「生涯レベル1の無能は不要!」と言われ、追放された俺。デバフスキルであるはずの『マイナスマン』を武器に急成長、無双する~「俺たちのレベルも『マイナス』して上げてくれ!」と言われても、もう遅い~
新作です。
「テオ・アーターソン!今日をもって、お前をこのパーティーからクビにすることにした!異論は認めない!」
冒険者ギルドからの依頼であるキングゴブリン討伐の帰り道に発せられたパーティーリーダーであるエイベルの言葉に……俺は我が耳を疑った。
「な、なんで急に……?」
「急なわけがない!ずっと前からそう思っていた!一向にレベルが上がらないーーお前のような生涯レベル1の無能など消えた方が良いとな!」
「で、でも……スキルで役に立って……」
「ほんとにそんなこと思ってんの?あんたのスキル『マイナスマン』が役に立ってるって?ダサっ」
俺の必死の訴えに対し、一人の女……クレアが水を差すような発言をする。
「あんたみたいのがいるから私たちはギルドのパーティーランキングで1番になれないのよ。あんたみたいな愚図のせいでね!」
冒険者ギルドは年に数回、『依頼達成率』、『パーティーメンバーの平均ランク』などを加味した上でパーティーランキングなるものを作成している。
目的としてはパーティー間の競争を生むことでギルド全体としての向上心を上げるためだ。
現在、"ロードオブライト"はそのランキングで二位につけているものの、一位である"スカイライン"をいつも越えることができず、『永遠の二番手』に徹してしまっている状況だ。
「スキルどころか、お前そのものがランキングまでマイナスに追い込んでる『マイナスマン』だな!」
「そ、そんな……」
(クソが)
こうも馬鹿にされて不愉快な気分にならないはずがない。
口では悲しみ一色といった感じだが、心のなかは悲しみよりも怒りで満たされている次第だ。
しかし……いくら不愉快でも、俺のスキルである『マイナスマン』が使えないという点には同意せざるを得ない。
……『マイナスマン』は一言で言うなら、デバフスキルだ。
相手の攻撃力や防御力を下げたり、レベルを下げたりできる。
だが、そのどれもが一時的かつ少量のマイナスなので『虎を兎に変えるような』デバフをかけることはできない。
しかも困ったことに、『マイナスマン』は己の経験値までもマイナスしてしまう。
そのマイナスのせいで3年間、冒険者を続けているにも関わらず、ずっとレベル1。
冒険者としての評価はレベルで決まると言っても過言ではないため、俺は冒険者になってから、ずっと影で嘲られるような存在となっている。
「……僕は本当に去るしかないんですか?今まで……パーティーとしてやって来たのに……」
寂しそうな態度をとり、彼らがどう出るか見ることにする。
少しは俺のことをーー
「仕方なく付き合ってただけだ!ここまで一緒に居てやっただけでも感謝しろ!」
「そうよ!3年もあんたみたいな蛆と一緒にいてあげたんだから!」
気遣ってくれていることなんてなかった。
俺はどうとも思われてなかったというわけだ。
……さすがに相手のことを思えない人間とパーティーを続けることなどできるわけがない。
そう結論に達し、決心する。
「わかった。俺は出てくよ。……それで、ライラは何て言ってるんだ?」
最後のパーティーメンバー、ライラ・パートリックの名前を出す。
"ロードオブライト"ではヒーラーの役割を果たしており、嘲笑されることの多い俺を思い、しばしば慰めてくれた良き理解者だ。
……彼女がこの"追放"に賛成かどうかは気になるところである。
「……っあったり前じゃない!あんたを此所に留まらせたいやつなんて居ないわよ!」
「……っ。……そうだぜ!あいつもよく『消えろ!』って言ってたしな!」
……そうか。
全会一致で追放に賛成というわけなら、としてはもう何も言うことはない。
この先、独りで冒険者としてやっていけるかはわからないが……こんなところで人生を食い潰すくらいなら追放されてやる方がましである。
……たとえ、冒険者をやめることになったとしても。
「……世話になったな」
「ああ!二度と顔見せるなよ!」
「そのまま死んでもいいわよ!その方が私たちもよく眠れるわ! 」
最後までそんな馬言雑言を背中に受けながら……ついに、俺はパーティー"ロードオブライト"を去ったのだった。
*
2日後。
俺がギルドへと足を踏み入れるとそこかしこからこんな声が聞こえてきた。
「あいつ、パーティーに捨てられたらしいよ?」
「まじ?かわいそっ!」
「誰かいれてやれよ~って……そんなやつ居ないか!」
どうやら俺のパーティー追放は既にギルド中に伝わってしまっているらしい。
ちょうど新しい遊び道具が手に入った子供のようにニヤニヤし、時おりこちらを見ながら、話している。
(……ちっ)
そんな風に話のネタにはしても、俺のことを気にして、パーティー新メンバーとして誘ってくれるものは一人としていない。
冒険者というのはこんな奴等しかいないのだろうか?
