ブルム~シュトイツ街道
始まりの町ブリムから出発して数日。今私はゆっくりと街道を歩いているよ。
町を出て街道を歩いてから少しすると、オークキングとオークの群れを倒しに行っていたっぽい冒険者達が鬼気迫る勢いで町に向かって走っていくのを見送った。先頭はフリードっていう冒険者さんだった。私は【隠蔽】で隠れて道の端っこに寄っていたよ。誰も気がつかなくて良かった。
それから更にしばらく街道を歩いていると、何かを探すようにして馬に乗った人が後ろから走ってきたけど、結局何も見付けられなかったみたいでしょんぼりした様子で帰っていった。何を探していたんだろうね?
その後は特に何事もなく数日が過ぎていった。途中で馬車を引いている商人さんとすれ違ったくらいかな。私は索敵魔法で察知してから【隠蔽】で隠れていたから向こうは気がつかなかったと思うけど。
あ、そうだ聞いてよ!レベル20以上もあるオークジェネラルとかレベル10以上のオークウィザード、更に追加でオークを10体以上も倒したのにレベル上がらなかったんだよ!経験値テーブルどうなっているの!?
っていうことで、どういうことなのかメル友の神様に聞いてみたよ。返答はこちら!
「悠里さん、スリリングなイベントをいきなり引いてしまいましたね。悠里さんは他の転移者達に比べて人の死に対して取り乱さないのですね。さすがは高い精神力をお持ちだと感心しました。ですが、せっかくの力です。もっと自分の使いたいように使っても良いのですよ?悠理さんには悠理さんの考えがあるでしょうから、そちらを尊重しますが…。
そうそう、質問の返答ですが、転移者はレベルアップでのステータスの成長が普通の人間と比べても非常に高く設定されている代わりに、レベル10以上からレベルが上がる必要経験値が極端に多くなっています。悠理さんが一人でオークキングとその群れを壊滅させていたらレベル10になっていたかも知れませんね。ジョネラル程度では全然足りないでしょう。
これからも悠里さんのことを見守っていますので、悠里さんは自由にこの世界を満喫して下さい」
だそうです。チートで無双してもレベルは上がりにくくなっているんだね。その分ステータスの上昇量は高いみたいだけど。私と同時期に転移してきた人はどうしているのかな?レベル上げに勤しんでいるのか、ハーレムでもしているのか、魔王を倒しに冒険しているのか…もし最後のだったら王都に行っても会えないじゃん。
しかしこの神様、私以外の転移者とかこの世界の人達のこともきちんと見ているよね?なんだか最初の頃に比べてメールの返答がマッハなんだよね。私が何しているかほぼ把握しているみたいだし、私しか見ていないなんてことないよね?ずっと監視していて、私がスマホを取り出したらメールの準備とかしてない?してないといいな。
私が神様について考えてながら歩いていると、突然なんだか妙な気配を感じて立ち止まった。とても言葉に出来ないなんともいえないような違和感でとても気持ち悪い。気になった私は街道から外れて草原の中を違和感の感じる方向へと歩いていく。
大きい丘を越えたちょうど盆地のように低くなっている場所に一本の大きい木を見付けた。ん~、周りにはちらほらと石が転がっているくらいで、大きい木以外に目を引くものは無さそう。私の感じる違和感はあの木の辺りかな。
木に近付いて見てみるけど特におかしなところは何もない。でも、何かがいるような気がするし、何かがおかしいような気がする。む~。気になる。なんなんだろう?魔法でいろいろと調べてみるけど、やっぱり特におかしいところはない普通の木だ。
ん?この木のすぐ前になんだか魔力を感じる気がする?でも魔力とも違う気がする。ホントに何さこれ?
段々とイライラしてきた私は、試しにMPのほとんどを使って周囲に魔力をドバーっと出した。そして、【索敵】スキルと【鑑定】スキルで周囲の反応を確認してみる。
おや?一ヶ所、私が違和感を感じた場所だけ魔力が吸い込まれるように無くなったね。でも【索敵】と【鑑定】どっちも何も反応しなかった。でも確かに何かがある。空間がゆがめられている?何かを隠している?なんかそんな感じがする。MP全部使って【空間魔法】で干渉すればこの変な空間を壊せるかも。やってみよう。
無くなったMPを回復させるためにまずはMPフルポーションを一気飲みする。うげぇ、マズ!でも吐いたら無駄になっちゃうから我慢しないと…。
涙目になりながらなんとか飲み干したら、さっそく【空間魔法】を使って変な空間をこじ開けてられるか試してみた。
MPを4000ほど使ってやっと隠れていた空間を感じるようになった。やっぱり、変な違和感はこれっぽいね。でも、私が街道で感じた違和感はこの中に隠れているやつみたい。まだこじ開けることは出来ないかな。仕方ないから貯蓄してあるMPフルポーションを手に取って、MPが無くなりそうならもう一本飲むことにしよう。出来れば使いたくないなぁ。不味いし。
MPが残り500を切ったタイミングで覚悟を決めてグッとMPフルポーションを飲み干す。まさか一日に2本飲むことになるなんて…。あぁ、不味い。吐きそう。涙が流れるのも仕方ないよね?だって不味いんだもん。必死に耐えたおかげでMPも全回復したよ。もう一本だけは勘弁してほしい。もう飲みたくないよ!
