1.せまい魔王城、そんなに急いで何処へ行く
広い廊下に4人分の足音が響く。
廊下の両端には豪華絢爛な彫刻やら絵画やら様々な物が飾られているが、それらは全てどこか禍々しさを感じさせる。よく見ると槍を持つ角の生えた化け物の彫刻だったり血の湖に浮かぶ骸骨の絵画だったりするのだ。
そして暫く続いた足音の主達は一際大きな扉の前で足を止める。
「準備はいいか?」
あまり整えられていないボサボサの黒髪になんだかパッとしない黒目の男が他の3人にそう問いかける。
「魔術士、いつでもいける。刺剣士と神官は?」
色素が薄く短い緑髪に淡い赤色が美しい瞳を持つ女が一番初めに返事し、左手で抱えていた大きなとんがり帽子を深くかぶると残りの2人に問いかける。
「うん、バッチリだ」
金髪蒼眼の美しい女は腰の刺剣に手を掛けてそう答える。女だと前述したが実は男だ、ただあまりにも美しい上に本人が自身の性を女としているので周りもそう認識している。
「すぅー………はぁ~!…よしっいけます!」
黄金の長髪に黄金の綺麗な瞳を持つ神官服の女も深呼吸の後に答える。若く見えるが彼女はこれでもヴィセス教の高位神官だ。
「よし…行こう!」
魔術士・刺剣士・神官の3人が頷くのを確認した男は勢いよく大扉を開く。
バァァッッッン!!!
「お邪魔しますッッ!!」
男の視線の先には豪華絢爛(悪趣味)な室内の一番奥にある無駄に大きな椅子に頭の角が6本もある異様な男がくつくつと笑いながら足を組んで座っていた。
「クックック…」
「何がおかしい!」
声を荒げる男に6本角の異様な男はこう話す。
「邪魔をするなら帰れ…」
「何…!?」
人間の男は困惑した表情で冷や汗を流す。それをみた魔術士が的確なアドバイスを男の耳元で告げる。
「無視していい」
「そうなのか?わかった」
何を隠そうこのパッとしない男、若干抜けているところのある憎めない奴なのだ。そんな男を大きな椅子から眺める6本角の男は口を開く。
「クックック…冗談d
「覚悟おおおおおおおおおッ!!」
「まてまてまて」
6本角の男は切りかかる男を慌てて制止する。若干乱れた髪を掻き上げると咳ばらいをして口を開く。
「ゴホン。クックック…せまい魔王城 そんなに急いで何処へ行く」
「…?いや結構広くないか?」
「クックック…」
男は仲間達に(やっぱり広いよなぁ…?)と問いかけるが帰って来るのはやはり(無視していい)との事だった。
「クックック…仕切り直しといこう」
「一からか!?一からやんないとダメか!?」
「クックック…ケチケチするな…クックック…」
「こだわり屋さんめ…!」
「風邪でもひいていらっしゃるのでしょうか…」
心配する神官を尻目に男は咳払いをして大声を上げる。それはもうとてつもなく大きな声だった。
『ばぁぁっっんッ!!お邪魔しますッッ!!』
「うわっびっくりした」
刺剣士が窘める視線を送るが男は気が付いていない。というかむしろ思ったより声が大きくなり若干男は恥ずかしそうであった。そんな男見た6本角の異様な男は大きな椅子から立ち上がり両手を広げて話す。
「よく来たな…勇者よ!」
「久しぶりだな…魔王!」
…そう、二人の男は勇者と魔王。
決して慣れ合う事の出来ない宿命を背負った者達だ。