俺は心の中で舌打ちをしながら、クエスト依頼の掲示板を見る。
(なにか無いかっと……)
クエストは主に町や村に被害を及ぼす魔物を倒すことを目的とする討伐クエストと希少な鉱石や木の実を集める採集クエストの二つに大きく分けられる。
討伐クエストは相手が人々を騒がせる魔物だけに独りでは厳しいものがあるので、消去法的に俺ができそうなのというと採集クエストになる。
そういうわけで、報酬金もいいし、希少鉱石ーーの採集でも受けるかと思っていると……
「あいつ、何の依頼やると思う?」
「採集クエストだろ。あんな雑魚だけで魔物の討伐なんて無理無理!」
「賭けしようぜ!あれが採集クエストを受けるか、討伐クエストを受けるかどちらか!」
……気が変わった。
やっぱり、討伐クエストにしよう。
このまま、好き勝手言われたままで我慢できるかってんだ。
(いっそほとんど不可能な依頼にするか)
夢は大きい方が良いとはよく言ったもの。
最初から負け犬上等で簡単なクエストばかりを摘まんでいるのはワクワクとドキドキがたくさんのアドベンチャーをすべき"冒険者"としてあるまじき態度だ。
そう思って、俺が手に取った依頼はーー
「これにするか……ワイバーンの討伐」
強力なドラゴン種のひとつ……飛龍種に属するワイバーンの討伐クエストだ。
強力な炎ブレス、丸太を易々と噛み砕いてしまう顎を持つ強敵だ。
……"ロードオブライト"でも倒したことはない。
「あいつ……ワイバーン討伐やるんだとよ」
「自殺でもするつもりか?」
「単に気でも違くなっただけだろ……」
先程までの嘲笑の代わりに、憐れみの視線と言葉を送られる。
変化があった、というのは「無能の愚図」という評価で固定されていた今までを考えればましかもしれないが……全くもって嬉しくない。
「よし……やってやるぜ」
とりあえずは『なるようになれ』だ。
俺はクエスト出発口から顔を、そして体を、最後に足を出す。
そして、そのまま、ワイバーンの討伐場所となる"魔の森"へと駆けていった。
………………。
…………。
……。
「ふぅ……既に疲れたな……」
目的であるワイバーンにまだたどり着いていないにも関わらず、俺の疲労はかなりのところで達していた。
「魔物多いよなぁ……魔の森……」
"魔の森"はその名のとおり、様々な魔物たちで溢れかえっている。
ゴブリンにコボルド、オーク。
これまで幾度となく戦ってきた超有名魔物が勢揃いだ。
今日だけでも倒した魔物の数は100を越え、本来ならレベルの2つや3つは上がっててもおかしくないのだが……。
「はぁ……【エヴァルーション】」
鑑定魔法【エヴァルーション】を発動。
試しに現在のステータスを見てみることとする。
○テオ・アーターソンのステータス
レベル:1
攻撃力:8
防御力:15
敏捷性:9
魔力:3
スキル:『マイナスマン』……対象のステータスの数値の一部を一時的に"マイナス"することができる。
「……こうなるかぁ」
昨日から一ミリたりとも変わっていないステータスにげんなりとしてしまう。
どんなに頑張っても、上げることができないこの状況。
『マイナスマン』を消さない限り、俺はいよいよ、本格的に「冒険者辞職」を考えないといけなくなってくる。
「いいよなぁ……皆は……」
俺と違い、やればやった分だけレベルが上昇する他の冒険者たち。正直、羨ましすぎる。
「……にしても、出会わないな……」
出発してから既に5時間が経過。
上り詰めていた太陽はいまや傾いており、空には綺麗な夕焼けが作られている。
こんな日にはライラのような美しい少女が似合うだろうな……。
……って、もう終わったことじゃないか。
何を思い出しているんだ……俺は……。