更にMPを使い続けて累計消費が1万を超えた時にようやく何かを隠していた変な空間を破壊した。すると中から虹色に輝く髪をした女の子が出てきた。え?なんかヤバイの出しちゃった?封印解いたとかそんな感じ?私、やらかした?
ていうか、明らかに特殊な空間魔法で閉じ込めてあったのに気付けよ私!?なんで普通に封印解こうとしちゃったのかな!?
虹色の女の子は眠そうに目を擦りながら大きく伸びをした。そして、きょろきょろと周りを見渡した後にすぐ傍で立っている私を見上げる。髪色と同じで不思議な虹色の瞳と暫し見つめ合う。なにこれ。私はどうしたらいいの?どうでもいいけどこの子めっちゃ可愛い。
すると今度は突然、すぐ近くで暴風が吹き荒れた。今度は何さ?もうなんだかよく分からないけど、どうにでもなれ!
暴風が晴れると、緑色の髪の大人の女性が立っていた。私の事など気にも留めずに虹色の女の子に駆け寄る。
「突然気配を感知して慌てて精霊界から来てみたら…何百年も前に人間達に召喚されてから消息が分からなくなっていたんだもの。何があったの?」
精霊界?え?人では無さそうと思っていたけど、精霊なの?ちょっと鑑定してみよう。…ふむふむ。ん?え…?
「ん~?人間達に召喚されて~?封印されたみたい~?でも~?この人が助けてくれた~?」
どうやら、この虹色の女の子は突然召喚されて突然異空間に閉じ込められたらしい。当時の人達は何がしたかったの?
そこで初めて私に気付いたかのようにまるで緑色の髪の女性が空色の瞳で私に視線を移した。私は彼女達の正体を【鑑定】で確認してからは成り行きに任せるために気配を消して立っていたよ。【隠蔽】まで使って隠れたのに全然効いていないね。
すると、女性は突然私に深々と頭を下げた。止めて!すごく恐縮するから!こんなことなら興味本位で鑑定しなければよかった!私の願いが届いたかは分からないけど、私に頭を下げた女性はすぐに頭を上げて、見惚れるほど綺麗な顔でにこりと微笑んだ。
「ありがとうございます。我らが同胞を助けて頂き誠に感謝いたします。この子は少しぼーっとしているところがあるから…それにしても、いくら何でも人間相手に捕まるなんて油断しすぎよ?」
「違うよ~?人間がきちんと封印出来る手段を用意していたんだよ~?わたしは訳も分からず捕まったのだもの~?」
「当時は精霊武器とやらを作るのに我が同胞たちを乱獲していましたからね。当時の忌々しい人間共はもうだいぶ前に滅びましたが、ですが、始祖精霊が捕まるなんて前代未聞ですよ。武器化するには力が強力過ぎたから即封印したのでしょう。」
「ほら~?わたしのせいじゃないよ~?」
「そもそも、簡単に召喚されるのが悪いのです。後で心配かけた罰として、精霊王に叱ってもらいますからね」
「そんな~わたし悪くないのに~?」
話が終わったようで虹色の女の子が立ち上がった。そして、何故か私の前まで来てマントを引っ張る。私が首を傾げて見下ろすと、虹色の女の子は上目遣いで私を見上げてきた。不思議な色合いの瞳が私の顔をじっと捉える。
「助けてくれてありがと~?名前、教えて~?」
素直に名前を教えると。虹色の女の子が満足したように笑顔になって離れていった。そのまま女性の隣まで移動して振り返り、私の顔を見ながら手を振る。
「ばいばい、ユーリ~?」
「ユーリ、貴女の名前は我らが王に伝えておきます。今回に関するお礼もしたいので、近々、また会いに来ます。改めて、この子を助けてくれてありがとうございました」
私が応えると、女性も笑みを浮かべて最後に一礼した。そして再び暴風が吹き荒れて風が止んだ時にはこの場には私一人だけが残った。まさに、嵐のような出来事だったね。
いや~それにしても驚いたね。始祖精霊だって。始祖ってことは最初に生み出された精霊ってことでしょ?絶対に精霊界の偉い精霊じゃん。また会いに来るってことは、また精霊と会えるってことだよね?それはちょっと楽しみかな。でも偉いのは止めてね。心臓に悪いから。
しかし、封印を解いちゃうなんて、これは私の異世界旅の流儀に反する様な…。まぁ、次からは気を付けよう。うん。意外と適当だな私。自分で言う台詞じゃないけど。
思わぬファンタジーな出会いをした私は、再び街道まで戻ると軽やかな足取りで次の街へ向けて歩みを進めた。
この出会いが、まさかあんな大変なことになるなんて、もちろん今の私が知ることもないのだった。