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彼と会ったのは私が王太子の友人候補として城に上がっていた頃だった。
王太子と貴族子女一行とはぐれてしまった私は途方にくれていた。
まだ道順に慣れていなくてたくさん似たような扉ばかりでここが何処だかわからない。
心細くて、私は廊下の隅にしゃがみこんでしまった。
「どうした?大丈夫か?」
頭上から優しげな声が聞こえてきて上を見上げた。そこにはきらきらと光る明るい茶色の髪のお兄さんがいた。
少し強面でともすると怒っているように見えるかもしれない。私はお兄さんの瞳が私の様子を心配そうに見ていたのに気付いたので怖いとは思わなかった。
明るい茶色の髪と切れ長の黒い瞳が格好良いと見惚れてしまった。
「お嬢さん?どうした?具合い悪いのか?」
お兄さんが心配そうに顔を覗き込んでくる。
それに内心ひゃーと悲鳴を上げてしまった。
「だ、大丈夫です!あの、…迷子になってしまったんです」
迷子になったなんて話すのは凄く恥ずかしい。お兄さんに笑われないか心配になってしまった。
「……そっか。良かった。君は何処に行きたいんだ?」
お兄さんはよしよしと頭を撫でてくれた。ちょっと子供扱いが不満だが、手が優しくてうっとりしてしまう。
「テラスです。そこでお茶するって王太子様たちが話してました」
「うん。わかったよ。テラスならこっちだ」
私が立ち上がると手を繋いでくれて一緒に歩く。
歩いている時いろいろな話しをした。
お兄さんは辺境伯の嫡男でちょっと報告があり城に来ているだけで普段は自領にいるらしい。
一度記憶した道を覚えることが特技でだからテラスまでの道もわかるらしい。
「……もうお兄さんに会えない?」
「うーん。俺もいつまでもここにはいないからな」
「そっか……」
お兄さんともう会えないかもしれないと聞いて迷子になった時より心細くなる。
「そんなに悲しそうな顔するなよ。……そ、そうだ。なら手紙でも送るか?」
「手紙?」
「文通なら遠くにいる奴と手紙で話が出来る」
「やる!お兄さん。文通しよ!」
お兄さんは頭をよしよしと撫でると頷いてくれた。