですか~…?」
「(税金や管理費以外にも自分の土地で怪我とかされたら管理不足で訴えられたりする事もあるみたいだね」
「(面倒事は御免」
仲間達をおいて勇者と魔王の間で勝手に話が進んでいく。
「クックック…まぁ良い…戦う前にお前たちの力を見てやる…」
「なんだと…!?」
「クックック…もう遅い…!魔王眼発動!」
魔王の両目に魔術陣がハッキリと浮かび上がり勇者一行をじろじろと舐めるように見つめる。そして意味ありげに(ほう…)と声を漏らした後口を開く。
「クックック…神官は…レベル85か…クックック…つよい」
「レベル…?勇者さんレベルってなんですか?」
「えぇ…知らないよ…」
魔王のみがつかえる魔王眼は対象者の実力を数値として見る事ができる…といっても使えるのが魔王本人のみな為、この世界の人々はそもそもレベルという言葉すら知らないのである。
「クックック…次は刺剣士…レベル88…クックック…つよい」
「そういう魔王はレベルいくつなんだ?」
「クックック…知らん」
そりゃそうなのだ、魔王本人しか使えない魔王眼では自分を見る事ができないのである。ちなみに鏡でもやっぱり実力を見切れないのか測定不能である。
「クックック…次は魔術士…レベル99…きゅうじゅうきゅう!?…うーん…つよい」
「最近伸び悩んでる」
「クックック…それ以上強くなるな…」
最後に、と告げて魔王は勇者をまじまじと見つめる。その間難しい顔をしたり困ったような顔をしたり何か考える様な仕草をした後口を開く。
「クックック…勇者のレベルなのだが…1e96?良く分からんな…すまん…」
「…いや、いいよ。仕方ない仕方ない、切り替えてこ」
若干ワクワクしていた勇者は目に見えてがっかりするがお人よしの為、勇者が魔王を慰めるといった不思議な光景が魔王の間に広がっていた。そして思い出したように勇者が口を開く。
「あ、そういえば魔王倒しに来たんだった!」
「クックック…忘れんぼさんめ…」
魔王は人差し指を勇者に指して話す。ビシッと空耳が聞こえそうな勢いの指さしだ。
「人を指さすな!」
「クックック…マナー講師さんめ…まぁ良い、我とやり合うのなら一つ条件がある」
「何ぃ…!?」
魔王は大きな王座から立ち上がると両手を広げて勇者を見下ろす。
「クックック…タイマンだ…!」
「うわぁ…こすい魔王も居たもんですねぇ…」
流石の神官もドン引きだ。棒立ちしている魔術士の肩を掴みながら密集した蛆虫でも見るかの様な目で魔王を見ている。…だが勇者は違った。
「望むところだ!」
「来いッ!…勇者よ!!」
そう、勇者は究極の善人であり若干のアホである為、魔王1人に対して4人で挑むなんていじめみたいでかっこ悪いと本気で思っているのである。しかも勇者は剣も抜かずに拳を振りかぶって魔王へ突撃して行くでは無いか。
「うおおおおおおおおぉぉぉッッ」
ドゴッ!
「ぐえええええええええ!!!!」
思ったより速くて避けれなかった魔王はぶっとんで7回ほどバウンドした後停止した。
「成敗!」
「」
まるでいつも通りといった様子で神官が魔王の元へ走り寄っていき、首元に手をさわる。
「脈あります!」
「よし、最近力が制御できなくなってきたからな。武器を使わなくて正解だった」
そう、この勇者。
これまで10年間、旅をしてきたがただの一人も人間や魔族を殺してはいない。殺した…というか破壊したのは完全に生物では無い魔物だけである。
「お疲れ様」
「あぁ…!みんなのおかげだ…!これで世界が平和になるぞっ!」
「長い旅だったね…」
「本当に長かったですねぇ…特に旧教会を崩壊させてから…」
魔族に支配者が居るように人間にも支配者が居た。信者達を不当に扱い人間を陰から操っていたのは旧教会だ、そんな旧教会も勇者パーティーに影も残さず崩壊させられたのだが。
ちなみに今は人間も魔族もヴィセス教という大変クリーンな宗教を信仰している。
「後は魔王が世界平和の為に協力してくれるか…だな」
「大丈夫ですよ!きっと分かってくれます!」
「説得すればいいさ。勿論暴力はナシでね」
「今まで通り根気よく」
「…だな!」
勇者は魔王を背負うと仲間達を一瞥して口を開く。
「よし、帰ろう!」
「皆がまってる」
「お腹すきましたぁ」
皆が来た道を戻り始めた時、魔術士はふと勇者の袖をつまむ。
「勇者」
「どーした」
「…」
ほんの少しの沈黙の後、魔術士は言う。
「なんでもない」