「いい加減出てきてく……」
少しばかり心に痛みを感じながら、すっかり口癖になってしまった「出てきてくれ」を口に出そうとする。
……しかし
「きゃあああ!」
それは突如として聞こえた悲鳴によって書き消された。
俺は瞬時に悲鳴が聞こえた方向を判断し、足を向ける。
(……無視するわけにはいかないもんな)
見ず知らずの人だとしても、放っておくことなどできない。
人々の先導する"勇者"の下部組織とも言われる"冒険者"なのだから当然だ。
(それに……仲間に勧誘できるかもしれないしな……)
助けたことを引き合いに出して、「どうか冒険者仲間となってください!」と言えばオーケーしてもらえるはず。
さすがにレベル1の俺であっても、"恩人"となれば話は変わってくるだろう。
(よっしゃ!ワイバーン討伐は後回しだ!)
そんな下心丸出しで俺は声の主のところへと向かった。
*
結論から言おう。
その場には予想通りと言うべきか……尻餅をつき、この世の終わりだとでもいうような顔をした少女がいた。
無論、俺は大歓喜だ。
(こんな子とパーティーを作れるのか!)
とまだ助けてもいないのにそんな妄想を膨らませた。
完全に"捕らぬ不死鳥の羽算用"だ。
……違和感を覚えた人もいるかもしれないが、俺の地域でのひとつの諺である。
ーーと、それはさておき、とにかく少女がいたのだ。
しかし、それだけでは終わらなかった。
そこにいたのは少女だけではない。
『グルルルル……』
俺が出会いたくてしょうがなかった天下のワイバーン様も一緒だった。
今出会いたいか?と聞かれると……明らかに「ノー」だが……。
『ガアアアア!』
ワイバーンが口を引き裂かれんばかりに大きき、少女へと襲いかかる。
少女は恐怖で足がすくんで動けないのか、逃げるそぶりすら見せない。
「くそっ!【マイナスマン】!」
ーー入力内容許可。【マイナスマン】をワイバーンの敏捷性へと付与。
脳内に響く無機質な音声を聞きながら、俺はスキル発動の成功を理解する。
そのスキルによって、ワイバーンの攻撃速度が若干だけ緩まり、少女救出の猶予を作ることができた。
「わっ!な、なんですか!?」
「しっかりつかまってろ!」
驚いた顔を見せる少女を横目で見ながら、俺はワイバーンの懐をすり抜ける。
『ゴガアアア!』
その時、ワイバーンが突如として暴れだした。
ブンブンと尻尾が揺れ、それは見事なまでに俺の体へとクリーンヒットする。
「ぐっ!」
そのまま吹き飛ばされた俺は近くの木に勢いよく、叩きつけられる。
痛みから思わず、顔を歪めた。
『グガアア……』
ダラリと木に体を預けたままの俺に1歩、2歩と近づいてくるワイバーン。
少し開いたその口は「身の程知らずめ」と笑っているようにも思えた。
「……」
腕のなかを見ると少女は木への衝突時に気絶したのか、微動だにせず、目をつむっている。
(どうする……!?どうする……!?)
「【マイナスマン】!【マイナスマン】!【マイナスマン】!」
表示されたワイバーンのステータスをすべてタップし、【マイナスマン】を付与していく。
しかし、数秒もすれば、元のステータスへと戻ってしまい、足止めにすらすることができない。
「【マイナスマン】!【マイナスマン】!【マイナ……」
ーータップ許可。テオ・アーターソンのレベルをマイナスします。
「しまっ……!」
焦ったせいであろうことか、己のステータスを"マイナス"してしまった。
それも、ステータス数値を決定してしまう"レベル"を……。
『グルアアア!』
しびれを切らしたワイバーンがついに、攻撃体制をとる。
口を「ガパァ」と開け、喉の奥からは光かを漏れでている。
(まずい……!ブレスだ……!)
実際に目にしたことはないが、反射的にそう感じた。
『ゴオオオオオ!』
灼熱の炎が辺り一帯に放たれる。
木々は一瞬で燃え尽き、灰となる。
それと同様の爆炎が俺の方へと迫ってきた。
「うああああ!」
後ろに少女を置き、守るように少女の前へと出る。
俺は一か八か、炎に向かって腰から抜いたロングソードーー何処にでもある武器屋で購入した最安価の貧相な剣を振るった。
何かを起こすためだとか、隠し持っていた切り札ということもない。
迫り来る恐怖に対して、がむしゃらに……思わず出していた一撃だ。
だが……
「……ぇ?」
9秒、10秒。
時間が経つも俺の体は一向にグリルとならない。
(ど、どうして……?)
つむっていた目をゆっくりと開く。
そこにはーー
『ガゴ、ガ……』
左目と右目の間……眉間を境に真っ二つに切り裂かれたワイバーンの姿があった。
(いったい誰が……?)
この突然の、驚愕の状況を生み出した人物を探すため、辺りを見渡す。
ついでに……
「【レーダー】」
熱量を探知し、近くに何らかの生物がいるかを知らせてくれる便利魔法・【レーダー】を発動し、それをも生かして、調査を行う。
なのに、
(い、いない……?)
人ひとりどころか、ネズミ一匹の熱量すら探知されない。
じゃあ、なんで……?
「……【エヴァルーション】」
自分のステータスを知ることができる魔法・【エヴァルーション】を発動。
念のため、ステータスがどうなっているかを確認する。
「……!!」
ワイバーンの豪快な死体を見たときの驚きとは比べ物にならないくらいの、電撃のような驚きが俺の体を駆け巡る。
【エヴァルーション】は……こう示していた。
○テオ・アーターソンのステータス
レベル:100
攻撃力:99
防御力:91
敏捷性:95
魔力:90:
スキル:『マイナスマン』……対象のステータスの数値の一部を一時的に"マイナス"することができる。
「レ、レベル100!?なんでいきなり!?」
ワイバーンが強敵だとしても、レベルを最初期の1から上限である100まであげるほどの経験値を持っているとは思えない。
これに書かれている内容はあまりに非常識だ。
そこまで考えたところで、俺はハッとし、ひとつの仮説を思い付く。
「ま、まさか……」
その仮説が正しいかを検証するため、俺は『マイナスマン』を解除する。
すると……
○テオ・アーターソンのステータス
レベル:1
攻撃力:8
防御力:10
敏捷性:9
魔力:3
スキル:『マイナスマン』……対象のステータスの数値の一部を一時的に"マイナス"することができる。
「やっぱりか!」
俺の仮説を肯定する結果が表示され、思わず呟く。
ーーつまり、何が言いたいか。
『マイナスマン』を解除すると、ステータスが元に戻った。
そして、俺は自分自身のレベルに『マイナスマン』をかけていた。
……この異次元のレベルアップ(一時的だが)を起こした原因は言わなくてもわかるだろう。
そう。『マイナスマン』だ。
ここからはあくまで俺の推論だが……。
最小のレベル値である1。
それを『マイナス』したことで、"最小の値未満"となり、ちょうど円を逆周するような形で上限へとたどり着いたのだ。
まとめると、『マイナスマン』の"マイナス"が結果的に俺に奇跡的なプラスを与えることとなったわけである。
「最弱の力が最強の力への近道……最高の皮肉だな!」
これなら……あのパーティーから捨てられた俺でも……なんとかやっていけるかもしれない!
………………。
………………。
………………。
ーーと、そんな彼の物語は一旦、区切るとしよう。
無論、彼の人生はここで終わるわけがなく、より楽しく、より面白いものになってゆく。
しかし、当の本人がその事に気づくまではまだ少し……時間を要するのだった。
「続きが見たい!」「面白い!」と少しでも思っていただけたら、下記の☆☆☆☆☆で評価していただければ幸いです。m(_ _)m